027 クドラクとクルースニクと許嫁と
「しっかし」
タバコ屋で買ったタバコを手の上でぽんぽんと浮かしながら、軽く愚痴をこぼす。
「ムチャ言うよねーあの先生も。生徒にタバコ買って来いとか。ふつう言わないよね。大人なら」
「そうなの?」
と、首を傾げるクド。
「そうなの」
と、断言してみせるとクドは「ふ~ん」と、これまた興味なさげに頷いた。
そして、
「それより……あの人」
「先生?」
「うん。そのせんせーってのがよく分かんないけど、あの人とばっちり目が逢ったよ」
「うぇ!?」
驚いて変な声が出る。
「ま、まさか今クドって他の人に見えてたり……する?」
「ううん」
クドは首を横に振る。
「見えてないと思うよ。ほら」
そう言って商店街の店先のガラスを指さす。
「あ」
ほんとだ。
クドの姿がガラスに映ってない。
「じゃあ……でもなんで?」
たまたまにしてはクドがそう断言していることが気になる。
あー……でも、考えても分からん。
「ねーカナタ」
と、クドが話題を変えるように、
「さっきあのせんせーが言ってたクラス担任ってどういうこと?」
「えっ、ああ。クラス担任ってのは簡単に言えば僕を直接管理している先生ってことかな。あ、ちなみにあの先生の名前は八神環奈先生。通称“月城の鬼”。あんな性格のくせに養護教諭ってのが信じられないよね。一日にタバコを一〇〇本以上は吸ってるヘビースモーカーなのにねー。あ、でも」
ふと思い出す。
「そういえばそういう噂もあるなー確か」
「噂?」
「そ、噂。なんかね~よく一人でぶつぶつ喋ってるんだって。タバコを吸いながら。誰もいないのに、まるで誰かと話をしているみたいに」
ま、さすがにマリファナを吸っているだなんてことはないだろうし。
「うーん、そう考えるともしかして先生はそういうのが見える人なのかも」
いわゆる“特別”な力を持っていると考えればそういう八神先生の奇行も頷ける。まあ、それが奇行だって言うんならあの横柄な態度の方が僕からすると迷惑だと思うけど。
八神先生は常識外れなところがある。
それがクラスメイト全員の総意だったりする。
……でもそれも別に気にしてないんだろうな、あの人は。
「???」
僕は眉をひそめ、
「ま、いっか」
色々と考えを放棄した。
「別に取って食われるって訳じゃないだろうし、あんまり気にしなくてもいいんじゃないかな?」
と、クドに割と投げやりなアドバイスをしつつ学校への道を辿る。その後ろをクドがまたふよふよと浮かびながらついてきた。




