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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.3
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033 クドラクとクルースニクと許嫁と

 誰もいない学校の屋上。そこの扉の鍵をこじ開けて、そこに栗栖梨紅とクドラクの二人が立っていた。学校の給水タンクの上にクドラク。そして屋上の中央付近に梨紅という構図。

 給水タンクの上に立っていたクドラクが指を筆のように動かして結界を張る。彼女が最も得意とする結界の一つ、音と光を遮断する結界。

 これで外の音と内部の音を隔離。周りの音は屋上の中には聞こえないし、屋上で起こった音も外部には聞こえない。

 ぴんと指を跳ねてからクドラクが中央で空を見上げる梨紅に声をかけた。

「ねえ」

 それはまるで子供が正論を言うみたいな口調で、

「やめない?」

 対し、梨紅は一言。

「やめません」

 クドラクは少し頬を掻いた。何をそんなにいきり立っているんだろうと思う。

「元々、私たちは戦う宿命だったはずです。そうでしょう。クドラク」

 すうっと上手うわてで構えた刀を下手したてに構え直す。

「は!」

 そしてそのまま刀を振り上げる。

「!」

 刀を振り上げた際の衝撃波が刃となって、クドラクを襲う。

 梨紅の霊力を使った攻撃。

「っ」

 クドラクが攻撃をかわすために給水タンクの地面を蹴って跳躍。

「決着、決着を」

 刀を上段に構え、左足をすっと引き、

「つける!」

 梨紅が再度衝撃波を放つ。

 衝撃波は空中にいたクドラクをしっかりと捉えて、まっすぐに飛んでいく。

氷よ(グラキエス)

 クドラクが高速で呪文を唱え、指で軌跡を描く。

 凝縮する魔力。途端、クドラクの伸ばした指から青い氷が出現し、空中でクドラクは猫のように体を回転させて、氷の足場を蹴って衝撃波をかわす。

 次々に足場を出現させ、稲妻のような軌跡と速度で地に降り立った。

「そこ!」

 再び一閃。

 風を薙ぐように飛ぶ衝撃波。

氷よ(グラキエス)!」

 着地の隙を狙われたクドラクは右手で衝撃波を受け止め、

「盾となれ!」

 そのまま爪を伸ばした手を振り下ろす。

 虚空を引っ掻いたような爪痕がそのまま形となって、そこに現れた。衝撃波はその真っ青な爪痕に直撃し、青い爪痕と一緒に甲高い音と共に砕け散った。

 飛び散った氷の破片は屋上の熱で溶け、クドラクが梨紅に向き直る。

「どうして……そこまでして、戦う?」

「宿命だから」

「クドラクとクルースニクの?」

「そう。我々は生まれ落ちた時から宿命を背負わざるを得なかった。私が白い羊膜に包まれて生まれ、あなたが赤い羊膜に包まれて生まれ落ちた瞬間に」

「生まれ……」

 クドラクが頭を押さえる。

 その行動に少しだけ梨紅が疑問を抱いた。

「どうしたんですか?」

 問いに、クドラクは、

「なんでも」

 と、だけ。

 たったの一言で済んだので梨紅も、そうですか、とだけ返す。

 頭を押さえていた手をだらりと下ろしてから、

「でも……本当にそれだけ?」

 クドラクが聞いた。

「なにがでしょう」

 言葉を選ぶように、恐る恐る。

「それだけじゃないような気がするのはわたしの気のせい?」

 刀を構えたまま梨紅は苦笑。

「どういう意味でしょうか?」

 クドラクが腕を組んで、

「なんか……うん。なんか」

 小さく首を捻りながら、

「なんか……違うんだよね……この前と」

 言う。

「なんか……わたしよりカナタの方が……気になってないか?」

 今度ははっきりと表情を変えて、梨紅が笑った。

「意外です。そういうことには疎い……いえ。知らないものだとばかり」

 感心するように頷く。

「だけど」

 と、そこで一旦言葉を切って。

「あなたには言いません。久遠くんの家に居候をしている女の子にだけは絶対にっ!」

 だんっ! と、地面を蹴って助走。

「そんな羨ましいっ!」

 そのまま飛び上がって梨紅は刀を振り上げる。

「子なんかには、ね!」

 クドラクは動かなかった。

 否。

 動けなかった。

 分からなくて。

 意味が分からなくて。

 クルースニクは一体何を言っているんだ、みたいな感じで。

「もらった!」

 そしてそのまま梨紅は刀を振り下ろして、切り払う。

 ほんのわずか、本当にほんのわずかな隙は確実に生まれた。その隙を刀の攻撃を逃さず、クドラクの体を斬りつけた。

 衣類ごと、クドラクの肩をかすめ、鮮血が走る。

「んっ」

 クドラクはゆっくりとそこに手を伸ばした。

「いたい」

 手に付いた血をしげしげと眺め、きゅっと拳を握ってから、

「いたいな」

 表に感情を出すことなく呟いた。

「でも……別にいたいだけだし……なんてことないよ」

 まるで子供に小突かれただけみたいな悠長な様子でそう話す。のんびりとした顔つきだった。強がりでもなんでもなく、本当に、なんてことないようなそんな感じで。

 梨紅は思わず目を瞠る。

 クドラクが切られた場所の埃を払うみたいに手で払うと、寸前に切りつけた傷口がまるでそこに存在しなかったかのように消えていた。

 残ったのは血の跡だけ。傷跡はそこにはもうすでになかった。

「魔力がね。戻ったから」

 手で払い終えた後、クドラクが手に付いた血をぺろぺろと舐めながら彼女は喋る。

「傷の治りもあの時よりもずっと早いよ」

 血を舐め終える。

「だから安心して」

 クドラクはまっすぐと梨紅の目を見て、こう告げる。

「気が済むまでわたしを攻撃して。だいじょうぶ」

 優しい笑顔で、


「わたしは死なないから」



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