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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
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037 クドラクとクルースニクと許嫁と

 彼女は生まれた時から強力な霊力をその身に宿していた。人には見えないものを見ることが出来たし、画用紙にクレヨンで顔と洋服を描いた紙人形に念を送り、ショーダンスのように操ることが出来た。

 彼女がきゃっきゃと手を叩くと紙人形はくるっとターンしたり、華麗にタップを踏む。

 それを見て二歳の彼女は無邪気に笑っていた。それが当たり前のことみたいに。

 だけどその光景を見て。

 父・栗栖大悟(くるすだいご)

 母・栗栖里美(くるすさとみ)の二人は複雑な表情を浮かべていた。

 両親は真剣に病院に見せようと何度か梨紅を寝かしつけた後に相談を幾度も繰り返した。だけどその話し合いの最期はいつも喧嘩になってしまう。

 父の意見は自分たちの大切な娘を他人の手に委ねてしまうのが申し訳ないと思う、というもの。

 母の意見はもう自分たちのような“そういう力を持たない”一般人にこれ以上この子の世話をするのは恐ろしい、というもの。

 実際、梨紅は見えないものに話しかけることはよくあることだったし、そういうものなら……まだよかった。実害はほとんどないのだから。

 だけど母がいつも恐ろしいと思うのは梨紅が目を離すと虚ろな瞳をしていたことだった。

 声をかけてもまるで何かにとり憑かれているみたいに、虚空を眺めているのが何より怖かった。自分たちは、自分たちの娘がどうしてこんな目をするのかが分からなかった。そして何より、その目をした時の娘の口がぱくぱくと動いていたのだ。まるで何かと話をしているみたいにして。

 見えないものに声をかけたときは幼児らしくきゃっきゃっと笑っているだけなのに対し、その目をしていた時だけはまるで。本当に何かにとり憑かれているとしか思えないほど無表情で、ただただ虚空を眺めていた。

 それにどんな意味があるのか。

 両親には理解しようもなかった。

 何せ、“力”を持っていない普通の人間なのだから。

 そして自覚する。

 彼女の“力”を。

 何度も何度も自分の気持ちを誤魔化してこの子は“普通の子!”と言い聞かせて、日々を過ごしていた。

 ある日。

 母がベビーカーを押しながら道を歩いていた。何てことのない日柄。あまり娘を連れて歩くことがあまり好きではなかった母は少し早歩きで道を歩く。テレビでおすすめしていた教育本を見て、子供は太陽の光を浴びると体力的にも精神的も健康に育つという話を聞いて、それを実践するためだった。

 もし。娘の奇行が精神的不安定な自分が生んでしまって生まれたものだとしたら、それは自分の責任なのだからと思ったから。

 日課の散歩を一日たりとて休むことはなかった。

 しかし。

 ふわっと。

「きゃっ」

 何かに押され、母が道路の真ん中に飛び出てしまう。

 一体何が起こったのかを理解することは出来なかった。後ろを見ても何もなかった。だけど確かに押されたような感触が背中には残っていた。

 道路の真ん中でこけたままの母は動けなかった。

 だが。

 ぶ~!

 というけたたましいクラクションが母の耳に響く。ハッとなり顔を上げると目の前にトラックがクラクションを鳴らしながら母とベビーカーに乗せられた娘目掛けて突っ込んで来ていたのだ。

 死ぬ!

 と、母は直感した。

 避けられる可能性が微塵にも感じ取れなかったのだ。

 里美はきゅっと目を瞑り、体を強張らせて訪れるべき死を待っていると。

「なにをやっているんだ」

 誰かの声が聞こえた。

「まだ死すべき時ではないだろう」

 声はささやく。

 と。

 瞬間、目の前に炎の柱が立ち、轟! と炎の柱が自分たち目掛けて突っ込んできたトラックを真っ二つに割ってしまう。運転席と助手席を境目に本当に真っ二つに割れ、その間を里美と娘が無傷で通る。

 背後でトラックが爆発する音が聞こえた。どかんと地鳴りが鳴って、その後にぱらぱらと火の粉が舞った。

 これだけの喧噪の中、母は確かに聞いた。

 声を。

 囁くような小さな声を。

 自分の娘に声をかける、男の声を。

「覚えておけ。これが力の使い方だ。やってみろ」

 声に、

「きゃっ」

 娘が指を上げた。

 その時のことである。

 どかんと音を立てて、トラックが二度目の爆発音をあげた。腹に響くような地鳴り。

 周りは阿鼻叫喚。

 対し声は静かに、

「よしよし。よくやった……。それでいい。それでいいぞ。さすがはクルースニクだ。もう……心配はいらないな」

 そう言うと声は消え、娘は、

「きゃっきゃ」

 と、笑った。

 その時、母の頭によぎったのは。

“本物”という言葉であった。

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