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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.2
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017 変態シスター現る

 僕は今、住宅街の屋根の上にいた。というより、駆けていた。二階以上ある家の屋根を。時折、瓦に足を取られ転び、また闇雲に手をついて跳ね起きて、また、走る。

「は、は」

 一体どれぐらいの距離を走ったのだろうか。

 分からない。

 だけど日が落ちかけているところを見ると、四時間ぐらいは走り続けていることになるのだろう。

 息がさすがに切れかかる。

「なん……で……僕が……こんな目に……」

 と、思わず愚痴が出る。

 足はへろへろだし、服も走っている最中に擦れたりしてぼろぼろ。

 視界は朦朧(もうろう)とし、意識も途絶え途絶えになる。

 けれど不思議だった。

 まだ……走れるかって言われたら……走れるんだよなぁ……。

 なぜか(ヽヽヽ)

 僕は全速力であの人の魔の手から逃げ惑っていた。それこそ商店街の中を。どぶ川を。塀の上を。屋根の上まで(ヽヽヽヽヽヽ)

 思い出す……というよりは心当たりだが。僕は走りながらクドの言葉を思い出していた。

“吸血鬼に血を吸われた人間は、もう人間じゃなくなる。もしかしたら生屍人ゾンビになるかも”

 と。

 …………もしかして、僕は。


“吸血鬼”――――に、なっているんじゃないのか?


 クドは昨日、僕が人間でなくなるとはっきりと言った。

 少なくとも、だ。僕は昨日のあの出来事以降、人間ではない――――ということになる。

 ま、僕が実は生屍人である可能性がないのかと言われればよく分からないのだが、確かクドはこうも言っていた。

“夜になったら現れる”

 それが生屍人。

 ということは日中に活動をした僕は生屍人ではないということになる。そこはひとまず安心。

 で、残る選択肢が吸血鬼。

 何かの映画で見たことがあるが、吸血鬼に噛まれた人間は吸血鬼になっていた。

 ほとんどにわか知識ではあるが、その可能性を考えるのが一番自然ではないだろうか。

 息は切れるものの、未だ疲れ切っていない僕の体。

 ここまでほとんど休みなく走って来れているのが何よりの証拠。

 あー……聞きたいことが山ほどあるなぁ……クドには!

「ひいいいいいいいいいいいやああああああああああああああ!」

 奇声と共に、夕焼け空の中、飛び上がるシルエット。

 そのシルエットは軽くビルの三階ぐらいを跳躍し、あっという間に僕の立っていた住宅の屋根の上に着地。

「みぃつぅけぇたぁ~」

 初めてホラー映画の追いかけられる人間の気持ちが理解出来た。

 ああいう時は怖いって思うんじゃない。むしろ怒りがこみ上げてくるらしい。

「い、いい加減にしてくださいよ! 何で僕の後を追いかけてくるんですかっ!」

 僕は精一杯怒鳴り返した。

「ふひひ」

 しかし目の前の女性は恍惚な表情を浮かべつつ、

「大丈夫よ。出来るだけ痛くしないように善処するから~。だから……この首輪を……わたくしの肉奴隷となるお覚悟を……お願い」

 そう言う。

 じょ、冗談じゃない!

 何か要求がさらに悪くなってるし!

 何だ肉奴隷って!

「肉人形でも可」

「可じゃないんですよ! ふざけんな!」

 僕はいい加減腹が立ってきた。

 意味も分からず追いかけ回されて、その上、肉奴隷だ肉人形になれと言われて。腹が立たないはずがなかった。

「大体あなたは何者なんですか! どうして僕を追いかけ回すんですか!」

 女性はやに下がったような顔つきで、

「ん~? 名前? わたくしはセラ。教会でシスターをやっています。以後お見知りおきを」

 だら~っと長い舌を伸ばす。

 し、シスター?

 シスターって、あの?

 神に仕えるみたいな。

 生きとし生けるもの全ての味方みたいな。

 あの!

(嘘だ! 目の前にいるのは……ただの化け物じゃないか!)

 セラと名乗った女性を僕は化け物としてしか見ることが出来なかった。

 そもそも僕が吸血鬼であるとすることを前提に話すが、どうしてその僕にこの人は追いつかれているんだ。僕は四時間近くは走り続けて、さらに屋根の上にまで登ったんだ。

 なのにこの人は息一つ乱さずに僕に追いついた。

 蛇のような舌を伸ばし、家の屋根を軽々と跳躍し、悪鬼の如き眼光で僕を追い詰める。

 もう、それは。


 化け物じゃないか!


「うひゃひゃひゃひゃ」

 と、セラの狂った声。

 肌にぶわっと鳥肌が立つ。

 な、何なんだこの人……。一体何が目的なんだ……。

 訳が分からない。

 ただのイッた人なのか?

「さあ……あなたの望みは叶えた。次、わたくしの番」

 なぜか片言。

 ちゃらり。

 手には首輪。

「ひっ」

 恐怖のあまり、僕は屋根の瓦を剥ぎ取って、それを投げる。

 普通に投げたつもりの瓦は、高速で回転して唸りを上げ、セラ目掛けてものすごい勢いで飛ぶ。普通に当たったら頭蓋骨が陥没しても不思議ではないほどの速度で飛び、セラの顔面に直撃し、瓦の破片が四散。

「あ、ご、ごめ」

 あまりの勢いに思わず謝った。

 やり過ぎたかな? とも思った。

 立ち込める土埃。

 その煙を見て。

 僕は。

 逃げることを決意した。

 煙が晴れると。

 そこには。

 にいっと笑うセラの顔が。

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