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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.14
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195 クラリス、自分の勘違いに気が付いてホッとする

「は?」

 すいません。僕調子に乗りました。気持ちの悪いこと言いました。

「や、やっぱりいきなりすぎたよね。……えっと、じゃ、じゃあ……あ、ウチって昼間は下で喫茶店を開いているからそこに、その……おいでよ」

「喫茶店?」

「そうそう。クラリスさんの都合のいい時でいいからさ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!」

「へ?」

 怒られることは想定していたが、まさかここでとは思わなかったので少し驚く。

「……それが、アンタの命令?」

 あ、そこか。たぶん、クラリスさんとしてはもっと理不尽な命令でもされるとでも思っていたのだろう。あ、じゃあ怒っている訳じゃなくて意表を突かれて驚いているというところか。でも……そもそも。

「あ、うーんとね。……ちょっと命令とは違うのかも。命令って言うか……お願い?」

「……お願い?」

「いや……お願いとも少し違うのかも。……少しクラリスさんの頭の片隅にでも置いていてもらえると嬉しいかなって」

「何で、そんなこと」

「そんなことって……」

「もっと色々と言えるのよ、アンタは。だって“勝者”なのよ。“勝者”だったら何だって言える。……そういうものでしょ」

 確かに勝った方が何でも負けた方に命令出来ると提案したのは僕。勝ったのも僕。主導権を握っているのも恐らく――僕。

 だけど。

「嫌……なんだ」

 僕は一度だけ首を横に振る。

「そういうの」

「そういうの?」

 僕はきょとんとしている彼女に向かって、


「僕はキミとそういう関係でありたくないと思った。“勝者”と“敗者”、どっちが上で、どっちが下で。お互いの立場に“強さ”だけの優劣をつけ合うような関係性でありたくないと思ったんだ」


 と、言った。

 言ってみて分かることもある。いや、――あった。

「あはは」

 笑って。

 クラリスさんの目を見て。

 再び。

「もっと簡単に言うとね」

 望む。


「クラリスさんと、――友達になりたいんだ」


「!」

 一度は無理だろうと思っていたけれども、やはり諦めきれなかったのだろう。……それに、彼女と勝負をする関係性は嫌いじゃないって言うことが分かった。

 最初は敵だった。たぶん、今も敵だ。吸血鬼とヴァンパイアハンター。どれだけ線引きを敷こうとも、この関係性はそう易々とは変わらないと思う。

 でも。


 ――友達だったら。


 そう考えてしまう。変えたいって、思う。

「……ダメ、かな?」

「……だ、ダメ……って」

 ……やっぱり急にこんなことを言われて嫌だったりするかな。

 まあ、でもそれも仕方のないことだよな。なにせ、僕は彼女に相当嫌われて(ヽヽヽヽヽヽ)いるんだもんなー(ヽヽヽヽヽヽヽヽ)

「な、な、な、何で私がアンタなんかとっ!」

 当然の反論であった。予期してた。怒られることも想定していた。

 だけど僕はこの子の笑顔を見てしまったのだ。普通に笑えるこの子の笑顔を知ってしまったのだ。だからこそこの子に笑える場所を提供してやりたいと思った。先生曰く、クラリスさんはちょっと(ヽヽヽヽ)普通じゃないらしい。それに同情した、と捉えられても仕方がないことかもしれないが、何となく僕はこの子を見過ごせないと思った。本当は笑えるのに、もしかして笑うことを許されないような環境に身を置いてしまっているのではないのか、そう考えるだけで僕は何だか哀しくなってしまう。

 だから僕はこの子にそういう場所を提供したい。

 あと、少しの下心を加えると、


 ――クラリスさんと、友達に、なりたい。


 と、なる。

「う、う……」

 クラリスさんが押し黙ってしまった。目線を下げ、ぷるぷると震えだす。

 見ようによっては怒り出す寸前みたいな雰囲気すらあるのだが、

「いや?」

 自然と伸びた手が彼女の頭を軽く撫でていた。泣き出すか、怒り出すかも分からないような子供相手に諭すように、

「嫌……だったら。うん、別にいいよ。これは命令なんかじゃないんだから。でもね、ウチのお店には顔を出すぐらいはして欲しいな。………………あそこだったら、笑って大丈夫だから」

 そう言う。

「~~~~~~!」

 彼女の体がビクンと跳ねた。

 跳ねて。

 キッとこちらを睨んで。

 また顔を下げて。

「!」

 頭の上に置いていた僕の手を振り払い、走り出した。

「あ……!」

 返事もせずに走り出した彼女の行動は軽い拒絶。

 しかし、そんなことより。

「きゅ、急に走ったりなんかしたら……!」

 クラリスさんは今、酔っぱらっている。しかも初の経験であろう。酔いも冷めていない状態でそんなことをしてしまえば、

「わぶっ!?」

 当然、こける。……いや、こけた。

「あ、あ~あ」

 僕はすぐさま彼女の元へと駆けつけ、彼女を抱き起そうと手を伸ばし、

「あれ? クラリスさん?」

「すう……すう……」

 彼女が眠っていることに気が付く。

 どうやらとうとう限界が来てしまったらしい。地面に頭を擦り付けたまま眠ってしまっている。

「はあ……」

 軽いため息が出た。

 この様子じゃ……きっと今さっきまで話していたこと、起きたら忘れてしまっているだろうな。

 ちょっと残念。

 まあ……それはさておき、だ。

「このままって訳にはいかないよなあ……」

 さすがにこの公園に眠ったままの女の子を放置というのはマズイ。この公園は夜になると生屍人(ゾンビ)が出没するので、放置イコール生屍人の餌を置くということに等しい。さすがにそれはマズイというか、ヤバい。

 一度念のためにクラリスさんを起こそうと思い、申し訳ないと思いつつも体を揺さぶってみた。

 しかし、

「すう……」

 予想以上に眠りが深い。おそらくはお酒を呑んで、更には体を動かして暴れ回ったせいで体の方が限界を迎えてしまったのだと思われる。本来なら無理にでも彼女を起こしてやるのがベストな選択なのだろうが、彼女がここまで深い眠りを外の公園で行ってしまっているのも完全に僕のせいなので、無理に起こしてしまうのはちょっと忍びない。

「仕方ないか」

 覚悟を決めた僕はクラリスさんを起こさないようにその小さな体をおぶることにした。

(お、重いな……意外と……)

 軽く失礼な反応だったが、クラリスさんをおぶってみて素直に思った感想がそれだ。彼女の体は……何というか、その……あ、そう。スレンダーだから。あまり重そうな雰囲気が無かったのでそう感じたのだろう。別にクラリスさんが重いと言っている訳ではない。見た目よりも、と接頭辞が付く。

 重いのは恐らく筋肉なのだろう。彼女は強くあろうとする傾向がある。ならば鍛えていても不思議ではない。見た目では分かりにくいが、同年代の女の子と比べてもきっと重い方だろう。…………まあ、中学生の女の子をおぶったことのある経験などないので、あくまで想像だが。

 しかも……この筋肉の付き方。やっぱりというか……何というか。どうにも一朝一夕いっちょういっせきで身に付いたものではないようだ。この筋肉の付き方だけで彼女の半生が窺い知れるようだ。

 そもそも抱え方が少し悪かったのかもしれない。

 おんぶというものは後ろの人が手足を回してくれないと結構重いモノなのだと知ることとなった。意外にもおんぶという行為はお互いの協力があってこそ、運ぶのが楽なのであった。現在の僕はクラリスさんを落とさぬようにと少し前傾の姿勢を保ちつつ、前を歩かなければならないので腕だけではなく足の方も結構キツイ……。

 でも……これ鍛える方法としては悪くないかもしれないな。今度はクドでもおぶってランニングしてみるかな。今、僕がやっている訓練ってのはどこまで行っても基礎トレーニングの域を超えていないしな。

 ランニング一〇〇キロと各種筋トレ五〇〇回ずつに……後はこの公園での生屍人討伐。

 今度からはこのメニューにクドをおぶってのランニングも加えてみよう。もしかしたら断られるかもしれないけど……ま、大丈夫だろう。

(クラリスさんは一体どんなトレーニングをしているんだろうな。……僕なんかが考えたメニューなんかとは比べ物にならないような内容なんだろうなあ……)

 ……にしても。

「やっぱり……ちょっと、重いかな」

 無意識に愚痴が漏れる。

 と。


「……おもく……ない……」


「ひっ」

 一瞬、体が硬直した。後ろのクラリスさんが耳元でささやくように声を発した。首筋にたらりと冷や汗が流れる。

「――もしかして、起きてますか?」

 小声で敬語で尋ねてみたが、返事は「すう……すう……」と寝息のみ。……どうやら寝言だったらしい。……ほっ。

 本気で肝が冷えた。……ピンポイントな寝言過ぎるよ。

「ふう。ま、とにかくウチまで運ばないとな。起きたら……謝ろう。クラリスさんは重くないよって」

 彼女を抱え直し、再び歩みを進め、


「……ばか」


 再び寝言のように小さく囁くような声が聞こえたような気がしたが、寝言は寝言なのでやっぱり気にしないでおこう。

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