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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
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290 小さな勇気、大きな手

『おっ? どうした? お前は輪の中に入らないのか?』

『その資格が私にはないから』

『資格だあ?』

『力も弱くて魔力も低くて、私の特技は精々が魔力や霊力の探知ぐらいだから。場違いだと思う』

『ばーか。んなもん、いらないっての。輪の中に入るのにそんなごちゃごちゃしたもん。輪の中に入るにはよ、こう言えばいい。“仲間に入れて”ってな』

『な、なに? 急に頭を撫でて……』

『“大丈夫”。頑張ってこい、()()


 ◇


「ミセ?」

「な、何?」

「いや。ぼーっとしてたから。大丈夫?」

「平気よ。貴方が気にすることじゃない」

 僕とミセの二人は倉庫を離れ、ビルの廊下を歩いていた。

 そう、堂々とだ。

 部屋に入る前と出る後の違いと言えば僕の顔と体に出来た生傷くらい。

「大丈夫だって。きっと上手くいく。上手くいくことを信じよう。悪い方に考えると流れもそっちに向かっちゃう。だから成功を信じるんだ。僕も全力でサポートするから」

「……そんな顔でかっこつけられても」

「……ははは」

 確かにミセの言う通り、僕の顔はひどい。いや、元々の顔の造形の話ではなくて。

 左目のまぶたに打撲痕。右頬には擦過傷さっかしょう。服の上からでは分かりにくいが、上半身も下半身も出来うる限りの生傷を負っている。

 はっきりと言って重傷。本当なら立っているのも辛い。歩くだけで呼吸をするだけで傷が痛んで疼く。

 だけどこの怪我は何もここに至るまでの誰かに付けられたモノではなく、ミセと僕が自分たちで付けた傷だ。

 作戦概要はとてもシンプル。寧ろこれ以上ないぐらいに簡略化した。作戦は練れば練るほどいいモノが生まれるのは常だけど、それと同時にとても複雑化する。複雑化すればするほど作戦実行におけるタスクも当然のように増えてしまう。

 現状、僕とミセの二人しかいないのだから作戦の複雑化よりも成功率を出来る限り上げた方がいい。だからこその作戦の簡略化。

「歩きながらでいいからもう一度作戦をおさらいしておきましょう」

 ステップ(ワン)、捕虜を捕らえる。

 と、言っても。この部分はとっくにクリアしている。

 捕虜役、僕。捕まえた人、ミセ。

 役者は二人。侵入者は僕、結社の構成員がミセ。単純明快な役割分担。

 ステップ(ツー)、桜井智に報告。

 要は僕の身柄をミセの上司である桜井智に引き渡す。

 ぶっちゃけ、ここが一番大事なところ。謂わば賭け。

 この部分が作戦の成否の大部分を占める。ここをしくじれば失敗して死ぬし、成功すればきっと作戦は上手くいく。

「上手くいくかしらね」

「普通にやったら多分ダメだと思うよ。別に桜井智が侵入者を生け捕りにしろっていう命令を出していたのならともかく、ミセ? そんな命令あった?」

「ま、殺せって命令ならあったけど……」

 殺せと生け捕りじゃ意味が全然違う。どちらも侵入者に対する命令だとしても、生かすのと殺すのではその後の対応に差が出る。

 殺す方は既に用済みの場合。殺して、はい終わり。

 生かす方は捕らえてからの何らかの利用価値がある。

「けど、結構乱暴だね。侵入者は即殺せだなんて。今が盟主争いの最中だとしても……乱暴だ」

「そう……だね。ピリピリしているのかもしれない。桜井智が、と言うよりは。この結社全体の空気というか、そういうのが」

「命のやり取りをして、目の前に見える人間全てが敵に見えるなら……ま、仕方ないのか」

 でも、それにしても少しやり過ぎな気がしないでもない。確かに結社のビル全体に結界が張ってあって、ほぼほぼ何も知らない人間が侵入することがない仕組みになっていたとしても、その可能性がゼロでない訳でもないはずだ。

 世の中には偶然という便利な言葉がある。

 その偶然の芽すらも潰す。そんな印象。

 月神結社(イガルクファランクス)という大きな組織が、そんなせこい真似するか、普通……?

 僕の知っている知識を総動員する。

 結社は結構な大組織だと聞いている。このビルは謂わば日本支社。世界的に活動を行っている結社の日本という小さな島国の日本支部。

 正直、そこまでの偶然を潰さなければいけないほど困窮こんきゅうしている組織だとも到底思えない。

 結界はどちらかと言えば配慮だ。結社が外部の人間を巻き込まないようにという配慮。

 その配慮を下せる大組織が偶然を潰す。

(うーん、なんか気になるなあ……)

 どう考えても二つの派閥がある。

 一つが結界を張り巡らせ、一般の人間に配慮を行える者。

 もう一つが結界など関係なく、責を負わず、無関係な人間を簡単に殺せる。冷酷、あるいは規律に殉じることの出来る者。

 組織にとっては後者の方が断然良いのだろう。そしてその後者が恐らく桜井智。

「んー……もう一回確認。ミセは桜井智に命令されていた訳だよね。侵入者は即殺せって」

「ええ。侵入者が入って来る場合は例外なく殺せ、そういう命令を今朝から発令していたわ」

「うーん、やっぱり随分とピリピリしているなー。行動が早い」

 あまりにも行動が早い。

 盟主争いと言うのは端的に言えばお家騒動みたいなモノじゃないのか?

 侵入者を警戒するって言うのはどちらかというと外敵じゃないのか?

 ……警戒し過ぎ……?

(もしかしたら……)

 本当にもしかしたらの話。僅かな可能性。

(勝機があるなら……ここか)

 ミセの作戦では僕を桜井智に引き渡すことで引き渡す際に乗じて桜井智を倒すと言う算段、“だった”。

「ちょっとだけ作戦の改良案……いい?」

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