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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.10
162/368

161 少女は狐を追いかけ、少年はシスターの服を脱がそうとする

「ふう」

 ため息が漏れた。

 今度は梨紅の口から。

 大きな、とても大きなため息が漏れた。

「……あのですね」

 深いため息の後、


知ってますよ(ヽヽヽヽヽヽ)そんなこと(ヽヽヽヽヽ)


 と、返した。

「わざわざそんなことを言って、どや顔にならないでくださいよ。そんなこと、私……気が付いているんですから」

「そうなの……?」

「なぜ、そこで首を傾げますかね。……ええ。気が付いていますよ」

 顔を上げる。

「あ……」

 その瞳に見覚えがあったのか、篝が少し驚く。

 同じ。

 目。

 哀しさに満ち満ちた、少女の瞳。

「あの人は……優しい。とても、すごく……。だから話を合わせてくれる。私を傷つけまいと接してくれる。……だけど、いいえ、だからこそ。温度差を露骨に感じ取れてしまうんです。分かりますかね……自分が覚えていないことを相手だけが覚えていて、それに合わせようとして話をすると、どうしても自分と相手に温度差が生まれてしまうんです。最初はその温度差に自分も相手も気が付かないんです。だけど、無理に話を続けっているとその温度差は一度、二度、三度と徐々に温度差に開きが生じていく。覚えている方は熱く、覚えていない方は冷たく、だからより温度差を感じやすくなってしまうのです」

 でも。

 まだ。

 その目は死んでいなかった。

 諦めていない。

 まだ。

 目の奥が。

 揺らめいていた。

 めらめらと。

 ゆらゆらと。

 光が。

 ――あった。

「温度差を埋めるのは……多分、無理です」

「そうなんだ……。でも、気のせいかな。キミは諦めてないように見える。無理だと言いながら……全然諦めている様子が見えない」

「そりゃ……諦めてないですもん」

「う……」

 言葉に詰まった篝。

 そんな篝に対して、梨紅は言う。

 鋭く。

 射貫くように。

「じゃあ……逆に聞きますけど」

 尋ねた。

「あなたは諦めるんですか?」

「!」

 篝はまたもや言葉を失った。

「好き……なんですよね。見てたら分かります。だって……あなた、えっと……篝、ちゃん? くん? ……は、私と似たような境遇なんじゃないかって思ったんです。かーくんは言いました。あなたのことを知らない子だって」

「……」

「でも……あなたの話を聞いていると絶対に知らない仲じゃない。そんなレベルの付き合いなんかじゃあない。私も……かーくんに言われたことがあるんです。“初対面だよね?”って。辛いですよね。相手が自分のことを覚えていないのって。……好きな人ならなお更」

「…………」

 篝が目を伏せる。

 その意味は。

 肯定。

 もしくは。

 同意。

「だから、私……いったん目を逸らすことにしたんです。」

「何から?」

 と、篝は息を呑みながら聞く。

「決まっているじゃないですか……」

「決まってる……?」

 深刻そうに。

 対して梨紅の口調は。

「かーくんが私のことを忘れているっていうことからですよ」

 軽かった。

 まるで何かの冗談を言うみたいに。

 本当に。

 嘘みたいだけど。

 どこまでも。

 梨紅の声は、軽かった。

「仕方ないじゃないですか、忘れちゃってるものは、忘れちゃってるんですから。……う~ん、何度か思い出させようと頑張ってみたことはあるんです。でも、ダメだった。何度か試みてみましたけど、ダメだった。……なら、きっぱりと諦めるっていうのも一つの手だって思うんです」

「一つの……手?」

「うん」

「手って……?」

「思い出にすがること」

「す、がる……」

「そう、いっそ思い出にすがることを止めるんです。思い出って綺麗なもんです。すがりたくなる気持ちも分かります。今、辛い時……過去にすがれば気持ちが上がって……楽になれる。楽しいから。……でも、欲しいのは思い出じゃない。本物です」

「本物……」

「思い出だなんて、形にならないモノなんかじゃない……。本物の、現在(いま)が、私は欲しいです……」

「~~~!」

 篝が。

 篝の体が。

 無条件に。

「思い出を思い出すことは、多分、無理。……でも、無理なら……思い出すことが無理なら、私は思い出をいっぱい作る! いっぱい、い~っぱい、作ればいい! もし、また忘れちゃっても、忘れても残る思い出をたくさん……たっくさん、作っちゃえばいい!」

 ――震えた。

 震えまくった。

 ぞくってした。

 この時の感覚を、篝は知っている。

 今度は武者震いと違う震え。

「は、はは……」

 あの時と同じ感覚。

 初めて。


 あの薄い本(ヽヽヽ)を読んだ時と同じ。


 かがりが篝になることを決意したあの時と。

 同じ。


「……おもしろい」

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