243 怪物(レディ)
気が付けばもう朝になっていた。
「………………、どうして……あんなことしたんだろ?」
ため息を吐きながらベッドから体を起こす。
正直に言えばあまり眠れなかった。
理由は二つほどある。
今日は決闘の日だ。自分の運命が決まる――いや、終わる日。
分かっているのだ。もう、どれだけ足掻こうが逃げ出したいと思うと自分の運命は既に定まっている。――あの日から。
だから、怖いとは思わなかった。むしろ、ああ……今日だったんだ、などと悠長に考えてしまうぐらいには心の余裕があった。死期を悟る病人の気持ち、と言うヤツだろうか。心情としてはその類。だから……そう、だから。眠れなかった理由は別にあるのだろう。
「…………はあ」
もう一度ため息を吐く。今度は先ほどのため息よりも気持ち大きい。
そうなのだ。このため息の正体は緊張と不安によるものではなく、ただの後悔。
今朝方、クラリスは何の気の迷いかあるいは狂いか、自分でも分からず、誰にも理解し得ないであろうが、久遠かなたに電話をしたのであった。
時刻にして午前五時頃であったであろうか。
ふと、電話を取り。
ふと、気が付けばクラリスは彼のスマホに電話をかけていた。
訳が、分からなかった。
この自分が理由もなく、ただ単純に声が聞きたかったから電話をかけるなどというただの時間の浪費と電話代の無駄な出費を重ねるだけの意味のない行動をするだなんて。
ただ、腹が立つことに。
「……………………よし、起きるか」
今日と言う日を迎える心構えが出来ていた。
……不安が消えていた。
誰だって、明日お前死ぬから、なんて言われた日には不安を覚えないことはないだろう。恐怖に駆られてしまうことだってあるだろう。
だけど、本当に何故かクラリスの中にその手の感情が綺麗さっぱりと消え去っていたのだ。
声を聞いたから、なんて都合のいい話があるはずがないとクラリスは自分の中で決着をつけ、その身に気合を入れるためにぴしゃっと自分の頬を自分で叩いて気合を入れる。
朝、シャワーを浴びる。
昨日、あまり眠れなかったのもあり、今日は冷水を浴びた。決して気持ちの良いモノではない。これではシャワーと言うよりは行水の修行のようなモノだ。だが、それでいい。それぐらいで丁度いい。
声が聞きたかったから電話をしたなどとのたまう能天気な頭を覚醒するにはこれぐらいで丁度いいのだ。
で、また後悔。
(……ったく、本当にどうしたって言うのよ、私は……!)
考えないように努めれば努めるほど深みに嵌まっていく。どうしてこんなにも久遠かなたのことが気になっているのか、どうしてこんなにも考えてしまうのか、自分でも訳が分からなかった。
「…………あれ?」
冷たいシャワーを浴びる中、クラリスの頬に温度の違う滴が流れ落ちていた。
今日は、厄日だ……。




