059 クラリス登場!
それからしばらくして、件の少女は月城町が誇る森林公園の中のベンチで座りながら自動販売機で買ったジュースを飲んでいた。
「あり、えない!」
とにかく少女は不機嫌だった。
ジュースを一気飲みして缶を握り潰す。
缶をあの変態のクソ馬鹿野郎に見立てて、とにかく潰しまくった。めきょっと形が歪んだ缶をさらに地面に叩きつけて、原型が留まることのないようなレベルで踏みつけ、最後にその缶を蹴り上げて、空中でこま切れにした。
それでもすっきりしない。
缶に八つ当たりをしたところで気分は一向に晴れない。
「くそ!」
どかっとベンチに座り込むとお行儀悪く足を組んで空を見上げた。
月が見える。
それすら腹が立つ。
とにかく、とにかくすこぶる機嫌が悪い。
男に下着を見られたことに腹が立つのもそうだが、自分の一番お気に入りの下着を馬鹿にされたような気がして、とにかく気分が悪いのだ。
あいつに馬鹿にされているみたいで。
とにかく。
とにか~~~~くムカつく!
何か腹いせで生屍人共を細切れにして回ろうかと少女が邪悪な笑みを浮かべ、思案していると。
てりりりり~♪
可愛らしい電子音が鳴り、彼女の胸ポケットの辺りが明滅する。彼女の持っているスマホが鳴ったらしい。彼女は無視しようとも思ったが、仕事の話なら困ると思い、むしゃくしゃする思いを押し殺して電話に出ることにした。
「もしもし!」
とにかく機嫌の悪い声だった。
間違い電話だったら殺す! ぐらいの勢いはあった。
「ち、あんたか」
少女は電話に出たことを後悔した。
よりによって電話の相手が自分が今、最も聞きたくない声の主だったからだ。
しかし、一応こいつは仕事の内容を伝える役目もある伝達係なので無下には出来ない。仕方なしに少女は電話の主と話す。
「え? 機嫌が悪そう? 知るか!」
やっぱり電話の相手は嫌らしくそこをついてくる。だけど絶対になぜ自分が機嫌が悪いのかを話すつもりはない。足を貧乏ゆすりして、聞き流す。
「で! なに! くだらない用なら切るから。え? 今どこにいるか? 月城よ。月城町。あの公園の中にいるわ。ここ最近生屍人の増加傾向があるから一応確認のために寄ったのよ。……まあ、確かに増えているみたいね。今日だけで一五、六体の生屍人は狩ったわ。明らかにこの公園内で生屍人は増えている。繁殖出来ないはずの生屍人がね」
打って変わって冷静さを取り戻す少女。
「やはり月城町にはいるわね。“吸血鬼”が」
と、ここで少女が耳を疑ったように、
「え?」
聞き返す。
「いま、なんて?」
姿勢を前に倒して、足を下ろす。それだけ少女は耳を疑ったのだ。
今、この男……なんて?
「別に驚いてない。普通に聞いてるだけ。で? もう一回聞くけど。その情報に間違いはないの?」
電話の主は肯定した。
少女は笑って、
「“悪疫”がこの月城町にいるって情報は本当なんでしょうね?」
またもや電話の主は肯定の意。
スマホを握る手に力が入る。思わず握り潰しそうになった。
「で? その“悪疫”の特徴は?」
少女は“悪疫”と呼ばれるモノの存在は知っていた。恐ろしく強い吸血鬼だということぐらいは。
だがそれは知識としての知っているだけで、その存在の詳しい情報は何一つ知らなかったのだ。
問いに、電話の主は答える。
「ええ。見た目は子供。……よく聞く話ね。ええ。え?」
そこで電話が切れ、スマホを胸ポケットに仕舞い直す。
少女は復唱。
“悪疫”の情報。
それは。
「長い銀髪の褐色の肌の持ち主」
めちゃくちゃ心当たりがあった。
「長い」
ありまくった。
「銀髪で」
疑いようのないレベルで。
「褐色の」
あった。
「子供」