016 変態シスター現る
一方その頃、吸血鬼のクドラクとクドラクが吸血鬼であることをまったく知らない人間の久遠夕実はクドラクの手を引きながら、近くのデパートにまでやってきていた。
クドラクは朝の裸Yシャツではなくて、青を基調としたブラウスと白のミニスカートに、青と白の縞々ソックスという現代風な女の子の恰好に着替えていた。
普段、髪の手入れなどしたことがないであろうクドラクの長い銀色の髪は綺麗にブラッシングがしてあり、今はツインテールのように結ってある。
今朝までのクドラクを孤児と表現するのならば、今のクドラクはどこかのいいところのお嬢様のようである。
「やっぱりクドちゃんは可愛いから色んな服が似合うわね~」
「そう?」
クドラクは正直なところ、よく分かっていなかった。
今朝着ていたYシャツにも何の文句もなかったし、そもそも服を着ること自体が億劫なのだ。服を着ていた理由でさえ、他の人間が着ていたから、である。
さらに言えば、
「なあ、ユミ。これ穿かなきゃダメか?」
そう言ってからクドラクは自分のスカートを指先で抓み、たくしあげる。
スカートの下から細長い、何となくいたいけな形の小麦色の足が露わになる。つま先から太ももまでは丸見えで、少し先端の青と白の縞々とした何かが見えそうになっている。
夕実は慌てて、
「わ、わ~! だ、ダメよ! クドちゃん!」
と、手で下すようなポーズを取る。クドラクは怪訝そうな顔を浮かべ、言われた通りに指を離す。ふわっとスカートがわずかに膨れ上がって、少女の生足が布地の裏に隠れた。
「もうダメよ。クドちゃん」
夕実はしゃがんでクドラクの歪んだ服を直し始める。
「でも何か変な感じがして、なんか……や」
「下着のこと? う~んでも下着は穿かなきゃダメなのよ?」
「むぅ。でも上は何も付けてないから下も穿かなくてもいいんじゃないのかな?」
「だ~め」
クドラクはきょとんとする。
「あのねクドちゃん。クドちゃんは記憶がなくて、分からないことがいっぱいあると思うの。けど、覚えておいて。クドちゃんは女の子だってことを」
「女の子?」
「そう。女の子って言ってもただ性別のことを言っているんじゃないからね。女の子だってことは」
「???」
「うーん。分からないかー。じゃあ、こうしよ。これから言う三つのことだけは絶対に覚えておいて。一つ、自分のことを大切にして。二つ、クドちゃんが心の底からこの人のことを好きだって思う人を見つけて。三つ、その人と恋をして。きっとそれがクドちゃんのためになると思うから。…………よし、出来た。うん。可愛い」
夕実はそう笑ってから立ち上がる。
夕実は手を伸ばす。
「さ、うんと可愛くなってから帰ろ」
クドラクはその手を取る。
意味も分からずに。
けれど。
少し。
少しだけ、考えて。
「…………わかんない」
と、言った。
夕実はそのクドラクの言葉に微笑みを返した。