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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.3
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045 クドラクとクルースニクと許嫁と

 僕が指を指して叫んだちょうどその後、扉の向こうから母さんの声が聞こえ、

「何か飲まない~?」

 という声が聞こえ、クドが飲み物を取りに行った。部屋に残されたのは僕と栗栖さんの二人きり。

「えっと……栗栖さん?」

 と、僕がそう声をかける。栗栖さんはチョコレートのカップケーキを部屋のテーブルの上に置いた後、振り返った。

「はい」

 少しだけよそよそしい。

 その態度だけで全て説明していた。

「やっぱり」

 僕は小さく頷く。

「やっぱり……あの夜、クドと戦っていた女の人って栗栖さんだったの」

 こくり、と。栗栖さん。

 聞いてよいのか、正直分からない。でもここまで聞かないというのも無理な相談であった。

「えっと……まず、聞いていい? クルースニクって何?」

 栗栖さんは言葉に詰まった。

 だけど、

「まあ……簡単に言えば。裏の名前ですかね。表の名前が栗栖梨紅(くるすりく)。そして、裏の名前がクルースニク。私は……クルースニクの生まれ変わりなんです」

「生まれ変わり?」

「はい。クドラクのことは……知ってますよね。彼女が吸血鬼だということも」

「うん。でも……」

 僕は言い淀んだ。

 クドは記憶喪失で、自分のことはあまり話さない。話してくれたのは自分の古い夢の記憶だけで、よくは知らない。だから少し迷った。クドが記憶喪失だと栗栖さんに話してもよいものか。

 けど。

 僕は一度栗栖さんの顔を見た。

 何かを観念するような、そんな顔。

 僕はそんな顔を見てしまって、どうにも我慢が出来なくなった。

 ここにクドがいないことは幸いであった。

「クドは……記憶喪失なんだ」

「え、記憶喪失?」

 栗栖さんはすごく驚いて口元に手をやる。

「うん。だから……クドのことはあまり知らない。ねえ。教えてくれる? クドのこと。それに、栗栖さん……クルースニクのことも含めて」

 上唇に指を置いてしばらく考え込んだ後、栗栖さんはこくりと頷いて、

「はい。……ほんとは、私のことは久遠くんの方から思い出して欲しいのですけれども……ね」

 最後の方が小さな声でよく聞き取れなかった。

「え、なに?」

「なんでもありません」

 と、栗栖さんは顔を上げて喋り始める。

「これから話すことは私が知る限りの知識でしかありません。私がこの話を聞いたのは五歳の時。私が眠っている時に夢枕に立った人物がそう仰っただけですので、それが正しいのか間違いなのか。正直なところ分かりません。と、夢枕はご存知ですか?」

「えっと……確かアレだよね。夢の中で神様だとか故人とかが何かを告げるっていう、あの。言葉の意味は知ってるけど、ほんとにあるんだね。それでそれで、一体誰が?」

「おそらく……前世でしょう。クルースニクの」

 話を続けますね、と栗栖さん。僕もこくりと頷いてから彼女の話に耳を傾ける。

「聞いた話は二つ。一つは私のこと。私が生まれた時の母のこと、どうして私が“力”を持っているのかを先代のクルースニクが全て話してくれました。そしてもう一つ。それは私、クルースニクは“悪疫”と呼ばれる吸血鬼・クドラクと戦う宿命を背負っていると」

「宿命……?」

「戦わなければいけない。そう言った方が適格でしょう。滅ぼすんです。悪を。正義と呼ばれたクルースニクが。“十字架を背負うもの”として」

 諦念するような声。表情。

 彼女は気が付いているのだろうか。そんな顔と声をしていることに。僕もまた静かに。静寂のまま、拳を握る。

「そのためだけに私は生まれたんです」

 その言葉を聞いて、ついに。僕の中の何かが切れて、ぷちんと。

「そんなわけないだろ!!」

 噴火。

 栗栖さんの肩を思い切り掴んで、揺らす。

「きゃっ!」

 栗栖さんは悲鳴を上げた後、驚いて目を丸くする。それでも構わず続ける。

「何を言っているんだよ栗栖さん! そのためだけに生まれてきた? そんなわけないだろ! 戦うことは栗栖さんの意志なの? 違うでしょ! 違うはずだ! だったらそんな辛そうな顔するわけない!」

 笑ってしまうほど必死で。

 今にも泣きそうな声で。

 訴える。

「もし、戦うことが栗栖さんの意志なら僕は邪魔出来ない。それがクドの意志だって言うんなら、僕は間に口を挟まない。でも、でも! 僕にはどうしても宿命と言って自分に言い聞かせてる子供の声にしか聞こえないんだ! 戦いたくない、でも戦わなくちゃいけない。そんな不条理に抗いたくても抗えない。クルースニクがなんだ! クドラクがなんだ! 栗栖さんは一体どうしたいの。あの子供みたいな理由で口喧嘩をした相手を本当に殺したい?」

 俯き加減のまま。

 彼女の首が動く。

 横に。

 何度も。――何度も。

 激情がわずかに冷え、そのまま栗栖さんの顔を見やる。

「だったら協力する。なんだってする。栗栖さんとクドラクが戦わなくてもいい方法を探そう。……きっとあるさ。だってケンカをしている時の二人は仲のいい姉妹みたいだったんだから。そんな二人が争わなければいけないなんて……馬鹿げてるよ」

 くしゃりと頭を撫でる。

「大丈夫」

 優しい声色。

 確信が持てたから。そこまでの声色を出せた。

「クドも同じ気持ちだから。クドも……変わりたいって言ってた。過去の自分を変えたいって。何も覚えてないクドがそう言ったんだ。大丈夫。クドも。きっと……大丈夫」

「…………」

 栗栖さんが少し考え込んだ。そして小さく呟く。

「確かに……。あの吸血鬼は、本気でそう思っているでしょうね……」

 やがて、

「ふふっ」

 栗栖さんの顔に笑顔が戻った。顔を上げて、微笑む。

「やっぱり……久遠くんは、かーくんでした」

「え?」

 かーくん?

 どこかで聞き覚えのあるような名前だ。

 それも、どこか懐かしくて。甘くてほろ苦い、チョコレートみたいな。

 栗栖さんはくすくすと笑って、

「ほんとに……覚えてないんですね」

 呆れた。

 だけど、どこか楽しそうに。

「でも……安心した。変わってないね。かーくん」

「…………かーくん?」

 栗栖さんが甘えるみたいに自分の頭を僕の胸にうずめた。女の子の香りが僕の体を包み込む。

「おんなじだ」

「同じ?」

「かーくんだ。私の知ってるかーくん。私の大好きな……かーくん」

 ぽかんとして。

 聞き間違いかと思って。

 もう一度聞き返した。

「今、なんて……?」

「にぶちん」

 くすくすと栗栖さんが僕の胸の中で笑った。

 そんな彼女のつむじを見つめながら、僕は自分の中にあった記憶が呼び起こされていくのを確かに感じた。

 かーくん。

 それに、この子。

 栗栖梨紅。

 僕のクラスメイトで。

“初対面”と言ったら怒られて。

 いや。

 本当に“初対面”?

 違う。

 そうだ。

 この子の本当の名前は。

「……り、……りっちゃん……?」

 とん、と。栗栖さんが僕の胸を叩いて顔を離して、それから上げる。

「正解。遅いよ」

 少し拗ねたみたいに頬を膨らませて。でも嬉しそうに。

「私が月城高校に入学した訳……もう分かるよね」

「もしかして……僕?」

「うん。かーくんが月城高校に入学するって分かったから、わざわざ月城町に引っ越してまでやって来たんだよ」

「こ、行動力あるね……」

「かーくんが引っ越すって聞いた時からずっと考えてたの。もし、私が高校生になったら絶対にかーくんと同じ学校に行くんだって。ずっと。ずーっと」

「でも……僕が前にいた町って結構ここから離れてたと思うけど、よく親御さんが許してくれたよね。確か栗栖さんのとこって……」

「うん。あんまり仲はよくないかな。でも、別にいいの。私は……見つけたから。私にとって一番大切なもの」

「大切?」

「うん。すごく。すっごく」

 そう笑っている栗栖さんの顔はとても幸せそうで。少し、艶やか。

「でも……よく分かったよね。僕の入学する学校なんて」

「くすくす……。私はかーくんのことならなーんでも知ってるから。そんなの朝飯前だったよ」

「何でも?」

「はい。あの日、かーくんがクドラクと出逢った日も。ずっと見てましたから。知ってますよ。かーくんがクドラクに噛まれたことも。かーくんが吸血鬼になってしまったことも、ぜーんぶ」

 全部。何でも。

 少し気になるキーワードではあったが、今ツッコむのは野暮というものだろう。

「それにしてもかーくんはヒドイです。私が高校に入学してどれだけ嬉しかったのかも知らず、よりにもよって“初対面”だなんて言うんですから」

「そ、それは本当にごめん。でも仕方ないよ。栗栖さんの髪形……あの時と全然違ってたから。確か短かったよね」

「あの頃の髪形のまま成長する女の子なんてなかなかいないと思いますけど~?」

 確かに。返す言葉が何一つ浮かばない。

 すっかり表情に明るさが戻っている。

 そんな彼女には本当に申し訳ないけど、今でも記憶がかなりあやふやだ。一〇年以上前の記憶のことだし、仕方ないと言えば仕方ないが。

 にしても……。

 そっか。栗栖さんはりっちゃんだったのか。

 梨紅でりっちゃんだなんて、なんて安直な。子供の頃の僕。もう少し考えてやったらどうだ?

「それじゃ」

 気が付けば。

 栗栖さんがスカートの中に手を突っ込んでいた。

 何だろう?

 僕が軽い気持ちで首を捻っていると、

「かーくんはすっかり私のことを思い出した訳ですし」

 と、軽い口調で栗栖さんが言って。

 ポケットからしわくちゃの紙を取り出す。

 ずいぶん古い紙のようで、あちこちが日焼けして変色していた。

「これもちゃーんと覚えてますよね」

 と、言いながら紙を開く。

 そこには。

 クレヨンで書き殴ったような汚い文字で、


『こんいんとどけ

 おっと くおんかなた

 つま くるすりく』


 と、書かれていた。

「え?」

 なに、これ。

 見覚えないよ。

 ………………………………たぶん。

「ふふっ。思い出してもらえましたか?」

「ゼンゼン」

 片言であった。

 最早気にするほどのことでもないのか、栗栖さんは僕が忘れているということよりも目の前で広がっている紙に描かれている落書きの方が大切なのか。

 とても嬉しそうに。

「約束、守ってくださりますよね♪」

 今まで見た笑顔より何十倍も素敵な顔で。


「私の……許嫁いいなずけさん」

そろそろ……更新速度、落とそうかな?


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