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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.2
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019 変態シスター現る

「ふう……」

 悪夢は去った。

 その思いが疲労感をどっと倍増させ、しばらく立ち上がることを困難にさせる。

 そういえば僕はどうしてこの人に追われていたんだろう……。

「……ん」

 僕は倒れているセラさんを見て、何かに気が付いた。

 彼女の周りに何かが落ちていた。懐に忍び込ませていた大量のナイフと僕に付けさせようとしていた犬の首輪の他に。

 本が。

 やたらと薄い本が。

 それも大量に。軽く見積もっても三〇冊以上はある。

 好奇心に駆られ、手に取ってみた。

 手にした本――――というよりはここに落ちている全ての本だが、その表紙には耽美なタッチで妙に艶やかに描かれている上半身裸の少年二人のイラストが描かれていた。見たこともない系統の本だった。……というよりこの薄い本がよく分からない。……何でこんなに薄いんだ、これ?

 首を捻りつつ、僕は手に取った本をじっと見た。

「なになに…………漫画……かな? えっと? タイトルは……『ボクと少年ヴァンパイア』……なんだこりゃ?」

 聞いたこともないタイトルの本だった。

 しかもよく見るとこのタイトルの本がセラさんの周りに大量に落ちている。どうやらシリーズもののようで、これはその最初の第一巻の本のようだ。

 よく分からないまま、ペラペラとページを捲ってみる。

 疲労のせいで頭がよく回らないので内容があまり頭に入ってこない。くらくらする頭で理解出来るのはこれが伝奇ファンタジーのようで、少年同士の美しい友情を育んでいくというようなものくらいか。女の子があまり登場しないところを除けば、別に至って普通の本? なのかな。

 まー、まだまだ序盤のところなのでそのボクらしき主人公が少年のヴァンパイアと出逢うところぐらいだから、もっと進めればどういった本なのか分かるかもしれない。何となく先が気になったので、適当に真ん中辺りのページを開いてみる。

 その時、

「お、いきなり読んじゃいますの? でも可愛らしい表紙に騙されてはいけませんよ。これはティーン向けに思わせて、鬼畜ヴァンパイアの少年に目をつけられた無垢で純な穢れなき美少年が凌辱し尽くされる性的倒錯に優れた日本のHENTAI文化の結晶ですから」

「あー……ホモってこと?」

「いえ。もっと高尚に、ボーイズ・ラブと言ってください」

「いや……よく分からないけど」

 …………。

「あら? どうかいたしましたの?」

 …………いや。

 ……え。

「――っ!?」

 にこ。

 背後にいつのまにか立っていたセラさんの優しい微笑みに心臓が跳ねあがるほど驚いて、地面にブレーキ痕のようなものが擦り付けられるほどの勢いで後ずさり。セラさんは「まあ」と軽く頬に手を当てて、僕が落とした本を拾い上げた。

○☆□◇×ΔδΣ(何であなたが)!?」

 あまりにも驚いて言葉が日本語じゃなくなる。

 死んだと思ったのに!

 ぱんぱんとセラさんは本に付いた埃を払いつつ、

「はあ……申し訳ありません。少々、気絶してしまって。ご心配をおかけしたのなら、本当にすみません」

 ぺこりと頭を下げた。

 し、心配なんてしてないけど……。

「それよりも……いけませんね。少々、頭に血が上ってしまって。色々と怖い思いをさせてしまったみたいで」

「え……?」

「わたくし反省しました。押し付けるのはあまりにも無礼。本当にシスターとしてあるまじき行いでした」

 またもやぺこり。

 どうやら頭を打ったことで冷静に戻ってくれたようだ。

 はあ……これで何とか話が出来る。よかった~。

 と、安心したのも束の間。

 セラさんはぱんと手を叩く。

「ですから」

 言って、セラさんは恥ずかしそうに手に持っていたボーイズラブの本を手渡そうと手を伸ばす。

「これ。読んでください」

 まるで中学生の女の子が好きな男の子にラブレターを手渡すみたいに、わずかにはにかんで。

「な、何で読まなきゃ……」

 ホモの話と聞いて読むような健全な男子高校生なんている訳ないのに。

「それはもちろん」

 セラさんはとびっきりの笑顔で、


「久遠くんにこちら側の人間になってもらうためですわ」


 言った。

「は?」

「わたくし気が付いたんですの。あなたがどうして逃げたのかを。……そう、あなたはこの世界を知らないから。だから訳も分からず逃げ出してしまった。そうでしょ!」

 そう言って、突然。セラさんは自分の修道服に手をかけ、一気に脱いだ。残ったのはセラさんが修道服の下に着こんでいた白のトゥニカ。が、そのトゥニカは異様だった。緩やかな胸元に『I♡BOY』と描かれたプリントを筆頭に、べたべたとパソコンで加工されたと思われるあどけない少年の刺繍が数々。それらが隙間なくトゥニカにあった。

「こんなに可愛らしいのに、どうして逃げる必要がありますの!」

 うっとりと頬を染めながらセラさんが僕に近づく。

「これも! これも! 何もかもが日本のサブカルチャーの結晶ではありませんか!」

 指差すのは自分のトゥニカの写真。

 少年の私服姿。

 少年の体操着姿。

 少年の寝間着姿。

 少年の水着姿。

 その他諸々。

 少しえっちぃ美少年がプリントされていた。トゥニカの全身に。

 それらの写真は全て盗撮的なアングルだった。少年たちの表情は全て無防備極まりない。

「よろしくて? 見てください、ませ! これらの少年が醸し出す大人では到底出し切れない色気とあどけなさの調和! これがあなたには備わっているのですよ。奇跡の申し子なのですよ、久遠くんは! あなたはもっと自分に自信を持つべきなのです! 見て!? この少年とあなたが交わることを想像するだけで、わたくしはぁ! わたくしはぁ!?」

 にじり寄ってくるセラさんを前に、ようやく僕は理解した。

 そっか……。この人。

変態(バカ)”なんだ……。

 父さんが称賛するほどの美しい外見をしているのに、すれ違えば全ての男が振り返るほどの美貌を持ち合わせているのに。

 とてつもない“変態バカ”なんだ。

「さあ! この首輪をつけて、わたくしの肉奴隷となり、美しくも危険な少年同士の情事をわたくしに見せて。さあ!」

「は、ははは……」

 もはや苦笑するしかなかった。

 ようやく話してくれた僕を追いかけ回す本当の理由。

 それを聞いて僕は静かに握りこぶしを作って。

「ふざ、けん――――なッ!」

 セラさんの顔面目掛けて、込められるべき全ての力を込めて。

 振りぬいた。

 セラさんは出来のいいペットボトルロケットみたいに吹っ飛んで、闇の中へと消えていく。

 それを確認して、僕は空を見た。

 綺麗な月。

 そしてほっと一息。

「ふう」

 セラさんが吹き飛んだ方向をもう一度だけ一瞥いちべつ

「さ、帰ろ」

 こうして。

 今日の僕の一日はすっきりとして、幕を閉じた。

(…………にしても、飛んだな)

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