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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.1
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003 ボーイ・ミーツ・ヴァンプ

「はっ!」

 刀の女の子は返す刀で連撃を叩き込む。

 一閃。

 二閃!

 三閃!!

 小さな女の子はそれをやはり、紙一重のところでかわし続ける。

「……やはり、見よう見まねでは上手くいきません、か」

 すっと。刀を持った女の子が半歩下がる。

「……三段斬り。結構練習したんですけどね」

「一振り一振りが大きい。それじゃ、当たらない」

「ふふっ」

「なにがおかしい?」

「敵であるあなたが私にアドバイスをくれているのがとてもおかしくて」

「そんなに……おかしい?」

「ええ。とても。……一応、確認しておきますけど敵、ですよね?」

「……そう」

 刀を持った女の子は握っていた刀を腰にぶら下げていた鞘に納める。

「……やめる?」

 小さな女の子は小さく小首を傾げ、そう女の子に尋ねた。

「まさか」

 刀の女の子は首を横に振る。

「悟ったんですよ。やはり人間(ヽヽ)の戦闘スタイルではあなたに勝てない。本来の戦い方で戦わなければ、きっと勝てない。いえ……本性(ヽヽ)とでも呼ぶべきでしょうか? 私がもっとも嫌う本性(ヽヽ)を見せなければ絶対に勝てない。……知らないでしょうけど、この刀は模造刀。つまり偽物です。たとえ刃が、鞘が、柄が、“本物”であったとしても。私からすると、全て“偽物”。つまり模造刀。普段(ヽヽ)からすると“本物”であるくせに、(こと)あなたに対してのみ“偽物”になる」

「それって……」

 ここまで文字通り蚊帳の外でこっそりと二人の会話を聞いて。

 本当に今さらだが。

 ……どうしよう?

 もう、本当に、正直訳が分からない。なにこれ。

 これが夢であるならどれだけバカな夢を見ているのだろうと思う。

 だって夜、満月の下で女の子二人が凄まじい殺陣を繰り広げ、殺し合いをしているのだ。そんなの漫画かライトノベルの世界だ。現実じゃない。

 けれど、やはりこれは夢ではないのだろう。さっき軽く抓った頬がまだヒリヒリ痛むし。

 やはり……ここから逃げ出した方がいいのだろうか。小さな女の子の方はともかく刀を持っている女の子の方は完全に銃刀法違反だし、それが賢明なんだろうな。

 ……うん、そうしよう。

 逃げよう。そしてこの非現実な状況のすべてをなかったことにしよう。

 とか無理矢理考えつつ、その場を去ろうとして――――、

 ぽき。

 公園内に落ちていた小枝を漫画みたいに踏んでしまった。

「え」

 しかも踏んだ枝に驚いて尻餅までつく始末。

 ださい。超ださい。

「……っ」

 慌てて体勢を戻して身を低くして茂みの中に隠れる。

 マズイ!

 マズすぎる!!

 一瞬でその言葉が脳裏を埋め尽くした。

 音はかすかなもので生活音に溢れる日常であれば何の興味も湧かないほどのものだったが、今は夜だ。静寂が支配する闇の中では充分すぎるほどの音で、当然のように二人の女の子は僕の隠れていた茂みを見た。

「……」

「……」

「……っ」

 もう、何というか。

 四面楚歌。

 まさに窮地というやつだ。

 必死に深海の貝のようにひっそりと息を潜める。

 見つかりませんように、見つかりませんように、見つかりませんように、見つかりませんように、見つかりませんように、見つかりませんように、見つかりませんように、見つかりませんように。

 とにかく祈った。

 祈りの作法なんかは知らないけど、目を瞑って両手を合わせて。

 ひたすら祈った。

「……ん?」

「!」

「……え?」

 しばらくしてからぱかりと目を開けてみた。

 何か音がしたからだ。

 何の音?

 ん?

 あれ?

 えーっと……。

 目の前の簡単な間違い探し。

 答えは即座に分かった。

 い……ない?

 刀を持っていた女の子が忽然と姿を消していた。

 どうやらさっきかすかに聞こえた音は女の子が立ち去った時の足音だったらしい。

 けど。

 なんで?

 どうして刀を持った女の子はいなくなったのだろう。

 僕が……いたから……?

 まあ、そりゃ見られたら困るだろうけど、何も逃げなくてもいいんじゃないかと思う。

 だってアレが本物の刀なら、その……ね。斬りゃいいじゃん。

 今までだって女の子相手に本気で斬りかかっていたのだから罪悪感みたいなものはないだろうし、……そもそも戦い慣れているようにも見えたし。斬ることに抵抗もないだろう。

 ぞ~。

 背筋に嫌な汗と寒気が走る。

 に、逃げてくれてありがとう!

 感謝のあまり涙が出そうになる。

「……なにしてるの?」

「え……」

 知らず知らずのうちに天を仰ぎ見ていた。

 つまり視線は上。

「……」

「……」

 ぱちぱち。

 少女。

 満月をバックに、宵闇のような肌と銀色のストレートが特徴的な少女がそれはそれは不思議そうな顔でこちらを覗き込んでいた少女と目が逢う。

 ぱちくり。

 逢った。

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