067 クラリス登場!
久遠かなたが気絶をして、すぐ後。
クラリス・アルバートはいい加減、腹を立てていた。この変態に三度も下着を覗かれたことも。
そして八神環奈がこの変態男のことを称賛しているという事実に。
なにより、この変態男のことを心配するようにして、さっきから、
「おい! カナタを離せ!」
自分の後ろを浮遊しながらついてきている少女のことが。
銀髪で褐色の子供。
間違いなく、ソレは情報にあった“悪疫”と呼ばれる吸血鬼であった。
「はん! 返してほしかったらやり返せば!」
かなたの足を掴んでクラリスはどんどん階段を登っていた。かなたの頭や腰がさっきからガンガン階段の角や廊下の隅にぶつかっているのに、クラリスはそんなことに構う素振りすら見せずに怒り狂った足取りで階段を登っていた。
しかし、
「ダメだ。それは……出来ない」
褐色の吸血鬼はそれを拒否。
理由は、
「カナタならこれぐらいで怒ったりはしない。だから、カナタのためにもわたしが手を出すわけには……」
という訳の分からないもの。
なんなの、こいつ。こいつのことを取り返したいのか取り返したくないのか、一体どっちだってーの!
どいつもこいつも。こんなやつがなんだってんのよ。
(こんなの、ただの変態じゃない!)
クラリス・アルバートはとにかく我慢ならなかった。
自分より誰かが強いと評価されるのが。
それが明らかに“嘘”で。もしくは身内びいきが強いものならばなお更。
(コレが私より強い? ほんと、ありえない!)
彼女はとにかく強さに固執している。
(私の方が強いに決まってるじゃない!)
それはまるで呪縛のように、
(私は……月神結社の盟主なのよ……)
クラリスが初めて辛そうな横顔を見せた。
(強くならなくちゃいけないの。絶対に……!)
ぐっと歯噛みをして、前を向いた。首を振って頭の中に浮かび上がる考えを無理矢理霧散させる。今は、そんなことを考えている場合ではない。とにかくこいつが自分よりも弱いということを証明しなければ。
(私は認めない。こんなのが私よりも強いなんて! そんなこと!)
わざわざ確認するまでもないことだけど。
自分がこの男を屈服させることが出来れば、あの女だって私の評価を改めるはず。そうすれば、自分と本気で戦う可能性だって出てくる。そうすれば……あの狐神と戦うチャンスが巡って来るかもしれない。狐神と呼ばれる吸血鬼と戦えば、おのずとそれが経験になるはず……。
そうすれば今よりももっと……。
と、その時。
クドラクが何だか気の毒そうな顔になった。そして、
「お前も……」
と、小さな声で何かを言った。しかし怒り心頭なクラリスにはその声が届いていなかった。
「!」
階段の一番上まで登ってくると、クラリスがばんと屋上の扉を開け放った。
「ほら! あんた! とっとと起きなさい!」
クラリスは掴んでいた足ごとかなたの体を屋上の中へと放り投げる。
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