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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
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335 誤算

 うめきながら体を起こそうとする桜井をアサギは徹底的に見下ろす。立場を理解させるように、その姿を見て嘲笑する。

 状況を上手く理解出来ないのは桜井だけではなく、この僕自身もよく分かっていない。

 銀の鎖が外れたことにより、体の自由が戻った僕も磔にされたまま地面に落ち、桜井と同じように四つん這いになっていた。

 呻くほどではないが、息を整えるのに少しの時間を有し、その間に目の前に一つの影が差す。見上げると、そこには、

「やっほ」

 軽い調子で片手を軽く上げたメアさんの姿が見えた。

「メア……さん……?」

 彼女に手を指し伸ばされたので、その手を取って立ち上がると軽くふらつく。どうやら銀の鎖で軽い火傷のような傷が出来ていたらしい。

「どうしてここに?」

 当然の疑問を直接彼女にぶつけてみた。

 彼女はばつが悪そうな表情を少し浮かべはしたが、隠すつもりはないらしく、

「ごめん。ついてきちゃった」

 と、おどけて見せた。

「ついてきてって……え? ルシドさんはこのことは?」

「知らないと思うよ。だって、黙って来たから」

「大丈夫なんですか、それ!? ルシドさん、心配するんじゃ」

 メアさんは開き直るように大きくため息を吐き、手をひらひらと動かしながら、

「もう、めっちゃ怒るでしょうね、めーっちゃ」

 と、言った。

 ふざけて見せてはいるが、ルシドさんに呆れられることも怒りを買うことも承知でメアさんはここにいる。それは、何とも頼もしいことだと思う。

 キャストたちにとっても、僕にとっても。

「ここに来た経緯は後で話す。今は」

 そう言ってメアさんの瞳の色が変わった。

(そうだ……桜井……)

 いくらでも話をしていたいところではあったが、今はそれよりもやらなければならないことがあることを僕は思い出す。

「図に乗るな、人間」

 吐き捨てるような挑発の言葉を敵意を剥き出しにして桜井にぶつけるアサギの姿。

 そしてそのアサギをよろめきながら立ち上がり、恨めしそうな瞳で睨む桜井。

 現状、この光景を見ただけの優勢はアサギに分があるように見える。

 しかし、この優勢は長くは持たない。そう考えているのは挑発をぶつけるアサギにも僕の隣でいつでも飛び込めるように構えるメアさんも、そして。――僕自身も。この場にいる全員がそう考えていた。

「化け物共が……調子付きやがって……」

 桜井は壁に背を預けてようやく立ち上がれるほどに弱り切っているというのに、まるで隠そうともしない敵意と殺意を剥き出しにしながら僕たちの前に立つ。

「これだから……嫌いなんだ。化け物が。吸血鬼が。人間の領分に土足で踏み入って来て、力で、単純な暴力で領域をかき乱して。……この恥知らず共が……」

「どっちが恥知らずだ」

 言うだけ言った桜井の言葉をメアさんが我慢の限界だと誇示するように遮った。

「元々はアンタが私たちの領域を汚したんだ。私たちは私たちだけで生きていたって言うのに、アンタは私たちの領域を超え、そして私たちの仲間を洗脳だなんて言う卑劣な手で奪っていいように使った。どっちが恥知らずだ」

 それが彼女がここへ来た理由。それが彼女が戦う理由。それが彼女が好きな人の意思を無視してでもここへ来なければならなかった理由。

 桜井は土足で彼女たちの領域を汚し、同胞を奪っていった。

 そのケジメを付けに来たのだ。

 そして、その彼女の決意と覚悟を。


「ふん」


 桜井は鼻でわらった。

「使った? 違う。違う違う、違う。いいように使ったんじゃない。お前たちのような化け物を、人間社会に溶け込むことも出来ないごみ虫を、力でしか意思表示の出来ない短絡的な化け物を、――使()()()()()()()()()。有難く思え、化け物共!」

 今まで見えてこなかった桜井が剥き出しの感情で吠える。何にも包まれていない感情だからこそ、それが桜井の本音なのだと分かる。だけど、それが見えてきたとしてもその感情に同意することは出来なかった。

 人が他人を意思の関係なしに使っていい理由など、どれだけ考えても理解は出来ない。

「もういいわ。アンタ……本当につまらない男」

 アサギは心底うんざりしたような表情で桜井を見下ろした。

「じゃあ、死んどきなさいな。化け物がアンタを殺してあげるわ。アンタの想像通りの化け物が!」

 魔爪を出現させ、振り抜こうとするアサギ。

 しかし、その爪を桜井の前に出現した闇が受け止めた。

「ぎ、私の……爪が……!」

 闇に受け止められた爪が闇に塗り潰されるように砕け、そしてアサギの体が後方へと吹っ飛ぶ。

「アサギ!」

 僕の隣に立っていたはずのメアさんが防御の間に合わなかったアサギのクッションとなるように背中に回り込み、全力でアサギの体を支えに行く。

「化け物には化け物をぶつける。当たり前だろ?」

「レディ……」

 無意識的に呟いた言葉は誰に聞こえた訳ではない。だが、その言葉を口にした途端、全身に恐怖が蘇ってきた。

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