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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.39
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338 甘さor優しさ

「はあ……はあ、ふう」

 呼吸が乱れるがそれはすぐに収まる。

 すぐに息を整え、身を正す。

 桜井の方を見ると、苦しそうな表情ではあるもののどこか安らかで、小さく息をしていることからか気絶をしているようだ。

 そしてその時、ぽんっと後ろから肩を叩かれた。

「ち。先にやられてしまったようね」

 後ろを見るとそこにメアさんがアサギに肩を貸しながら朗らかに笑っている姿があった。

 やられたと言う割には表情がとても柔らかく見えるのは気のせいなんかじゃないだろう。

「私が先にぶん殴ってやろうかと思ったのに、まさか貴方がやるだなんて……見直してあげてもいいわよ、久遠かなた?」

「そこは素直に認めてくれると嬉しいかな、メアさん」

 そう言うとメアさんがアサギに貸した肩とは逆の方の手を差し出してきた。なので僕はそれに応えるように手の平を合わせ、パーンと彼女とハイタッチを交わす。

「う、うーん」

 軽快な音が鳴り響くと少し前まで気絶していたアサギが目を覚ました。

「わ、たし……どうして……う、頭が……」

 アサギが自分の頭を手で押さえるとメアさんがやれやれと言うように、

「そりゃあ、あんなのにぶっ飛ばされたら頭ぐらい痛くもなるわ。……平気?」

 アサギの顔を覗き込む。

「平気、じゃないけど……平気。大丈夫」

 そう言ってアサギがメアさんの肩から離れる。

 どうやら本当に平気らしい。少し強がってはいるものの、そこまでの重体ではないようだ。

「えっと……貴方は、確か……」

 視線が僕に向けられたことに気が付き、僕は()()()彼女と挨拶を交わした。

「初めまして、アサギさん。えっと……僕、久遠かなたって言います」

「あ、ええ。ご丁寧にどうも。……って、何で私の名前知ってんの? どこかで逢ったことあったっけ?」

 アサギ、改めアサギ()()が首を傾げる。

 どうやら洗脳されていた時の記憶が曖昧なようで、僕のことを覚えてはいないらしい。

 これまでの経緯を軽く説明し、僕と彼女が初対面ではないことを話した。


 ◇


「そんな……ことが」

 完全に記憶を取り戻すには至らなかったが大体の経緯を彼女は受け入れ、そして、

「えっと……じゃあ、まず。その、ごめんなさいっ!」

 アサギさんは信じられないぐらい僕に頭を下げて謝罪した。

 そのあまりにも早い速度の謝罪に僕は慌てるように彼女の頭を上げるように頼んだ。

「い、いやいや、いいですよ! そんなに頭を下げなくても! 貴女は桜井智に操られていただけに過ぎないんですから謝る必要なんてありませんから!」

 謝るのは慣れているくせに謝られるのは慣れていないらしい。彼女よりも深く頭を下げそうになりつつも、ぐっとそれを堪え、彼女の返答を待った。

「それに僕は死んでないんですし、そりゃあ殺されそうにはなりましたけど、死んでないんですから、それでオッケーじゃないですか」

「そのことも……なんだけど」

 アサギは僕の言葉に言い淀み、やがて、また頭を下げるようにして、

「別に貴方を殺そうとしたことは……気にして、なくて。いや……気にしろってんなら、バリバリ気にするけど」

「いい、いい! しなくて大丈夫でっす!」

「そお? じゃ、気にしない」

「あはは……」

 人を殺そうとしたことを気にしないと断言する様はどこか歪かもしれないけれど、ある意味では洗脳されていた彼女らしいと言えばらしいとも思う。……少し話をしただけだけど。

「でも……私が気にしているのは、そっちじゃなくて」

「じゃあ……どっち?」

 僕が尋ねると彼女はばつが悪そうな顔で小さくこめかみ部分を指で掻いて、

「……貴方の連れ」

「……!」

 僕の連れ。

 きっとそれはクドのこと。

 彼女らが連れ去り、僕がここへやって来た理由の一つ。

「私たちが……さらった、のよね。貴方の仲間を……。貴方の大事な人を……。だから、ごめんなさい」

 そして再び彼女は頭を下げた。

(そうか……気にして、くれていたんだ)

 アサギさんは罪悪感にさいなまれていた。

 それを聞いて僕はホッとした。

 彼女は全然悪い人なんかじゃなかった。それを思うだけで僕の心は救われたような気持ちに至る。

「大丈夫です」

 彼女の思いを理解し、僕はそれを慰めるように言う。

「僕は絶対にクドを助けるし、りっちゃんも勿論救い出す。……それだけです」

「貴方……」

 辛気臭い雰囲気が辺りを包み、これ以上会話が続きそうにないところに、

「じゃ、このお話はおしまいってことで!」

 パンっとずっと沈黙していたメアさんが僕の背中を思いきり叩いた。

「いてて……」

「ちょっと、メア! 貴女、何して!」

「いつまでも辛気臭い話なんかしてんじゃないっての。謝罪と礼がしたいなら店で、()()()()()ですればいいじゃない!」

「それも……そうね!」

 メアさんの言葉を皮切りに辺りに充満していた空気がガラッと変わる。

 彼女があのガールズバーのキャストだという話にも頷けるモノだ。

「今はそれよりも」

 そう言ってメアさんが視線を僕たちから違うところへと移す。

 そしてその視線の先には、

「そうだ、ミセ!」

 もう一人のキャストが。

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