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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.5
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069 クラリス登場!

「……は、はい? なぜ? どうして?」

 意味が分からなかった。僕は目を覚ましたばかりで頭が回らないのに、いきなりそんなことを言われても困る。

「私があんたよりも強いと証明するため!」

 と、彼女の言い分ははっきりと言って意味が分からないと返す他ない。

「は?」

 目を丸くする僕。

 そんな彼女はとんとんとステップを踏みながら臨戦態勢。

 やる気マンマン。

 最早説明の必要はなしとばかりに、

「ごちゃごちゃとうるさいわね。戦えばいいのよ。戦えば。それとも生屍人ゾンビが相手じゃないと戦えないだなんて言い訳をするつもり? 戦う前から言い訳をするようなやつに、この私が! 負けるはずないでしょ!!」

「いや……あの」

 って?

 今、この子……?

「恨むんなら私を焚きつけたあの女教師。八神環奈を恨みなさいよね!」

「や、八神……?」

 あれよあれよと不可解なキーワードがクラリスさんの口から零れ落ちていく。

 それを確認したくとも、それは叶わない。

 クラリスさんは吠えるように、

「私は!」

 ダッシュ。

月神結社(イガルクファランクス)盟主(サークルリーダー)……」

 疾風のように駆け寄ってきて、一気に懐にまで入ってきた。そして右足をサッカーボールを蹴る時のように大きく振りかぶって、

「クラリス・アルバートなのよっ!!」

 蹴り上げた!

「のわ!」

 反射的に横合いに飛んでなんとか避けた。

「カナタ」

 と、少し離れた位置で僕に襲い掛かって来たクラリスさんを見ながらクドが僕に言った。

「がんばれ」

 そう言って給水タンクの上の机まで飛んで、そこに腰を下ろす。そこで祈るように手を組んで、

「がんばれ。カナタ」

 応援。

 どうやらクドはこの戦いに手を貸すつもりはないらしい。なぜかと問いかけたかったが、そんな時間はどうやら僕には用意されていない。次々に繰り出されるクラリスさんのキック攻撃。

 ジャブ、ストレート、ミドルキック。

 ジャブ、フック、ハイキック。

 キックボクシングのような手足を混ぜた高速のコンビネーション攻撃は避けるので精一杯だった。蹴り攻撃は言うまでもなく一撃喰らえばマズイが、それ以上に少女のパンチ攻撃もマズイ。彼女は手に一〇本の指輪をしているので、それがメリケンサックのような凶器と化しているのだ。

「そら!」

「うわ!」

 彼女は手と足の攻撃を絶妙なタイミングで織り交ぜてくる。タイミングは毎回攻撃するたびに変わるので、避けるのが非常に難しい。

 上から攻撃が来るかと思えば、すぐさまに下から突然ローキックが飛んでくる。

 それをなんとか体をねじってかわす。

「な!」

「しゅ!」

「ほ!」

「しゅ、しゅ!」

「や!」

 女の子みたいな悲鳴を上げつつ、四方八方から飛んでくる少女の攻撃をかわし続ける。クラリスさんがにやっと笑って、

「へえ。やるじゃない。身のこなしだけは一人前ね!」

 彼女の戦い方は戦いに慣れている熟練された傭兵のようなものであった。力強さは当然として、足運びが完璧である。口調自体は荒々しいものであるのに対し、流水のように流れるような足運びで常に自分と相手の間合いを測っている。上体の動きを支えるだけでは飽き足らず、その動きで相手を翻弄。理に適っている。

 基本はボクサーのようなステップを踏みながら、ジャブやストレートのような小技を連発。普通であれば、その攻撃は牽制の意味合いが強いはずなのだが、少女の指にはめている指輪のせいで小技のはずの攻撃は十分な破壊力を秘めている。

 なので、

「ちょ!」

 それをかわそうと頭を防御。もしくは上体を反らす。

 すると、少女は頭を防御するか、上体を反らして攻撃を避けようとするかで次の攻撃の起点を変える。

 例えば頭を防御しようとして腕を頭の前に持ってきたとする。

 腕を目の前で交差させると、必然的に視界が遮られてしまう。そこを少女は見逃さない。視界外からの奇襲!

「そうら! 隙だらけ!」

 少女はいつの間にか体を回転させて、スカートがひるがえり、少女の足が飛んでいた。

 頭部を防御している隙を逃さずに、クラリスさんのすらりとした足が素早く、しかし的確に。畳み込まれるように回転して烈火のような勢いの回転蹴りが僕のお腹に打ち込まれる。まともに喰らえば、反吐を吐いてのたうち回るような必殺の一撃。

 常人ならこの攻撃を喰らえば一撃で終わり。

 咄嗟に、

「ぐ!」

 頭を防御していた腕を少し下にずらして、肘でその蹴りの軌道をわずかに逸らす。

 蹴りは確かに腹を抉るように入ったが、直撃ではない!

 回転蹴りの勢いでそのまま後ろに吹っ飛んだが、傷は浅い。

「い、いきなりなにすんのさ! あ、危ないだろ!」

 両手を上げて抗議。

 とにかく自分は驚いていた。なんでいきなりこんな殺気の籠った攻撃を浴びせられなければならないのか!

 クラリスさんもまた少し驚いたような顔をしていた。

「落ち着いて! ちょっと落ち着いて、話をしよう!」

 手で制止を促すようなていを取る。とにかくいきなりすぎる。

 あらかたの攻撃をかわし終えると、クラリスさんとの距離を取って話をしようと試みた。

 だが、

「ふ、ふふ!」

 クラリスさんは不敵な笑みを浮かべていた。どう考えても話が通じている様子ではなかった。

「なるほど……ただの変態じゃないってわけ……」

「ぼ、僕は変態じゃないよ!」

 そこだけは断固として否定しておく。

 どうやら彼女と僕の間では大いなる誤解があるようだ。

 確かに僕は彼女のパンツを見てしまった。それも三度も。

 一度、二度が事故であるならば三度目は一体何だと聞かれれば、僕は真っ直ぐにこう言う。

「だ、だからごめんってば~! 本当に申し訳ないと思ってる。でも、事故なんだよ。クラリスさんの下着を覗いてしまったのは!」

 とにかく僕は何度でも土下座をする覚悟はあった。それだけで許してもらえるとは思ってはいないけど、とりあえずそれぐらいのことはしてしまったのだとは思っている。

 でも。それにしても……。

 この子は一体何者なのだろう。

 昨晩の時に軽く思った考えとは違い、今は本当に何者なのかを考えている。

 彼女は確かに言った。

 ――生屍人と。

 それに。

 その言葉に続くキーワードとは思えない言葉。

 八神環奈。

 僕の先生の名前。

 繋がらない。その言葉が。どうしても。

「一つ、聞かせてはくれないかな?」

 クラリスさんの表情がわずかに歪んだ。それでも僕は聞かずにはいられなかった。

「キミは一体何者なんだ? どうして生屍人のことを知っているんだ?」

 少女は僕を睨んだまま、動かない。

 やがて、

「は。本当に何も知らないのね。そんなど素人を評価するあの女は、本当にバカだわ」

 髪を掻き上げてから、

「いいわ……」

 少女が口を開く。

「何も知らない相手をぶちのめしたところで私の評価が上がるとは思えない。本気を出さないかもしれない。だったら、素性を明かした方がマシ。本気を出していないヤツを倒したところで意味なんてないわ」

 指輪が鈍い光を放つ。


「改めて。私の名はクラリス・アルバート。吸血鬼を狩る者。俗に言うヴァンパイアハンターよ」

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