201 少年くん
……のだが。
ふとしたことがきっかけであった。
あれから数十分の時が過ぎ、僕と白檀が先生に(恐らく適当に)割り当てられた区域の掃除を続けていると、
「……あ」
「……あ」
僕の手に、あの件の少年の手が当たってしまった。
少年と少女であればボーイミーツガール的な出逢いを予感させるような出来事ではあったものの、そこは健全な少年と少年。
それからどうなったかというと、
「すいません」
「あ、いや……こっちこそ」
普通に謝った。
まあ……これが普通の反応だよな。
最近は変態シスターと妙に関わっているせいで妙な勘ぐりとかが生まれてしまったが、これが普通。アレがおかしいのだ。
「あの……?」
「え……?」
気が付けば少年が僕の顔を不思議そうな顔で見つめていた。
「ぶっ!?」
あまりにも素朴そうな顔で僕の顔を見つめていたので噴き出してしまう。先ほど、あの変態シスターのことを思い出してしまったので、ついあの変態が持っていた薄い本のことを思い出してしまったのだ。
少年同士の耽美な青い春を描いた、あの本。
タイトルは何だったっけかな?
あー……そうだ、確か『ボクと少年ヴァンパイア』だ。そんな感じのタイトルだったような気が……。
でも……何でそんなことを急に思い出したんだろう……?
「う~ん……………………………………」
僕は少年の全身をマジマジと見つめ、
「あ」
一人、合点がいった。
(似てる……この気弱そうな感じとか、雰囲気が……。すごく……似てるんだ。あの……少年くんに)
まあ……完全なる他人の空似だろうけど、似てるよなあ……この感じ。
やがて、
「お前ら、何してんの?」
と、白檀のやつが声をかけてきた。……なんで、ちょっと不思議そうな声? まるで何かを訝しんでいるかのような……って?
「あ、あはは……いや~どうも。あ、あはは……」
件の少年もどこか引き気味。
理由もすぐに分かった。
手。
手が。
手がね……その……ね。ずっと、ね。
握りっぱなしだった。
「う、うわ~っ!?」
思わず叫んでから慌てて手を離す。それからすぐに脊髄反射のように後方へと振り返った。
(ほ……。いない……)
本気で安心する。
こんな姿をもし、あのヒトなんかに見られた日には、破滅だ。破滅。久遠かなたの破滅記念日。
「は、はは……それじゃ、僕はこれで~」
後ずさるように少年が、一歩、二歩と摺り足で僕との距離を離し、ある程度の距離を離すと。
――だっ!!
すぐさま逃げた。
初めて僕は一目散に逃げ出す人の姿を客観的に見た気がする。
って。
「ち、違うよ! 違うから!!」
「まー、逃げるわな。誰だってそーする。俺だってそーする。ホモ相手に正常な判断力がある男子がすべき行動なんてものは逃げ出すか隠れるの二者択一しかねーし」
「違うっての!?」
ってか、ホモじゃないし!
慌てて少年を追いかける。弁明と誤解を解くために。
しかし、よくよく考えてみると。
この追いかけるという行為。
……まるであの人みたいじゃないだろうか?
僕はあの人とは、あの変態とは違うのに〜!!




