272 “彼女”の中の人
「同じ……?」
呆然と顔を向ける。
クルースニクが放っていたはずの怒気や狂気が一気に削がれるような音がした。
はっきりと言葉にすれば混乱している。
ここで言う同じとは“栗栖梨紅”と言う少女と“クルースニク”たる彼女の中に存在する魂を比べて、と言うことになる。
そんなことは分かりきっている。だからこそシンプルに同じと言う言葉の意味を理解出来ない。
「ああ……同じだ」
僕は言う。
はぐらかさず、そのまま思ったことを直球に。
「……ずっと話を聞いて。梨紅ちゃんが言っていた言葉も思い出して、僕はそう感じた。……でも、まだ確信はない」
「ならば――」
貴様の思い過ごしであろうとそう続けようと思っていたのだろうが、たった一言の言葉を紡がれて、その言葉は出てこなかった。
「だから確信を得るために、……一つ聞きたい」
――息を呑むような音が聞こえた。それは誰のモノだったのか。しかしその息が誰のモノであったとしても、結局は変わらないことだろう。
だって尋ねることは一つ。たった一つ。
「あなたは何人目のクルースニクなんですか――――?」
「――――――」
クルースニクは答えなかった。
答える必要が無かったのか、想定していた問いと程遠い答えを瞬時に言葉にすることが出来なかったのか。
どちらにせよ、それがある意味“答え”に近い。
「貴方は言った。クルースニクの力は継承される、いや――――継承させるって」
「それが……何の?」
「貴方は梨紅ちゃん、栗栖梨紅に力を継承した。そしてそれと同じように貴方も力を継承された内の一人なんじゃないですか?」
「――――」
ほとんど考察のようなものだったが、それが今、確信に変わった。
クルースニクは言葉を失ったのだ。
話してもいないことを言い当てられて、何を言い返せばよいのかも分からずにただ沈黙。
そしてやがてわずかに眉根を顰め、
「……確かに貴様の言う通りだ」
……肯定した。
認めた。
事実を受け止め、空想を現実に形作ることを是とした。
「既に初代クルースニクは寿命で亡くなっている。当然だ。所詮は人間、いくら長命でも一〇〇年も生きられない。時代も時代だ。五、六〇年生きていたかどうかも怪しいだろう」
全身に変わらぬ殺気と敵意を孕みつつ、
「それで? だから何だ。何の意味がある。今の問答にどれだけの価値がある? 貴様の妄想が貴様の想定通りの内容だったことは認めよう。俺は初代、二代目から続く三代目のクルースニクであり、付け加えれば栗栖梨紅は四代目のクルースニクだ。――――それで、それが、一体、何だ――――?」
――いや、寧ろ強くなっている、か?
隙あらば縊り殺すぐらいのことは平気でしそうなぐらい。
分かってはいる。この人に隙を見せてはいけないと言うことぐらいは。
しかし何故だろうか。この人に対する警戒心が初見の頃よりも薄くなっているのは――。
だから確かめた。
理由が知りたいのもあった。
だけど何よりもその理由が“良い”理由であって欲しいと言う願望も相まって。
「貴方は……」
単刀直入に聞こうとした。しかしその言葉よりも先に、
「ふーん、侵入者の一人もろくに捕まえられないのか。ま、所詮は人間ってことよね?」
と言う女の声が上空より聞こえてきた。