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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.1
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004 ボーイ・ミーツ・ヴァンプ

 月の光を浴びながら少女が説いた。

「どうしてこんなところにいるの?」

 白のワンピースを着た褐色の少女は何とも不思議そうな顔で聞く。

「え……あの……」

 訳が分からずに固まっていると、少女は僕のことを認識しているのかしていないのか分からないような横顔で、

「この公園に夜、人が近づくなんてありえないはず。迷い猫だって近づかない。そういうもののはず」

 顎に指を置いて、

「えー……………………っと……」

 長考。

「……少しだけ試してみよう」

 そう言って、すっと空中にその細い指を伸ばす。

「え」

 すると。

 少女の伸びた指の先から突如、物理法則を――僕の知りえる常識を軽く無視して真っ青な氷の柱が出現した。氷の先は鋭利に尖っていて殺意を凍らせたような冷たい柱。大きさも結構大きく、少女の腕と同じぐらいの大きさはある。

 多分、これが人に刺されば簡単に死ぬ。

「!」

 瞬間、目を瞑る。

 殺される! と思ったから。

 けれど。

「だいじょうぶ」

 目を閉じた時に声が聞こえた。

 優しい声だった。まるで親が子を諭すみたいな。

「え」

 その声に反応して目を開ける。

「天を」

 その瞬間。

穿(うが)て」

 氷の柱がまるで意志を持ったかのようにして少女が指を指した空を飛んでいく。

 そして氷柱は何かにぶつかることなく闇の中へと消えていった。

「…………っ」

 ぶるりと身震いをした。

 な、……いったい……なにが……。

 目の前の全てが理解出来なかった。

 刀を持った女の子が立ち去ったことも。

 目の前の少女が何もない空間から氷を出現させたことも。

 その氷柱が闇の中へと掻き消えたことさえも。

 全てが理解出来なかった。

 だけど、この身を襲う寒気は本物であった。

 氷柱が出現した時の、大気が一瞬で凍り付いた時の、この身を凍らせるような寒気は本物だった。

 僕は半分(うわ)の空になっている。

 一体何が起こったのか。少女は一体何がしたかったのか。そもそもこの子と対峙していた女の子共々ナニモノ(ヽヽヽヽ)なのか。今思えば、あの青い爪痕は氷ではなかったのだろうか。だが、それにしても氷の爪痕にしては目に焼き付いた残像のように大気中に残っていたような……。

 ああ…………もうっ、訳が分からない!

「ねえ!」

 気が付いた時には僕は少女に声をかけていた。

「キミは何なの! 一体何者なの!」

 少女のルビーのように真っ赤な瞳を見据える。

 え……?

 少女の瞳が一瞬だけ揺らいだように、泳ぐ。

 されど、その一瞬は本当に一瞬で、自分の勘違いだったのではないかと思うほどの強い意志を秘めた瞳で少女は僕の目をじっと見た。

 そして、

「なに……って」

 静かに、


「吸血鬼」


 そう告げる。

「あ……」

 正直。

 正直に言ってしまえば。

「え……」

 ぽかんですわ。

 今、この子……なんて……。

 きゅ、吸血鬼……?

 吸血鬼って……あの、牙が生えて、人の血を吸って、コウモリに化けて、十字架が苦手で、にんにくが苦手で、太陽の光を浴びると灰になって、黒マントで、どっか古めかしい洋館にたった一人で住んでる……あの……アレ?

 THE・作り物(フィクション)のあの吸血鬼!?

「は、はは……」

 んな馬鹿な……。

 そりゃ乾いた笑いも出てくるよ……。

 だって吸血鬼だよ。吸血鬼。

 聞きました奥さん? 吸血鬼ですって。

 え、やだもー。

 この科学の発展した時代に、吸血鬼。

 一気に脱力した。

 へなへなーって、なった。

「???」

 わざとらしく馬鹿にしたみたいな態度をしたにも関わらず、目の前の少女は不思議そうな顔をしている。

 ……本当に分かっているんだろうか、この子。

 自分が一体何を口走っているのかを。

 けど。

 ………………。

 ……………………けど、だよなぁ……。

 頭をぎるのは、刀を持った女の子と指先から現れた氷柱と氷の爪痕。

 これらがどうしてもこの子の吸血鬼発言がただの狂言や妄言のように思わせない。

 まるで“本物”みたい、な。

 って。

 本物って…………ナニ?

 だ~……! ダメだ。頭の中がパンクする~。

 ぐるんぐるん。

 頭を抱えてみたりしてもやっぱダメ。分かるわけない。

「なにしてるの?」

「……頭の体操」

 うん。我ながらイミフ。

「ふーん」

 少女はよく分かっていないようで小首を傾げる。僕はただただ唸る。

「それよりも」

 少女は小さく言う。

「早く……帰った方がいいと思う」

 僕はハッと顔を上げる。

「何で?」

 ざっ。

 ようやく僕は異変に気が付いた。

 音。

 また僕の耳に奇妙な音が届く。

 ざっ、ざっ。

 音は徐々に近づいてくる。

 ざっ、ざっ、ざっ。

「なんでって」

「!」

 少女は軽く指を指す。


「食べられるから」


 目の前に見えたもの。

 それは――異変。

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