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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
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065 クラリス登場!

 学校は今、お昼休み。

 各教室の扉が開け放たれ、教室の中では購買で買ったパンや家から持ってきた弁当を食べながらにぎやかな談笑を繰り返す生徒たちの姿。

 元気が抑えきれない男子生徒はそそくさと昼食を済ませると教室の中のロッカーに入れていたボールを持って高校生という身分も忘れて小学校の男の子の如く寸暇すんかを惜しむように廊下を駆けていき、男子生徒が聞いたらドン引きしてしまいそうな内容の猥談を人目も憚らず、和気あいあいと話している女子生徒。

 何とも平和な光景だった。

 そんな中、僕は前だけを見て必死な形相で廊下を駆けていた。というか逃げていた。

 嫉妬心は恐ろしい。

 神様も嫉妬だけで神々を殺したことがあるとどこかで聞いたことがあるが、本当に本当だった。今まさに、僕もクラスの男子生徒に殺されそうになっていた。

「待てい!」

「どこで知り合った!」

「一発殴らせろや~!」

 とにかく振り返るのも恐ろしいぐらいの怒号。

 ひ~。

 何で僕は追いかけられているんだ。

 訳が分からない。

 でも、逃げなきゃ殴られるし。

 だから逃げる!

「あーもう! だから知らないんだってばさ!」

 体力的に逃げること自体は簡単だった。

 吸血鬼になったおかげで身体能力が上がっているので、追いかけてくる男子生徒からどんどん距離は離れていく。これなら簡単に逃げられる。

 問題は。

 本当に異様な執着心で男子生徒が追いかけてくるので教室からどんどん離れていくことだった。

 月城高校の校舎は一階に三年生の教室、二階に二年生の教室、三階に一年生の教室が並んでいる構造になっている。

 久遠かなたが所属する一年B組の教室は西校舎最奥から見て三番目の部屋で、ちょうど階段とトイレが並ぶ場所の手前にあった。

 だけどそんなところはとっくに過ぎていて、せかせかとした足取りで、

「よっと!」

 階段を飛び降りた。

 今、現在の場所は二階。

 大分撒けた。

 逃げることに関してはもう誰にも負ける気がしない。

 ふふん。

 少しだけ勝ち誇ってみたりして……。

 はあ……。

 まあ、とりあえずは助かった、のかな?

 と、一時の安らぎを手に入れた僕が廊下の隅の方で壁に背中を預けている最中、クドが不可視の状態でふわふわと浮きながら、何やら頭を抱えていた。

「うーん」

 と、何かを考え込んでいるようで、

「クド?」

 僕がそう声をかけるとクドが腕を組んだまま、

「カナタ」

「なに?」

「一ついいか?」

「いいよ?」

 何やら深刻そうな面持ち。

「なんでお前は追いかけられていたんだ?」

 ずるっとこけた。

 はは……。

 やっぱり分かってなかったのね……。

 そりゃそうだ。

 クドは熊田さんがなぜ起こっていたのかも理解出来ないほど男女の機微に疎いのだ。だったら男子生徒が僕を追いかけ回した理由も分かるはずもなかった。

 この子の場合……。

 性知識よりも先に男女の関係についてもっと教えてあげた方がいいのかもしれない。

 と、真面目に思った。

 好きとか。嫌いとか。そういう分かりやすい感情について。

 頬を掻きながら、

「まあ。簡単に言えば羨ましいからじゃないかな?」

「羨ましい? なにがだ?」

「何がって言われてもねぇ……。あの子が可愛いからじゃないかな?」

「あの子?」

「だから、多分熊田さんのことだよ。遠目から見ただけだったけど、多分校門のところにいた子って熊田さんだったんじゃないかな。その熊田さんってキレイで可愛いかったでしょ? だからそんな可愛い子に慕われてるって勘違いしたクラスの男子が僕を追いかけ回してたってわけ」

 と、客観的な事実を的確に述べる僕。たぶん間違ったことは言っていない。

 そろそろ休憩は終わりにしよう。前を向いて歩きだす。

 なので気が付いていなかった。

 クドが後ろで、

「むぅ」

 ぷく~っと頬を膨らませていることに。そしてクド自身もなぜそんなことをしてしまったのかを理解出来ていなかった。

「クド?」

 振り返った時にはすでにクドのお餅は熱が冷めていて、ぺったりとしていた。

「なんでもない!」

 と、クドがなぜか怒っていることに首を傾げる。

 なに……怒ってるんだろ?

 と、その時。

「あ」

 思わず声を発する。目の前を栗栖さんが通り過ぎていったのだ。栗栖さんは男子生徒に交じって僕を追いかけてきていたので、きっと僕のことを探しているのだろう。……僕の姿は人波に隠れて見つけることが出来なかったのだろう。人波の奥できょろきょろと僕の姿を探していた。

 僕は。

(ごめん!)

 と、反射的に心の中で謝罪して身を隠す。

 何となく今見つかるとややこしいことになる。

 直感的にそう思った。

 人波を利用しつつ、僕は階段を登って行った。

 幸いにも栗栖さんがこちらに気が付くことはなかった。そろりそろりと階段を登って、こっそりと三階へと戻る。

 と。

 視線が栗栖さんに向いていたせいで前がちゃんと見えていなかった。

「え! ちょ、ちょっと!」

 そんな声が聞こえてくる。

 へ?

 と、思った時にはすでに遅かった。ちょうど階段の中間ぐらいのところで顔に何か硬い板のようなものにぶつかって、そのまま、

「あ! カナタ!」

 というクドの声を聞いた後、バランスを崩して、階段からごろごろと崩れ落ちていく。

 必死にバランスを戻そうとして目の前の何かを掴んでみたものの、バランスが九割も崩れていては、どうしようもなく。

「う、うわああああああああああああああああ!!」

 階段の上を滑り落ちて、勢いそのままでお腹を打ちまくった。……ものすごく痛い。

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