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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.10
158/368

157 少女は狐を追いかけ、少年はシスターの服を脱がそうとする

 梨紅は呼び止められたので、一度足を止めた。

 狐の姿は見えなかった。

 代わりに、

「えっと」

 真っ赤な郵便ポストが喋っていた。

「うーん?」

 よく見ると、

「あ」

 郵便ポストの後ろに小さな足のくるぶしが見えた。

 どうやら狐が再び、人の姿に変化してそこに隠れているようであった。

 なぜそんなことを……?

 と、梨紅は一瞬考えたが電柱のそばに落ちてあった大量のプラカード(罵詈雑言のオンパレード付き)を見て合点がいく。

(そうか……、もう替えがないのか。だから私と話すためには変化をする必要が)

「何ですか?」

「どうして……」

「はい?」

「どうして……殺さなかった?」

「どうしてって……」

「できたでしょ。簡単に」

 梨紅がそこで、ふうっと。小さく息を漏らした。

 その後、哀しそうな目で微笑んだ。

「なぜです?」

 と、一言だけ迷いなくそう尋ねる。

「なぜ、そうも簡単に殺すだの殺さないだのと聞けるのですか。同じ人を好きになったのに」

「えっ」

 男の子の体が少し郵便ポストからはみ出た。

「好き、なんですよね。かーくんのことが、久遠かなたくんのことが。私……これでも敏感なんです。同じ人を好きになったことぐらいは分かります。なのにどうしてそんなことを軽々しくと聞けるんですか?」

 何かを思い出すようにぽつりと、

「かーくんは他人ひとの命を誰よりも惜しむ人です。見ず知らずの私の命を救ってくれたことも、そう。彼が吸血鬼になってしまった経緯もそう。辿れば誰かの命を救いたかった。ただそれだけなんです。……そして私は彼に命を救われて。好きになって。それがどうして他人の命を奪おうだなんて思いますか」

 また男の子の体が郵便ポストに隠れた。

「それでも……」

 ぐっと男の子が郵便ポストの陰で拳を握る。

「キミはクルースニクだろう。クルースニクはいつかクドラクを殺さなくちゃあならない。それはもう宿命という名の定めだ。そのことは分かっているのか!」

 梨紅は少し困惑した。

「……あなたは」

 やはり男の子は自分の正体を知り切っている。

「ぼくのこと嫌いだろう。憎いだろう。そんな相手に何を躊躇ちゅうちょしているんだ。そんなことでキミはクルースニクの宿命を果たせるのか!」

「……はは」

 思わず口元が緩んでしまった。

 さっきまで男の子の挑発に乗って頭に血が昇りきっていたというのに、今は何だか愛おしい。

 ようは、子供のやることだったのだ。

 わざと怒らせて。わざと煽って。


 ――わざと嫌われて。


 そこはかとなく子供っぽい。

 なぜそんなことをする必要と理由が、という問題が残ってしまうのだが。

 そんな些細(ヽヽ)なことなど構わず。

 梨紅は、

「あは」

 堪え切れない笑みを零すことになった。

「そうですね」

「???」

「困っちゃいますね」

 てへ。

 と、笑ってみせた。

 男の子の目が点になる。

 初めて男の子の素が表面に現れた瞬間であった。

「うーんと、ですね。あなたは私の正体を知っているみたいなので隠す必要もないと思うので言いますけど、私……あの子とはもう戦わない――、いえ。そうではないですね。もっとはっきりと口にした方がお二人に(ヽヽヽヽ)誤解のないように伝わると思うので言いますが、死合しあいを望みません」

「望まない?」

「はい。望みません。あの子とはそういう関係でいたくないって今日改めて思ったんです。何というか、あの子は()から聞いたイメージと合致しないんですよ。」

 聞いていた話――。

“悪疫”は生物の敵。

 この世界に生きとし生ける全ての敵。

“十字架を背負うもの”と相対する敵。

“十字架を背負うもの”が光であれば、“悪疫”は闇。

 光と闇。

 闇は消し去らねばならない。それが光の為すべきこと。それが我らの、“十字架を背負うもの(クルースニク)”の宿命。

「あの子と戦っていた頃は気が付けなかった。あの子ね、普通の子なんですよ。嫉妬するし、恋だってする。無垢で無邪気な子供のようで」

 梨紅が笑った。その顔は嬉しそうだった。

「まるで。ま~るで戦う気がしなくなってしまったんですよね」

「は」

 今度は、

「あはははははは!」

 男の子が笑った。

「キミは受け継いでいるんだね! もう……ほんっとそっくりだよ。そーいうとこ、かなたと瓜二つだ。い~ねい~ね。そーいうの嫌いじゃない。むしろすき!」

 男の子が郵便ポストの影から指を指した。

「それを託すに相応しいと“狐神”が判断する」

「相応しい……っていうか、託す?」

「それね、ただの指輪じゃないんだよ。気が付いてないのかな、先代(ヽヽ)?」

「えっ」

 男の子は梨紅に話しかけながらもう一人の男にも話しかけていた。

“……ふん”

 と、梨紅の中の声が喋り始めた。

“Cruxだろう……”

「く、Crux(クルクス)……?」

「そ」

“本物だという保証は……”

 と、言いかけて。

「くすくす」

 男の子が笑ったのを見て、声が止まる。

「本気で言ってる?」

“…………”

「なんだ、冗談か。だったらいいんだよ。そこまで衰えてないよね。さすがに。あっはは」

「あの……」

 男の子と声が会話をしている最中さなか、おずおずと梨紅が手を上げる。

「お二人の言うCruxっていうのは一体?」

 尋ねると、

「簡単にゆーとね」

 二人が答える。

 指輪。

 Cruxの正体。

 それは、


“武器だ。クドラクだけを()()すことの出来る唯一の必殺(ヽヽ)の武器。それがCrux。俺の……いや、我らの、“十字架を背負うもの”に伝わってきた、クルースニクの最終兵器。それが……その指輪だ”

遅ればせながら10万PVありがとうございます。

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