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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.5
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070 クラリス登場!

「ヴァンパイアハンター?」

 その言葉に聞き覚えはあった。

 でもそれはゲームとか。映画とか。そういったものの類で。いわゆるフィクションと呼ばれるようなものの中の設定の話だ。

「それって本当にあるの?」

 戸惑いつつ尋ねた。

「あるわ」

 はっきりとクラリスさんは断言した。

「生屍人や吸血鬼が実在することに、あんたは疑問をいだいてる?」

「それは……」

「抱いてるならアホ。悪いことは言わないから認めることをオススメするわ。いるの。吸血鬼も生屍人も。だったらそれを退治するためのヴァンパイアハンターがいたって不思議じゃないでしょ?」

 確かに……と思った。

 つい先日までは生屍人や吸血鬼の存在を軽く見ていた。つまりは作り物の中だけの話だと思っていた。しかし、現実にクドやあの公園内に蔓延る生屍人の群れなどを見て、そして戦って。それが現実のものであると認識は出来ている。

「じゃあクラリスさんがさっき言っていた……えーっと……なんだっけ? 結社?」

月神結社(イガルクファランクス)。簡単に言えば吸血鬼や生屍人を専門に討伐や除霊をする、いわばヴァンパイアハンターと呼ばれる者たちが集められて結成されている組織よ」

「組織……?」

「ええ。月神結社イガルクファランクスは国ごとにそれぞれの支部があるほどの巨大な組織なの。で、この日本支部のリーダー、あ。それを盟主(サークルリーダー)って呼ぶのだけれども。それ、私」

 少女は少しだけ誇らしげに胸を張る。

 僕は素直に驚いた。僕と同じ歳ぐらいの少女に見えるクラリスさんはそんなすごい組織に属していて、なおかつそこでリーダーを任せられているというのだ。

「じゃあクラリスさんは……その。僕を退治に来たの? だからそんなに僕と戦おうとしているの?」

 じいっとクラリスさんは少しだけ僕の目を見て、

「少し、違う」

「え」

「私がこの学校にやってきた目的は“悪疫”。そこの吸血鬼の存在を確かめ、それを退治するため」

「そ、そんな!?」

 一歩前に出て、慌てて弁明。

「クドは悪い子じゃないよ! それを一言で退治するだなんてひどいじゃないか!!」

 そんな僕に対し、クラリスさんは冷たく言い放つ。

「あんた。どこまで知ってるの?」

「え?」

「“悪疫”について」

「そ、それは……」

 正直に言ってしまえばよくは知らない。クドがクドラクと呼ばれる吸血鬼であることと、そのクドラクと戦うことを宿命づけられたクルースニクという存在がいること以外、何も。

「クドは……記憶を失っていて、よく自分のことを覚えていないらしいんだ。だから僕はクドのことはよく知らない」

「記憶を……」

 少し考え込むような表情で、クラリスさんが俯いた。

「ありえないわ」

 そして、すぐに顔を上げる。

「吸血鬼が記憶を失うなんてこと」

「ど、どういうこと?」

「吸血鬼は人の数倍の治癒力を持っているわ。それを持っているから滅多なことでは病気にはならないし、記憶喪失だなんていう厄介なことにはならないの。だったら答えは一つ」

 きっとクラリスさんはクドのことを見る。クドは少し驚いたような顔をして、

「そこの“悪疫”が嘘をついているってこと。自分の記憶がないと偽って、人間社会に溶け込むために」

 僕はそっとクドを見やった。

 嘘?

 クドの記憶喪失が。

 嘘、だって。

 ぶんぶんと首を横に振り、

「そんなことはないよ! クドは本当に自分のことを覚えていないんだ。過去の自分が何者なのかも知らないし、その上、そんな過去の自分の夢を見て、クドは悩んでるんだよ。そんな子がわざわざ嘘をつくために記憶喪失だと装うなんて、とても」

 露骨なほどうろたえた表情になった。クラリスさんはそんな僕の顔を見て、大きなため息を吐く。その表情はどこか憐れんでいるようにも見えて。

「あんたはどうして“悪疫”が悪疫などと呼ばれているのかは知っているの?」

「それは」

「じゃあ、いいわ。質問を変えましょう」

 クラリスさんはぴっと指を立てて、


あんたは悪疫って(ヽヽヽヽヽヽヽヽ)言葉の意味は(ヽヽヽヽヽヽ)分かる(ヽヽヽ)?」


 と、尋ねてきた。

「悪疫?」

「そ。そもそも悪疫(Pox)っていう言葉は流行り病のことよ。そんな名前で呼ばれている吸血鬼。あんたはそんな吸血鬼を信じるっていうの?」

「信じるよ」

 答えは早かった。そもそも悩む必要もなかった。

「クドがどんな呼ばれ方をしようが、クドが何者であろうとも。僕はクドを信じてる。クドは僕のことを助けてくれたんだ。そんな相手を信じないような生き方を僕はしていない」

 少なくとも。僕はそうやって生きてきたし、これからもそのつもりだ。

 クラリスは少し歯噛みをした。ぎゅっと。僕の耳にまで届くような音で。

「何も知らないからそんなことが言える」

 ぞっとするほど、低く、冷たい声。

「吸血鬼っていうのはね、そう言った良心を持っている人間に近づくの。そうやって欺いて、うそぶいて、隙を見せた人間を弄ぶのよ!」

 叫んだ。

 言葉の節々に吸血鬼への憎しみのようなものを感じた。真っ向からの否定。拒否。

 それが言葉に伝わって、僕の耳に届く。

「はっきり言っとく。私は吸血鬼が嫌い。殺してしまいたいほど。世界中の吸血鬼を滅ぼしてしまいたいほど。とにか~く嫌い。嫌い、嫌い、大嫌い。あんたもおんなじよ。久遠。あんたも吸血鬼の仲間なら容赦しないし、“悪疫”に噛まれたあんたも吸血鬼と同じなんだから」

 そして、唐突に耳を疑った。

「ど、どうして僕の名前を?」

 と、軽く息を呑みつつ聞いた。

 少女は、軽く舌打ちをして。

「八神環奈から聞いたし、あんたが“悪疫”に噛まれたっていう情報も月神結社(イガルクファランクス)に届いているから、あんたの名前ははっきりと知っている。それだけ。理解した? 久遠かなた」

 僕は少し怯んだ。でも聞かなくちゃいけない。

「どうしてキミは八神先生のことまで知っているんだ? 八神先生は関係ないはずじゃ……」

「大アリよ」

 え?

 と、聞き返す暇もなく。


「あの女だってヴァンパイアハンターなんだから」


 と、常識を知らない相手に常識を説くような口調でそう言った。

 八神先生がヴァンパイアハンター?

 そんなバカな……。

 と、思いかけて。

 とどまる。

 あった。あったのだ。心当たりが。

 クドは以前、

“うん。そのせんせーってのがよく分かんないけど、あの人とばっちり目が逢ったよ”

 と、言った。

 何気ない会話の一つ。

 確かに。あの人はクドのことを『見た』のだ。『目』を『逢わせ』、『見た』。クドがそう言っているのならそうなのだろう。

 頭を掻く。

 本当に……あの人は。

 だけど今はやめておこう。

 言いたいことはいくらでも心の底から湧いて出てくるけれど、()はやめておくべき。()でいくらでも、出来るのだから。

「話は分かったよ。キミがヴァンパイアハンターで、八神先生もヴァンパイアハンター。それは分かった。でも……もう一つだけ。どうして僕と戦おうとするの? キミの目的は“悪疫”……クドなんじゃないの。僕じゃない」

 そこだけは納得できない。理由もない暴力に従うほど僕はドMじゃない。はっきりとしてほしい。そこのところは。

「言ったでしょ」

 髪を掻き上げつつ、クラリスさんは、

「私があんたより強いと証明するため!!」

 話は終わりとばかりに再び懐へと飛び込んできた。

「認めるわけにはいかないのよ! あんたみたいなど素人が私より強いだなんて!」

 研ぎ澄まされた殺気をその身に纏って。

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