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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
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169 とあるJCヴァンパイアハンターの休日

 結社のビルの地下深く。

 世界に支部を持ち、数多の吸血鬼や生屍人(ゾンビ)を駆逐する恐らく正義のヒーローとも呼べるような存在の“闇”とも呼べる場所に、クラリス・アルバートがやってきた理由は、

「パパ、ママ……」

 ずばり。

 親子の面会(ヽヽヽヽヽ)

 である。

 ただし。

 親と子の間にあるものは愛情ではない。

 あるのは。

 冷たい鉄格子(ヽヽヽヽヽヽ)

 鉄格子の隙間から見える世界は、恐らくクラリスにとって、最も直視したくない地獄のようなモノである。灯篭も何もない牢獄の中には二つの人影が見えた。牢獄の中央に二つの人影がうっすらと見えた。二つの人影には鎖が繋がれている。やせ細ったような細い手首に黒い輪っかのようなものが装着させられていて、そこから繋がっている鉄の鎖が石壁の四方に伸びて、厳重に繋げられていた。

 明かりも何もない冷たい牢獄に二つの人影ははりつけにされている。

 その二つの人影は囚われている、と言ってしまってもいいのかもしれない。

 誰に?

 と、聞かれれば……それは。

「……レディ(ヽヽヽ)、……あいつだけは(ヽヽヽヽヽヽ)……あの女だけは(ヽヽヽヽヽヽ)必ず(ヽヽ)

 怨嗟の籠った声。

 苦虫を噛み潰したような声で。

殺してやる(ヽヽヽヽヽ)

 少女、は。

「う、……く……」

 泣いた。

 呻き声のようなものを上げて。

 恨み節を口にしながら、

「……っ……、っ」

 たらり、と。綺麗な瞳から淀んだ涙を零す。

 鉄格子を掴んだまま、腰が砕けたようにずるずると落ちていく。

「ぐ」

 歯噛みをする。

(私は……負けるわけはいかない。勝たなきゃ……勝たなきゃ二人を……パパとママをこの冷たい牢獄……ううん、地獄から救い出すことが出来ない)

 だから、勝つ。

 だから、強くなる。

 その思いはクラリスが生きていく上で何よりも最も大切なモノだったはず。

 この信念だけは捨てられない。この信念だけは捨てない。この信念を捨ててしまえば、残るのは抜け殻だけ。人間は抜け殻になれば、終わる。終われば、終わる。……終わらない。終わらせて、たまるか。

「まだ……頑張れるよね、私」

 頑張る。

 クラリスがただ。ひたすらに。がむしゃらに。頑張れる理由は。

 この目の前の地獄の中から大切な家族を取り戻すため。

 だからクラリスは強さを求めた。

 誰よりも強くあるために。

 強くなければ何も守れない。

 だから。

 そうなったのに。

 ……それなのに。


(どうしてキミはそうまでして“強さ”にこだわるの?)


 またこの言葉が頭をぎった。

 あんな男の言葉なんて無視すればいい。

 自分の考えの方が絶対、ぜ~ったいに正しい!

“強さ”にこだわって何が悪いの!

 強くなきゃ取り戻せないモノがある。だから強くなったって言うのに。

 どうして。

 どうして……。


(私は……それが……間違っている(ヽヽヽヽヽヽ)――と、今さら思うようになってしまったのよっ!)


 クラリスにとって“強さ”は信念だ。信念なんて人によって変わる。あいつにとっての信念が何なのかは分からないし、興味もない。だけど、あいつは信念をただ否定するだけに留まらなかった。間違っている(ヽヽヽヽヽヽヽ)と断じるだけだったら、クラリスがここまで悩むことはなかった。

(何で……何で、あんな顔するのよ……)

 あいつはあの言葉を言った時、とても辛そうな顔をしていた。

 まるで自分のことかのように。

(他人のことなんてどうでもいいのが、“普通”なんじゃないの……?)

 少なくとも。

 クラリスは誰かに頼ろうだなんて思ったことはない。

 それが“普通”だと思っていたから。

(自分のことは自分でしなくちゃいけない。他人がどうして自分のことを守ってくれるっていうの? どうせ自分のことなんて分かりっこないんだから。分かりっこないものをどうして守る必要があるのよ)

 それが“普通”。

 の、はず。

 なのに、

(…………何かあったら僕を呼んで)

「う……」

(……クラリスさんの力になりたいから)

「わ、わ、わ~~っ!!」

 なぜか顔が熱くなる。

 何で?

 確かに自分の力になりたいって誰かに言われたのは初めてだった。

 で、でも……。

 だからって……。

 それじゃ……まるで私が……。

(あれ?)

 気が付けば。

 自分の頬を軽く撫で、その異変に気が付く。

 ここに来るといつも悔しさと辛さでいっぱいになって涙を際限なく流して泣いてしまうというのに。

 気が付くと。

(私……もう、泣いていない……?)

 自分でも不思議だった。

(何でだろう? まさか……あいつのことを考えていたから……なわけ……ないか。でも、じゃあ……何で?)

 首を捻る。

 でも……何だろう。

 ちょっとだけ、気持ちがすーっとした。

 決して嫌な気分じゃない。

 むしろ……。


「おやあ?」


 と、突然背後から声が。

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