001 ボーイ・ミーツ・ヴァンプ
久遠かなた。一六歳。
月城高校1年B組。
父親と母親の三人暮らし。
中肉中背。柔和そうな顔立ちに、少し気合抜け気味のぼさっとした茶髪。……自分で言うのもなんだが、どこにでもいそうなブレザー姿がよく似合う、これと言って特徴のない感じの少年。
あ、でもウチが喫茶店を経営しているってのは特徴にあげてもいいかもしれない。
それが僕の大体のプロフィール。
平々凡々。
きっと僕みたいな高校生はいくらでもいる。
…………そう、思ってた。
――――昨日までは。
「ん…………ふ…………はふ…………」
横目でちらりと自室のベッドの上を見た。
いた。
やっぱり、いた。
夢じゃなかった。
夢であってほしいとほんの少しだけ思ってた。
けど、やっぱ、いた。
「…………ん……」
ベッドの上には手足を大の字に広げながら小さく寝息を立てて少女が眠っていた。
少女はとても小さい。恐らく身長は一三〇センチ代。中学生…………いや、下手をしたら小学生ぐらいのミニサイズ。ふわふわと緩いウェーブがかった銀色のロングヘアーは少女の小柄な体躯よりも長く感じるほど特徴的で、その銀色の髪を映えさえるように少女の肌は異国情緒を感じさせるような褐色。小柄な少女はフランス人形のように艶美で、強く目を引き付けていた。
少し寝苦しかったのか、僕が貸した着替えのYシャツのボタンがいつの間にか開いていて、少女の褐色のお腹が丸出しになっている。布団が芸術的に下腹部を隠していて、何とか大事な部分は見えていない。
ちなみにここから確認するこは出来ないが、少女は下着の類を一切身に着けていない。
つまり。
穿いてない。
か、顔が熱い……。
け、決して! 決して少女のは、裸にど、動揺してるわけじゃ!
……嘘。
メチャクチャ動揺してる。
心臓ばくばく。
と、とにかく。
この子のこの状況は非常に心臓に悪い。芸術的に落ちかけているようで落ちていない布団を掛けなおそう。
眠っている少女を起こさぬようにそっと、少女に近づいてから下腹部に引っかかっている布団に手を――――、
置こうとして。
寸前。
本当に寸前。
「ん……うん……」
少女が寝返りを打った。
………………………………………………………………………………………………え。
………………………………………………………………………………………………あ。
………………………………………………………………………………………………わ。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」
周知の事実ではあるが今一度確認しよう。
地球の重力というのは基本的に地面に向かって発生している。つまりは力としては下に働く。
リンゴも。もちろん、掛け布団も。
はらり。
芸術的に少女の下腹部に引っかかっていた布団は重力に逆らえず、ぽすっと落ちた。
残ったのはベッドの上で大の字で呑気に寝息を立てている少女。
慌ててズバンッ! と壁を見た。
いや、見てない。僕は、何も。何も、いけないものは、見てない。辛うじて、目に入ってない。入ってない、はず。
なんとか、もう一度少女に掛け布団をかけることが出来たのはほとんど奇跡だった。……というかどうやって掛け布団を少女にかけたのか覚えてない。
……と、とにかく!
いったいどうしてこんな状況になったのかを思い出そう。
これは現実逃避じゃない。
じゃないから!
あれは満月の綺麗な夜のことだった。