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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.3
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041 クドラクとクルースニクと許嫁と

 屋上へやって来た時、栗栖さんの姿を見て、僕はすごく安堵した。一気に脱力してへなへなと腰砕けになる。

「は~……よかった~」

 とにかく心労からほっとして、息を漏らす。

 無事だった。

 クドの口ぶりから分かってはいたことだけど、実際にその姿を見てとにかく安心出来た。

 栗栖さんはすごく驚いたような顔でこっちを見て、後ろ手に何かを隠す。

 が。

 見えてしまった。

 明らかに見られたくないといった表情で栗栖さんが隠したもの。

 ソレは。

 刀。

 どこからどー見ても、刀。

 紛れもなく、刀。

「…………」

「…………」

 瞬間的に二人の空間の時間が停止。

 ってか。

 まじ?

 しばし見つめあった後、

「こっほん」

 と、栗栖さんが可愛らしく咳をした。

 僕もハッとなって栗栖さんに駆け寄る。

 駆け寄りながら周りの景色を見た。そこには戦闘の跡らしきものがいくつもあった。傷ついた屋上の床。ぐにゃりと曲がったままの屋上のフェンス。給水タンクに至っては真っ二つに割れて、階下から「水が出ない!」と嘆く生徒のの声が。

 もう。

 明らかに、クドと戦ったと思うことしか出来ないほどの傷跡が。

 どこもかしこにも。

「あの……栗栖さん?」

 困る。

 とにかく何から話せばいいのかが分からない。色々聞きたいことはあった。クドとの関係。後ろ手に隠した刀。戦闘の跡。

 はっきり言って何から話せばいいかだなんてよく分からない。この惨状を目の当たりにして、何から切り出せばいいのかを理解できるほど、僕の人生は経験豊富じゃなかった。

「えと」

 栗栖さんも困ったようにはにかんでいる。刀を持って。

 しばしの沈黙。

「その……これは」

 刀を見られたくないという一心で栗栖さんは体をくねらせる。僕はそれを見ないフリをすることは出来た。だけど、どうしてだろう。それが出来なかった。いや、したくなかった。

「違うの」

 掠れるような声で。

「その」

 何度も何度も繰り返す彼女を見て。

「……」

 知らず知らずのうちに手が伸びていた。

 ぽんぽん。

 僕は気が付けば栗栖さんの頭を撫でていた。

「よかった」

 出来るだけ優しい声。

「栗栖さんが無事で」

 心からの本音。

「ほんと、よかった」

「え」

「心配したんだ。ほんとにね。もう」

 僕は少しだけ涙ぐんで。

「栗栖さんに何かあったらって……」

 そう言って何度も頭を撫でた。

 と。

「あ。わ~!」

 慌てて栗栖さんの頭を撫でていて手を引っ込める。

 な、なんて失礼なことを!

 無意識とは言え、よく知りもしない女の子の頭を撫でるだなんて!

「ご、ごめん! その悪気があったって訳じゃないんだ。ほんと、ごめん!」

 思いっきり頭を下げて謝る。

 返事はない。

 怒らせちゃったかな~……。そりゃそうだよな。いくらなんでも不躾すぎる。

「…………」

 僕が謝っている間、栗栖さんはえらく長いこと凝固。秒数にして数十秒くらい。

「えっと……栗栖……さん……?」

「…………え」

 と、ようやく栗栖さんが戻ってきて、ややあってパッと顔を逸らす。

(う、うわ~! 怒ってる~!)

 僕が初めて栗栖さんを怒らせてしまった時は、入学式の時に何気なく言った“初対面”という言葉に反応した時だけだった。その時もどうして栗栖さんが怒ったのかは見当がつかなかった。もしかしてその前後に何か失礼なことを言ってしまったのかと考えたこともあったが、やはり分からなかった。

 だけど今、栗栖さんが怒っている理由ぐらいは分かる。

 僕が気安く栗栖さんに触れてしまったから。

 クドのような小さな子に思わずやってしまったような、そういう問題で済む問題ではない。栗栖さんは僕と同じ高校生で、もうそういうことをするのは流石にマズイ年頃。

 顔を真っ赤にして栗栖さんは怒っていらっしゃる。

 ここに来た経緯でさえ、クラスの連中の痛い視線を受けてというもので。もちろん、クドを追いかけていきたかったということと、僕自身が栗栖さんのことを心配していたという点はある。だけど大部分を占めているのが、あのクラスからの痛い視線。

 もし、僕が栗栖さんを怒らせてしまったことがバレてしまった日には。

 僕は。

 まず、間違いなく。

 袋。

 クラスの連中(主に男子)にぼっこぼこにされる!

 さー、と顔が青ざめていく。

「ほっっんと、ごめんなさい!」

 僕は目を剥いていた。とにかくどうにかして許して欲しかった。だから、

「何でもするから許してください!」

 思わずそんなことを口走ってしまった。

「…………!」

 わずかに栗栖さんの体が揺れた。

 反応してくれた。

 彼女は少しだけ考えて、

「……まず、聞いていいですか?」

 俯きながら僕に尋ねた。

「どっち……ですか?」

「え、どっちって?」

「…………ううん。なんでもない、です」

 彼女は首を横に振って、一度そこで会話を切る。そして後ろ手に隠していた刀を前に持ってくると意を決したように顔を上げ、一言。

「久遠くんは……知ってるんですよね。あの子……。クドラクのことを」

「え、うん」

 目を細めて、

「どこまで?」

「どこって……えっと。……そう、だな」

 一度だけ考えた。

 どこまで話していいものか分からなかった。けれど、栗栖さんの持っている刀を見て、僕は観念して。

「あの子が……吸血鬼ってこと、ぐらいは」

 僕がそう言うと、彼女は小さな声で。

「ずるいです」

 そう言ってから、

「じゃあ。私のお願い、聞いてもらえますか?」

 真っすぐに僕を見据え、


「私のことも知ってください。ちゃんと。全部」

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