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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
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020 新しい服と古い夢

 部屋に戻るなり、ぽかんとした。

 部屋にはクドラクがいた。それは、まあ。それはまあいい。

 誰かが部屋の中で待っているという状況に慣れていなくて驚いた。うん。何の不思議もない。

 問題は。

 服だ。

 僕は今までクドのちゃんとした恰好を正直、見たことがなかった。出逢った時もワンピース一枚、まるでお洒落気のない恰好で、今朝は裸Yシャツ。普段の髪もぼさぼさで何の手入れもされていなかった。

 それが……。

 かあっと頬を熱くなる。

「どうかした?」

 部屋の中心で女の子座りをしたクドが小首を傾げる。ちょこんと結られたツインテールが犬の耳みたいに揺れた。

 素直に驚いた。

 ただ可愛らしい服を着て、銀色の髪を丁寧にブラッシングをして、身なりを整えてあげるだけでこうも変わるものなのだろうか。女の子とは不思議だ。

「……ごめん。えっと……それは?」

 尋ねると、

「うん? これか? ユミがくれた」

 そう言った。

 だけどあまり嬉しそうという感じではない。

 だけど、嫌そうでもない。

 なんというか……複雑な。そんな感じの顔。

「う~ん」

 首を捻るクド。

「どうかした?」

「やっぱ脱ぐ」

 と、言ってからクドは白いミニスカートの中に手を入れる。

「わ! わ! わ~~~~~~~~っ!?」

 慌てて止めた。

「な、なにやってんのっ!」

 クドは止められたことに大変不服そうにして、

「これ、嫌い。なんか……むずむずする」

 言う。

 これ、とは。

 まあ、これ……で。

 これこれ。女の子がそんなはしたない。

「なあ。どうして穿かないとダメなんだ? ぱんつ」

 ぱっ!?

 今まで避けてきたワードを、何となく触れないように突っ込もうとひっそりと心の中で誓ったワードを、禁句(タブー)を。クドはあっさりと口にする。

「ユミも言ってた。ぱんつを穿かないとダメだって。でも、どうしてだ? こんなの服を着てたら見えないじゃないか。だったら別に穿かなくてもいいと、わたしは思うのだけど?」

 心底不思議そうに。

 ぱんつをなぜ穿かなければいけないのかと問う。

 問いながら、

「これ……見えないでしょ」

 さっと立ち上がって、スカートの裾に手を掛けて、そっとたくし上げる。彼女の細い褐色の足の根元が露わになって、くだんの根元の奥にある青と白のストライプ模様の下着が……。

「わ~~~~~~~~~~~~~~~~!!」

 慌ててばさばさと手を振った。視界を壁にやり、出来るだけ見ないように心掛けた。

「???」

 当の本人はどうして僕が顔を真っ赤にして顔を背けているのかも分からずに、小首を傾げる。すっとスカートの裾が戻る音を聞いて、ようやく僕はクドに視線を戻す。

 僕は驚きのあまり、目を丸くした。

 クドはまるで恥ずかしがっていない。羞恥心のかけらもない。というより何を恥ずかしがる必要があるのかとさえ思っている様子だ。

 は~と息をついた。

 なるほど。

 記憶がない。だが、それよりももっと……。

「見えなくても穿かなきゃダメ。僕だってちゃんと穿いてるんだよ。みんな。みんな穿いてるの」

「むぅ」

 口を尖らせて、ようやくクドは納得してくれた。

 大変不服そうではあるものの。

 ちょっとだけ機嫌を損ねてしまった気がしたので、

「あ、でも。うん。その服は似合うね。可愛い」

 僕はそう言った。

「似合う?」

 言葉にクドは小首を傾げた。

「うん。可愛いよ、とっても」

 なので笑顔でそう返す。

「可愛い……」

 呟く。

 そして。

「なに……」

 目をみはり、きょとんとした瞳で僕を見返す。

「なに、これ」

 笑顔で返し、僕が微笑むと、

「!」

 驚いたようにクドはきゅうっと体を丸める。

「なんだろう……」

 それから立ち上がって、

「変だ!」

 叫んだ。

「変な感じがする! むずむずする! やっぱりこのぱんつのせいだ! 脱ぐ。脱ぐったら脱ぐ!」

「ダメだったら!」

 全開で叫んでそれを止める。

 クドは頬を膨らませながら、

「だってむずむずする! カナタが可愛いとか言ってから変なんだ。……う~、何だか分からないけど……なんか……なんか変なんだ。どうして、どうして!」

 パニくる吸血鬼。

 僕は笑いを堪えることが出来ずに噴き出した。

「ははは!」

「笑わないでよ! なんなんだこれ!」

 たたた、と。地団駄を踏みながらぽかぽかと僕の胸を叩く。

 ……本当にこの子は分かっていないんだな。

 言われたことがない言葉にすごく動揺しているのが何よりの証拠だ。

 だから僕はぽんぽんとクドの頭に手を乗せてから、

「嬉しいだけだから、全然変じゃないよ。むしろ可愛い」

 照れ笑いを浮かべながらそう答えてやる。

「む~~~」

 クドはそれでも分からずにぷっくりと頬を膨らませた。

 ちょっとその反応が面白くなってきて、

「可愛いよクド」

 少しからかってやった。

「むぅ、む~~~」

 案の定、クドはさらに頬を膨らませて僕を叩く。

 ぽかぽかと。

 その様子は、ただの“子供”だった。

 吸血鬼などではない、ただの“子供”。

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