054 かなた、狐と遭遇す
狐は結局自分の後ろをついてきた。
背中に酔い潰れた高校生の女の子。後ろに野良(?)狐。中々シュールな光景だと思う。
別に追い返そうとはしなかった。一度噛まれはしたがそれ以上何かをしてくる訳でもなかったし、それにその内どこかへ行くだろうと高を括っていたから。
しかし僕の考えとは裏腹に狐はどこかに行くことはなく、僕の後ろを犬の散歩をしている飼い主の後ろについてくる犬のようについてきた。
「ねえ、どうしてついてくるの?」
と、聞いてみた。そしてすぐに笑ってみせた。
分かるわけないか……。
言葉を理解出来る訳もないのに話しかけるなんてどうかしてる。
狐は座り込んで小首を傾げていた。
でもその仕草が何だか話を聞いているようにも見えて、ちょっとだけ愚痴る。
栗栖さんを背負ったまましゃがみ込んで、狐と視線を逢わせた。
「どうやったら強くなれるんだろうね……。僕は弱い自分が嫌になるよ。周りにいる子を助けたいって本気で思ってるのに力が伴わないのが丸わかりで、このままじゃ足手まといにしかならないんだ。でも、力になりたい。困ってるなら、悩んでいるなら、助けをどこかで求めているなら力になりたいんだ。でも、弱い自分じゃきっと出来ない。そのために強くなりたい。せめて、自分一人の身ぐらい自分で守れるくらいには。情けないんだ。女の子にこう何度も助けられるようじゃ」
と、言ってから自嘲気味に笑う。
表情に影が落ち、ちょっとだけ悲しそうな表情をする。
と。
「え」
がぶ。
狐がまたもや僕の足を噛んだ。
「いたいたいいたい!」
立ってから、またもや足を振り回す。
狐は振り落とされてからたんと地面に着地して、
「わん!」
と、また吠える。
それはまるで。
「わんわんわん!」
叱咤激励のような意味合いのようにも感じ取れた。
情けないこと言うな!
みたいな。
足を噛まれているのに血は出ていないし、痛みも噛まれている時にはすごく感じていたのに狐が足から離れるとすーっと引いた。
「不思議だね」
本当にそう思った。
実際痛みのことに関しては不思議以外の何物でもなかった。だが、僕が本当に不思議に思っていることは狐が噛んだことに対してではない。どこか人間味溢れるような狐の仕草と愚痴を誰かに聞いてもらった時のような安心感が自分の中に流れ込んでいるのを感じたことだ。
「もしかして……人間の言葉が分かるのかな?」
そういえば狐ってどこか神秘的で、ずっと昔から絵本の題材になるようなところがあるから実際そうなのかもしれない。
「ま、そんなわけないか」
首を振って馬鹿な思い込みを否定。
狐を見下ろしてから、背中に背負った栗栖さんを見ながらなんとはなしに言う。
「でも、そうだね。うん。こんなところで悩んでいるくらいなら行動を起こした方がいいのかもね。僕は僕らしく。クドや栗栖さんにも笑われないように頑張ってみるよ」
と、
「わん!」
狐が急に吠えた。
気のせいか、その口元が横にずれていて。
狐が笑っている。
ように見えた。
「あ」
ぴょんぴょんと狐は跳躍して。
塀を。屋根を飛び。
狐はどこかに行ってしまった。
やっぱり狐は住宅街に迷い込んだという訳ではなさそうだった。すごく町の構造に慣れていた。当たり前のように家を駆けていく姿はさも当然のようで。
頬を掻く。
「はは」
ちょっとおかしかった。
「ありがとね」
お礼の言葉は闇の中に消えていく。




