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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.13
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188 クラリス、酔わせて

「楽しんでいる?」

 と、僕がクラリスさんたちのところに近づきながら声をかけると、

「カナタ~」

 クドは眠そうにしながらも僕のところに近づいてきて、ぽふっと僕の体に抱き付いてきた。

 一方で、

「…………!」

 クラリスさんはと言うと僕の顔を見るなり、急に顔を伏せてしまう。

(……?)

 僕は一瞬、何事かと思ったが顔を伏せる瞬間、その顔の頬が桜色に紅潮していることに気が付いて、

(あ~……やっぱりクラリスさん、結構酔っぱらっちゃっているみたいだな。あんなに顔が真っ赤になってしまって)

 と、結論付ける。

 うんうんと頷いて、納得しているとクラリスさんが何やらぶつぶつと、

「な、何で……こんなに顔が熱くなっちゃってるのよ。これじゃまるで……私……っ」

 小声で喋っていたのだが、よく聞き取れなかった。聞き返すべきかどうかを悩んでいると、

「う~……カナタ……」

 クドが抱き付いたまま僕に顔を上げ、そう言う。

「あ。もう眠い? だったらベッドで横になっていなよ。ほら、歩ける?」

「……うん」

 ふらふらと千鳥足でクドがベッドに向かうのを見届けている内にその謎を忘れてしまう。

 そしてそのままベッドにダイブして、戦線離脱。

「楽しんでいるって何よ」

「え?」

 気が付くとクラリスさんがぶすっとした表情で僕に話しかけてきていた。視線をクドから彼女に向き直してから彼女の隣に座り込んだ。

「あ、ああ。何だかさっきは楽しそうに話していたからね。何だか珍しかったよ」

「……そりゃあ、そうよ。私だって……あんな風に笑ったの何て……もしかしたら……初めて、かも」

「はは、そうなんだ。あ、これ、飲む?」

「ん」

 クラリスさんが僕の手からカクテルドリンクを受け取る。当然、それがお酒だなんて思わずに。

(……案外素直なんだな。いや……お酒をすでに吞んでしまっているから、正常な判断力が失われているせいか。ああ……罪悪感)

 プルトップを開け、僕も一口お酒を呑む。呑みながら、

(でも……そう考えるとこれが彼女のなのかな。先生の言う通り、彼女は僕の一つ年下の一五歳の女の子。……やっぱりああいう顔が一番似合うし、素敵だよな)

 そんなことをふと考えてしまう。

「ちょっと!」

 急にクラリスさんがこちらを睨んで、指を指しながら、

「アンタ! 今、何か変なこと考えなかった?」

 と、叫ぶ。

 辛うじて呂律が回っているが、ちょっとした絡み酒の気配。すでに今彼女が持っているカクテルドリンクだけで三杯目には突入しているのだ。そろそろ……ヤバそう。

「えっ? いや、別に」

 僕がそう正直に言うと、

「は、どうだか」

 機嫌が悪そうにぷいっと顔を横に逸らし、条件反射かのようにお酒を一口。

(どうしたんだろ……何だか機嫌が悪そうに見えるな。……ちゃんと言うか? でも……こんなこと言ったってな~)

 正直、言うかどうかを悩んでしまったが、

(あ、そうだ。ついでだし、今日……ここにやって来た時から気になっていたことも聞いてしまおうか。うん、ついでだし……言っちゃうか)

 僕は一人頷いて、

「えっと……じゃ、じゃあ」

 少しだけ緊張して、

「なによ?」

「あ、あのさ……もしかしてクラリスさん……髪の毛、切った?」

「!」

 クラリスさんの体がびくっとして、僕の体もまたびくーっとした。瞬間、怒られるかと思ったからである。目を瞑り、頭をガードし、次の一撃に備える。

 ――が。

 一向に攻撃は来なかった。

 片目を薄目で開き、クラリスさんの反応を窺がい見てみると、

「う、う~!」

 何やら唸っていた。

 体をぷるぷると振るわせて、顔を紅潮させ、唸っていた。

 その時僕は、

(おや?)

 と、思った。

 クラリスさんの反応が奇妙だったので「おや?」と思ったわけではない。もちろん、彼女の反応が彼女の反応らしからなかったのは事実ではあるものの、それ自体に疑問に思ったわけではないのだ。ただ、僕は彼女のその反応が、以前……と言ってもだいぶ前のことになるのだが、僕がクドのことを“可愛い”とか何とか誉めてやった時の反応に非常によく似ているのだ。

 もしかして……。

 ちょっと……怖かったのだが、アルコールを呑んでいた高揚感も手伝い、

「やっぱりクラリスさんの髪の毛って綺麗だよね。髪の毛を切って、少し可愛くなったように見える」

 と、言ってみた。

「うっ」

「ううん、見えるじゃないな。可愛いのか」

「ひうっ」

「それにさっきの笑っていた顔は素直に素敵だなって思ったよ」

「~~~!」

 僕が褒める度に彼女の体がびくんびくんと震えた。こう思うのは非常に不謹慎かつ悪趣味だなと思うのだが。……何と言うか。非常に。その。――面白い。

 こういった反応を彼女の方から見せてくれるものだとは思いもしなかったせいもあり、見ていて愉快であり、新鮮であった。

 なので。

 まあ……。

 調子に乗った。

「さっき僕が変なことを考えていないかってクラリスさんは言ったけど、僕がさっき考えていたのはクラリスさんのことだよ? あの笑顔が素敵だなって、そんなことを考えてた」

 またさっきの反応が見てみたかったので、褒めちぎる。

「もっと笑ったらいいのにって思った。だってあんな素敵な表情を持っているんだから、きっと、もっと笑えばみんなを引き付けられるのにって」

「ぐ」

「……ぐ?」

 急に変な声を出したクラリスさんのことを心配して僕は彼女の顔を覗き込もうとして、

「ぐ……ぐぐ。こ、こんのぉ~……!」

 彼女が急に立ち上がったので驚いて腰を砕く。

「な、なな、なななな……な、何なの、何なの、何なのアンタはっ! 人のことおちょくってばっかで! も、もう……もう我慢出来ない!」

 クラリスさんはびしい! っと指を突き立てて宣言。

 僕に向かって、

「勝負しなさい! この! 私と! 勝負! しなさ~いっ!!」

 顔を真っ赤にしながらの宣戦布告に僕は思わず、

(しまった……。やり過ぎた。これじゃあ前の時と同じだ。クドの時は褒め過ぎたら拗ねてしまったけど、彼女の場合は顔を真っ赤にして怒らせてしまった)

 一人、反省。

 でも……勝負、か。

 勝負と言葉にすれば鬼気迫るモノがあるのは確かなのだが、僕はこれをよい機会だと思うことにする。こういう機会でもなければ彼女のいろんな顔を覗ける機会というのはそうそう見れないだろうし、何より、――いい気分転換になるような気がした。


「いいよ。やろう。勝負」

来週、再来週はお休みします。

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