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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
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055 かなた、狐と遭遇す

 深夜。

 誰も寄り付かない公園の中で一人の女が何の気負いもなしに立っていた。

 火の点いたタバコを咥え、ポケットに片手を突っ込み、色気の欠片もなく首を鳴らし、まるで面倒事を無理に引き受けてしまった自分を呪うように。

「そら、さっさと終わらせるぞ。お前らにそんな知恵はねーはずだ。こそこそ隠れてねーで出てこいよ。それとも動物的な本能がそうさせてんのか? だったら無駄だぞ、無駄。お前らの臭いは俺の鼻にちゃ~んと届いてんだからよ」

 そう誰にともなく話しかける。

 公園の茂み。そこがガサゴソと揺れ、

「あん?」

 近くにあった巨木が大きな音を立てて、地面を揺らすほどの衝撃を残して倒れた。そしてその大木の欠片が女目掛けて殺到していった。

「ち!」

 女は面倒臭そうに舌を鳴らしてから、後ろ髪を掻き上げる。体勢を低くしてから、アウトボクサーのようなステップを踏んで距離を取る。

 指を鳴らして、

「めんどくせー」

 ため息を漏らしつつ、その指を木の破片の飛んできた方へと向ける。

「八神流」

 と、唱える。

 すると、彼女の目の前に青い炎の球が浮かぶ。音を立てて、いくつもの火の玉が辺りを照らしていく。

 そして人差し指をぴんと伸ばして、

破邪滅却(はじゃめっきゃく)狐火きつねびくれない』!』

 その指先に霊力が集中する。すると、目の前に浮かんでいた炎が真っ赤に染まる。紅くどこまでも真っ赤な炎。焼き尽くすことを顕現けんげんするかのような炎。見た目以上の熱量を秘め、辺りの気温を上昇させる。

 そしてその炎が彼女の身を守るように飛んできた木の破片を燃やし尽くす。

「一応」

 と、ここで。

 彼女がそこで指の動きを止めた。茂みがびくりと動いたように見える。

「ここ、燃やす訳にはいかねーのよ。だからさ」

 たん、と。疾駆。

 一気に駆けて、茂みの中に両手を突っ込んだ。

「出てこいやああああああああああああああああ!!」

 そして、そのまま。

 何者かをバックドロップ!

「グワァ~!」

 と、茂みの中からバックドロップをされたのはやはり生屍人ゾンビだった。

 脳天直撃。

 生屍人は訳も分からずに痛みにのたうち回っている。ごろごろとうごめいていると首が取れた。熱と衝撃に耐えかねたのだろう。

 その取れた首目掛けて、一つの炎の球が猛スピードで突っ込んでいき、首を蒸発させる。彼女はわずかに目を細め、タバコの煙を噴かす。

「はい、一体」

 と、首が無くなった生屍人の体を踏みつけて炎の球をぶつけて焼却。

「つーかよ」

 タバコをもう一度咥え、

「もう、めんどっちぃから一気に出てきてくんねーか。一応、明日授業があるんだわ」

 と、女が呟く。

 その次の瞬間、今度は巨木の塊が彼女目掛けて飛んできた。

 女は、

「はー」

 と、大きなため息をついた。

「なんだそりゃ? 猿の一つ覚えか? 薙ぎ倒した木をぶん投げるだけか、こら? ちょっとは成長してんのかと感心したオレの立場はどーなんだ、おい? ま、生屍人程度じゃそんなもんか。期待したオレが馬鹿だったよ。ま、でも。でも、まー一応考えてるくせーけどな。正解だ。『紅』じゃ、これは燃やせねーわな」

 とんとんと首筋を叩く。

 こきこきと首を鳴らしてから、

「けどな」

 気が付けば彼女は人差し指を上げていた。

「無駄なんだよ、無駄無駄」

 今度は目に見えるほどの霊力が指先に集まる。

 茂みが狼狽える。

「破邪滅却・狐火『業火ごうか』!」

 瞬間的な爆発が起こり、辺りに轟音が響き渡る。

 炎は巨木をいともたやすく包み込んで、三秒も満たず燃え尽きた。しかし炭となった木は勢いを殺すことなく彼女のところへ目掛けて飛んできた。

 だが、彼女は動かない。

 代わりに、

「おせーよ」

 と、言った。

 背後で、

「わん!」

 という狐の鳴き声。

 一度吠えた後、狐は跳んできた巨木目掛けて突進。

 飛んでくる巨木の炭。

 速度を上昇し続けて突進する狐。

 交差する。

 次の瞬間、

「ひゅ~♪」

 と、女が口笛を吹いた。

 そうするべきと思わせてしまうほどの光景が目の前に広がっていたのだ。

 つい数秒前まで殺気を込めて飛んできていた巨木の塊が跡形もなく消え去っていたのだ。炭も、灰も。木片すら残さず、そこにあったという現実さえ燃やし尽くした。

「相変わらず……馬鹿みてーに強いな、かがり。さすがは八神に仕える唯一の狐神(きつねかみ)ってところか」

 女はおすわりをして首の裏を呑気そうに掻いている狐を見やる。

「まあ、いいや。とっとと仕事を終わらせるぞ」

 言いながら指を動かして茂みに隠れていた残りの生屍人を炎の球で炙り出す。

 出てきたのはやはり生屍人の群れだった。

 数えるのも面倒なほど、生屍人は大群で茂みに隠れていたのだ。

 が、そんなことは女には関係なかった。

 数がどれだけいようとも今の自分たちには関係ない。それだけの力関係が女と生屍人の群れの間に生まれていたのだから。

 気怠そうに、人差し指を生屍人の群れに向ける。

 すると、

「わおおおおおおおおおおおおん!!」

 と、狐が遠吠えた。

 それと同時、

「破邪滅却・燐火(りんか)×二『紅蓮ぐれん』!」

 と、唱えた。

 二方向から。

 一斉に炎の波が吹き出した。それは津波のように生屍人の群れを呑み込み、生屍人たちは凄まじい灼熱に襲われ、のたうち回る。しかしどれだけ足掻こうともその炎の波が止むことはなく、辺りの空気ごと生屍人たちの体を蒸発させた。

 灼熱の激流が、真紅の波が、塵も残さずに燃やし尽くす。

 気が付いた時には女の頬に汗が滲んでいた。

 女は汗を拭って、

「あち」

 と、軽く言う。

 そして、その後すぐに、

「恐ろしいわ、いや、ほんと」

 狐を見やって、


「これだけの威力。これだけの威力をかましといて、かがり。お前、手加減してる(ヽヽヽヽヽヽ)んだもんなぁ(ヽヽヽヽヽヽ)~」


 と、笑った。

 対し、狐は「ふぁ~」と大あくび。女の言葉を聞いてすらいなかった。

「ってか」

 と、女はそこで何かを思い出したように半目で狐を見る。

「お前どこ行ってたんだ?」

 狐はびくりとして、そっぽを向いた。

 ちょっとだけ苦笑した。女は半目で睨みつつ、

「好きだねぇ~お前。あいつ」

 狐は。

 こくこくと頷いた。女は豪快に笑った。

「わははは! マジかよ、くく……は、腹痛ぇ……」

「……」

 狐は恥ずかしそうにして、本当に奇妙なことに顔を赤くしているように見える。

「このストーカー」

「わんわんわん!!」

「わはは!」

 女はひとしきり笑うと、目尻に浮かんだ涙を拭う。

 そしてにやりと笑って、

「ま、お前が誰を好きになろうと勝手だ。好きにしろ。ただ」

 指を狐に突きつける。

「しばらくはこの公園の生屍人の掃除がある。それまでは出来るだけ接触はするな。監視は続けるけどな」

「わん!」

「それは任せろって? くくく。おめーがそうしたいだけだろ」

「わん!」

 吠えた狐に小さく頷き返す。

「ああ。よりによって“悪疫”が憑いているとはな。自覚ナシか。互いに……な」

 女は、ぺっとタバコを地面に吐き捨てる。そのタバコの吸い殻を狐が見やると、ぼ! と音を立てて燃え尽きた。

「ま、好きにしな」

 新しいタバコを咥えるとその先に小さな炎が灯る。

「ありがとな、かがり」

 女はうーんと背筋を伸ばして、

「さ、今日は帰ろうぜ。あ~あ……明日も学校か。面倒だな~」

 そう言ってその女。

 八神環奈(やがみかんな)は狐と共に公園を後にした。

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