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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
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036 クドラクとクルースニクと許嫁と

 栗栖梨紅という少女がこの世に生を受けた時。

 誰もが愕然とした。

 産婦人科医も、看護師も、そして何より安産祈願のお守りを握りしめたまま梨紅を産み落とした母でさえ、動くことが出来なかった。

 まず産婦人科医が、

「こ、これは……一体」

 次に看護師が、

「せ、先生……」

 驚きを隠せなかった。

 その様子をまだ十代で生みの疲れから動くことが出来なかった母が見て脂汗を顔中にかきながら、問う。

「ど、どういうことなんですか……」

 沈黙。

 答えは返ってこなかった。

 しばらく分娩室に静寂が流れ、とうとう痺れを切らした母が大きな声で産婦人科医に言った。

「どうして私の娘は……こんなに白いんですか!」

 母の叫び声に産婦人科医がハッとなる。

「ご、ごく稀に……羊膜に包まれて生まれてくる赤ちゃんというのはいます。……はい。だから……これは、よ、羊膜であると思われます。……で、……ですが」

 誰もが産婦人科医の言葉に台に乗せられた赤ちゃんを見た。

 通常羊膜というものは出産時に破れるものであり、それを破水と呼ぶ。しかし、産婦人科医の言う通りごく稀に羊膜に包まれたまま生まれてくる赤ちゃんもいる。羊膜に包まれた赤ちゃんは子宮にいるような動きをして、自分が生まれてきたことさえ気が付かない様子であることが多い。

 確かに母から産み落とされた赤ん坊もそれと同じような様子で、産婦人科医も羊膜に包まれて生まれてきた赤ちゃんを見たのはこれが初めてだった。

 しかし産婦人科医としての知識はある。

 だからこそ赤ん坊が無事に生を受けたのだから。

 しかし。

 だがしかし。

 これは一体どういうことなのだろうか。

 一〇年近く産婦人科医を生業としてきた先生が一番驚いていた。

 羊膜は中の赤ちゃんが透けて見えるほど透明であるのが一般的だ。赤く見えたとしてもそれは母の血液だったりするので、こうも白く、まるでまゆのような羊膜に包まれて赤ちゃんが生まれてくることなどあり得なかった。

 宗教観の強い国ではこの子を見れば“神の子”とでも呼ばれ信者たちに信仰される可能性もあったかもしれないが、残念ながらこの日本という小さな島国では宗教観の強い若者というものは減ってきていた。

「……気持ち悪い。なに、これ……」

 看護師の内の若い一人がぽつりと呟いた。

「し!」

 その隣に立っていた同僚の看護師が肘で不躾に呟いた言葉に慌てて横っ腹を突いた。注意された方は「しまった!」と言わんばかりの表情で慌てて口元を押さえる。

 その言葉を聞いて。

 十代で出産を迎え、不安を抱えたままの出産。それに合わせて出産をして体力的にも精神的も参っていた母は。

「う、うぐっ……う、う」

 瞳から涙が溢れ、

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――!」

 堪え切れなくなり、泣き崩れた。


 それが母の初めての出産であり、自分の出生だったと聞かされた時、栗栖梨紅は五歳だった。

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