363 クドとオランセ
勝つことなんて考えるな。生き残ろうなどと夢を見るな。ただ一心にクドの救出のことだけを考えるんだ。
方法はまだ考えつくどころか思いついてすらいない。だけど、必ず何かしらの方法があるはずだ。諦めなければ……必ず。
「……そんな理由で、命を賭ける、か」
「そんな理由じゃない!」
僕にとってクドはとても大切な存在だ。レディがクドを助けたいと言う思いすら嘲笑するのならば、それは否定させてもらう。
「僕の妹を返せ!」
だから叫ぶ。
「貴様の……妹」
対し、レディは静かに僕の言葉を聞いていた。罵倒する訳でも嘲笑する訳でもなく、ただ、聞いていた。言葉の中に潜む真意を確かめるように。
そして、
「……なるほど」
そっとそう呟く。
何かを納得したかのようにその言葉を呟き、わずかにだが殺気めいた空気が一瞬だけ和らぐ。
「痛みもあろう。恐怖もあろう。それでもなお、これを妹だと嘯くか」
「嘘じゃない」
確かに僕とクドに血の繋がりなんてモノは一切ない。他人から見れば他人でしかない関係にしか見えないのかもしれないが、この関係を否定させたりはしないし、させない。させたくない。
「勘違いをするな」
レディは言う。
「認めようではないかと言う話だ。儂は貴様の嘘を認めよう」
「認め……え?」
僕は呆気に取られた。驚いて肩から力が抜ける。
「勘違いをしていたのは儂の方だ。そのことについては謝罪をしよう。儂は貴様がこいつを使って貴様の特殊な性癖を満たしているのだとばかり思っていた。だが違う。貴様は痛みも恐怖も受け止めてもなお諦めずに儂に挑んできた。ただ嘯くためだけに。意地もそこまで行けば本物よ」
頭を下げようとはしないが、レディの口から謝罪するという旨が綴られて、僕はレディと言う人が分からなくなった。
「だがな。儂にとってもこいつは友人なのだ。唯一無二の友なのだよ」
だがその言葉を聞いて全てを納得することが出来た。
「ただそれだけなのだ。……退け。儂の友を連れ去ろうとしないでくれ」
同じだった。僕とレディの想いは同じなのである。
レディの目は真剣だ。演技ではない瞳。
クドを守ろうとしている。よく分からない人物からクドを危険な目に遭わすまいと奮闘し、必死で守ろうとしていた。
レディがクドのことをこいつだのこれだのと言って、僕はクドのことを物扱いしているのだと思っていたのだが、それは違った。親しい友人同士の間柄だからこそ漏れた軽口でしかなかったのだ。
だったらレディの言動の全てが僕の行動原理と重なる。――重なってしまう。
「……よく分からない人だ」
漏れ出た言葉は心の底から思ったこと。
誰もがレディを危険視する。誰もがレディを遠ざけようとする。誰もがレディを恐れる。
だけど今目の前に映るレディは善人か悪人かもよく分からない。
ただ、言ってしまえばそれだけなんだ。
レディの人物像を把握できなくなっただけで、結局のところは僕のやるべきことは変わらない。変わるはずもない。
「……そこをどいてもらう。僕の妹を返してもらうぞ――」




