058 クラリス登場!
「申し訳!」
渾身の。
「ありませんでしたー!」
土下座。
地面に頭を擦り付けて、プライドもなく土下座する僕。
へたれだの情けないだのと揶揄されようとも今はそれぐらいしか思いつかなかった。
土下座をしながら、
(この子……一体、誰なんだろう?)
と、思っている。
少女の怒りは僕の顔が倍ぐらいに腫れ上がっていても収まる様子はなく、少しでも目線が逢うと殺されそうな殺気を向けられるので、
「ひっ」
と、慌てて土下座の体。
少しでも視線を逢わせないように必死だ。
へたれ。
どうも僕はこの子に相当嫌われてしまっているらしい。共に僕もこの子のことを一発で苦手になる。
まあ……誰が悪いのかと言われば。アレだ。政治が悪い。
ふん、と鼻を鳴らして僕を侮蔑するかのような瞳で見下ろす少女。腕を組んで、時折、指を細かに動かしている。癖、だろうか?
少し気になって視線を上げる。
と。
「なに、見てんのよ」
少女がぎろりと半眼で睨む。
ものすっご怖い!
ほとんど条件反射で土下座。
「おい!」
しくしく泣いている僕を見かねて、クドが憤慨している少女に声をかけた。
「なによ」
「もういいだろ。そろそろ許してやったらどうだ?」
「はあ?」
少女の眉がぴくりと動く。
あ、これ……アカンやつや。
されどクドに気が付いた様子はない。そもそもクドはなぜこの子が怒っているのかを理解できていなかったらしい。
クドは僕と少女との間に流れている険悪な空気を一切読み切らず、あっけらかんと、
「別にいいじゃないか、ぱんつを見られたぐらいで、そんな。大人げない」
言い切る。
「は、はああああああああああああ!?」
少女が訳も分からずに僕を見た。
何か、目が語ってる。
こういう教育してんの!?
みたいな。
クドは変わらず、一切の、些細の、空気を読まずに続ける。
「うーん。どうしてお前はそんなに怒ってるんだ?」
と。
目の前で信じられないことが起こる。
「そんなに変なぱんつだったかな。もう一回見せて」
ばさ。
「「え」」
出逢ったばかりの僕と少女の声がシンクロする。
ほぼ同時に声が漏れた。
一人は戸惑って。
もう一人は怒りで。
クドは何の脈略もなく、少女のスカートをたくし上げた。
その結果、少女の純白の下着が月光の元に晒される。
あまりの超展開に視線を逸らすことが出来なかった。僕としては少女の下着を見るつもりなどなかった。顔をぼこぼこにされて、またもやパンツを見ようとするなどと考えること自体が僕の中になかった。そこまでしてパンツを覗きたいと思うような変態ではなかったし、そもそも僕はこの子が怖いのだ。だからそんな勇気は一切ないことを高らかに宣言する。
だが、少女としてはそうは思っていなかったのだ。
少女は、ぶちりと切れた。
少女からすると、それはそれは信じられない行いであった。
男の前。しかもつい先ほどに不慮の事故とはいえ。パンツを覗かれた相手。その相手の前で、またもや下着を露出された。信じられない、ありえない、許し難い行いであった。
「な、な、な、な!」
少女は顔を真っ赤にした後、
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」
声にならない悲鳴を上げる。羞恥心で全身がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
クドはそんな少女の羞恥心など露知らず、依然スカートをたくし上げたまま、少女の下着をまじまじと見つめ、
「くまだ!」
と、叫んだ。
く、熊田?
誰でしょうか、その人は?
この子の名前?
でも……この子、日本人じゃないような見た目をしているけど……?
それに……クドって漢字読めるの?
「く、くま……?」
僕の思わず口から零れた言葉にクドが、
「うん! くまだ!」
と、答える。
無邪気に。
とても楽しそうに。
その言葉をきっかけに、少女が僕を蹴りまくる。げしげしと何度も。容赦なくヤクザキック。
「ちょ、え、ま、ぼ、ぼく、ぶば、な、なんで、ぼ、ぼく、ぐは、た、たい、たいむ、た、たす、ぶべら!」
「ふん!」
後頭部に少女の革靴がめり込んでいる。起き上がることすら出来ない。なので、ここからは全て会話だけしか見えない。彼女がどんな顔をしているのかも、クドがどんな顔をしているのかも。
「なあ、どうしてそんなに怒っているんだ?」
「う、る、さ、い! ってかいい加減に離しなさいよ、このガキ!」
「ああ、すまない」
ふぁさっという布が擦れる音。
「あーもう最悪! 最悪最悪最悪!」
「お前やりすぎじゃないのか? ぱんつぐらいで」
「ぐらい……ですって?」
「うん。わたしなら別に怒ったりしないと思うぞ。ぱんつぐらい見られても」
それに、と。クドは続けざまに、
「かわいかったぞ。そのくまのぱんつ」
「ふん!」
「ばび!」
物を言わずに僕の頭を踏みつける少女。
べしゃ!
理不尽かつ横暴。
どこかの先生みたいな人だ……。
「ふーむ……やはり分からない。どうして怒っているんだ?」
と、ここで。
「恥ずかしいからに決まってるでしょ!」
後頭部から少女の足が離れて頭を上げることが出来た。ゆっくりと顔を上げる。
少女は相変わらずぷりぷりと怒っていて。
クドは指を顎に当てて、首を傾げている。
「はずかしい?」
そしてゆっくりとクドは自分のスカートに手をやる。
「これが?」
と、クドは自分のスカートをたくし上げた。
きょとんとして。
「ぶ!」
「な!」
二人はすごい慌てた。
ぶんぶんと手をばたつかせて、クドのスカートをたくし上げている動作をすぐに下ろさせる。でもやっぱりクドは不思議そうな顔をしていた。
「だ~か~ら~……クドぉ……そういうのは人前でやっちゃダメなんだってば~」
「あ、そういえばそうだったな。すまない」
「もう~」
顔を真っ赤にして悶々とする。というかいい加減この子の羞恥心のなさ、ひいては性知識の乏しさはなんとかしないといけないレベルなのではないのだろうかと本気で悩む。あまりにも目に余るものがある。自分の前だけならまだしも。い、いや! 自分の前ならOKって訳じゃなくて! と、とにかく人前でこうもあっけらかんとスカートを捲り上げてしまう行為をやめさせなければ、いつかとんでもないことになるのではないだろうか。クドは見た目だけで言えばいい年頃の娘さんなのだから。
う~ん。
でも一体どうしようかね。
クドにそういうの教える方法。
もっと明確に言うと。
性知識。
砕けて表現すると、えっちなこと。
そういうのって。
どう教えたらいいんだろう。
ってか。
言えるかあああ――――!?
小さな年頃の娘に教師でもない僕が性知識を植え付ける。
もう。
もう、それは。
変態だ。
ロリコンっていう名前の。
変態。
「変態にはなりたくないなぁ~」
と、思わず呟く。あはは、と笑う。
すると、
「もうなってんでしょうがああああああああああああ!」
と、少女の声に振り向き様。
「ぶぼ!」
頬にめり込む足。
少女が回転蹴りを喰らわす。
くるくる回って飛翔する僕の体。
「死んでろ変態!」
捨て台詞を吐いて、少女が背中を向けて去っていく。
空を飛んでからしばらく経って、僕の体が地面に激突。
「ほんと」
僕は少女が去っていく背中を見ながらぼそりと呟く。
「なんだったんだろう……あの、熊田さんって人」




