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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
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283 剥がれ落ちていく“ナニ”か

 人のふり見て、って訳じゃないけど、何となく気合が入った。

 この子の、ミセの一時的なモノに過ぎないだろうけど、弱気な部分を見せられて少し気合が入る。

「よし。じゃあ僕がここを飛び出して囮になるからその間にキミは」

 現状、思いつく策としてこれがベストだと思った。

 侵入者と結社の仲間。どちらを追うかと考えれば侵入者の方。

 思いついたのならさっそく行動。

 踵を返し、部屋から飛び出ようとして、

「こんのっ!」

 思い切りミセに後頭部をはたかれた。

 痛かった。

「な」

 急に何をするんだと抗議をしたかったのだが、それを口にする前に振り返った僕をミセはもう一度叩く。

「馬鹿ですか。いいえ、馬鹿ですね。あとついでにたらし」

 おまけに罵られる。

「たらしって分かります? 人たらしではなく女たらし。分かりやすく言うと女の敵」

「うぐ……」

 頭は痛いが心はもっと痛い。頭がズキっと痛むのなら心はグサッと言う感じ。

「なぜ、僕は今叩かれたんでしょうか?」

 滅茶苦茶素朴な疑問。

 ミセは僕の問いにやれやれと肩を竦めながら指を一本立て、

「まず、第一に」

 ちょっと引っかかる。道端の小石程度。

「まず」

「まず。ええ。まず」

 小石かと思ったらトラばさみだった。

「…………どうぞ」

「第一に貴方が自分を犠牲にしてまでも私を助けようとする義理はありません」

「まあ……そりゃ」

 ミセの言わんとしようとすることが理解出来ない訳じゃない。そこまで愚鈍に生きていない。

 詰まるところ、ミセはこう言いたいのだ。

 どうして知り合ったばかりの相手にそこまでの危険を冒すのか?

 リスクに見合うリターンが恐ろしく少ない。いや、もしかしたら無いと言い切っても構わないレベルかもしれない。

「そこまで深い関係柄じゃない。せいぜいがこの非常時に利害関係が一致しただけの一時的な協力者が関の山です。なのにどうして?」

 ミセは何も間違ったことを言っていない。正しい。正論だ。

 僕とミセは初め、敵同士だった。

 クドを奪われ、激昂し、戦ったこともある。

 だけどミセには狙いがあって、僕を助けた。だから今は一緒にいる。

 でも、それだけだ。本当にそれだけ。

「そりゃ仲間だから。心配だってするでしょ?」

「――――」

 ミセの呼吸が止まった。

 それは驚きのリアクションと言うよりは心の底から呆れかえるモノ。

「正気?」

 ミセが『貴方大丈夫? 主に頭』みたいな目で僕を見る。

「うん。正気、のつもり」

「…………」

 彼女は何も言わない。何かを言いたげな顔はしていたけれど、僕は僕なりの考えを言うことに。言いたいことがあればその後に聞く。

「確かに僕とミセの関係なんて本当にキミの言う通り、ただの一時的な協力者、言ってしまえばその場しのぎの場当たりで繕っただけの一つの綻びで協力関係が破綻してしまうような脆いモノだけど」

 彼女の瞳に背を向けない。

「それでも僕はキミを信じることにしたんだ。キミの言葉に嘘を感じなかったから。キミを“仲間”だと信じることにして、その“仲間”の信頼には応えなくちゃいけないと、僕は思うんだ」

 真っすぐと。僕は彼女を見て、彼女もまた僕を見た。

 そして、

「…………ふう」

 やれやれと言ったような顔でミセが肩を竦める。

「……本当に間違っていなかったのだと思います。貴方のその考え方、貴方のその生き方、その全てが本当によく似ていますから」

「……え?」

 気のせいか、それとも気のせいであって欲しいと心のどこかで思ったのか。ミセは僅かばかりの微笑みを見せ、だけどどこか悲しそうな顔をして、その憂いを隠すかのように表情が戻り、

「貴方のそのみだりに女性に触れる不躾さも。……この女ったらし」

 少しだけ顔を赤くした。

 首を傾げる。

 どうして顔が赤いんだろうか?

 それに……。

 似てる? 誰に?

「……話はここまでみたい」

 ミセが扉の外に目配せをした。今なら分かる。僕たちを追って来ていた男の気配がもうすぐそこにまでやって来ていた。

 もう決断しなくてはいけない。

 これからどうするのか。どうすべきかを。

「やはり……貴方を失う訳にはいかない。…………()()()()()()()()

「え?」

 声を漏らした。

 驚いた、からではない。


 気が付いた時には僕の足はミセの足に掬われていた。


 咄嗟のことに僕は受け身一つ取ることが出来ずにそのまま地面に仰向けの体勢で倒れ込んだ。

 そしてそのままミセは僕に馬乗りになり、首を抑え込むように腕で抑え込み、耳元で、


()()()()()()()


 そう囁いた。

今年最後の更新になります。

来年もよろしくお願いいたします。

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