152 三者三犬
人は見た目によらない……この場合は見た目通りなのだが、
「え、え?」
納得はあまり出来ない。
この人が聖職者だなんて。
納得出来るはずもなかった。
「お世話って……警察のお世話じゃなくて、教会の?」
「久遠くんはわたくしを何だと思ってますの?」
「そりゃ……」
「いや、いいです。言わなくて。何だか失礼なことしか言わなさそうですし」
シスターでエスパーか、この人。
と、素で思ってしまうほどにはこの人の言う失礼なことを考えていたと、ちょっと反省。
でも、ちょっとだけ。ほんと、ちょっと。
「話、戻しますね。じゃあ、えっと……セラさんが教会に奉公にやってきていたシスターってことで合ってるんですか? 白檀から色々と聞きましたけど、結構美人なシスターがいるって」
「あら、照れますわ」
頬に手を当てて、少し照れくさそうにするセラさんを前にして、
「拍子抜けでした」
と、はっきりと言ってやった。
美人は美人で、何一つ間違っていないのに、拍子抜け。そういう表現が一致。
何だろ。僕はこの人に対してだけは嗜虐的になれるような気がする。
「本当に冷たいですわね」
落胆するように肩を落とすが、
「そういう一面もアリ……ですわね。ぐふふ……」
すぐさま、妄想に耽る。
「誘い受けも受けですし……うんうん。アリです。アリ」
「会話している最中も妄想するんですね……あなたは」
もう呆れを通り越して、ちょっと尊敬した。
「あ」
と、僕もまた会話の中である問題を思い出した。
そういえば……、セラさんは知ってるのかな?
あのこと。
「白檀から聞いたんですけど……あの教会でお化け騒ぎがあるって知ってましたか?」
「お化け騒ぎ?」
と、言い終えて、
「あー……」
と、セラさんがそう言った。
「???」
ちょっとだけ変な間が開く。
「あ、あのことですわよね。……あぁ、はいはい。ええ、知っていますとも」
気のせいか、セラさんの顔に脂汗が。
(何なんだろうか……この反応)
こう言っては何だが、何だか、そう、何だか。
「……犯人みたいな反応ですね」
つい。
そう言葉が出てしまった。
セラさんのきょどり方が初犯の盗人みたいな反応だったので、そう思ってしまった。そして、そのまま言葉が出てしまったのだ。
でも、流石に失礼な反応だったかもしれない。
憶測と反応だけで犯人だと決めつけてしまうのはあまりにも早計。
だから素直に謝ろうとした、
「ぎく」
途端。
セラさんが先ほどの僕の言葉に、「ぎく」と言った。
分かりやすいぐらい、わざとらしい、「ぎく」。
それをスルー出来るほど、僕は人間が出来ていなかった。
「あの」
「お、おほほほ……何でしょうか久遠くん」
「…………」
反応がわざとらしすぎて、これが演技なのかとも疑ってしまう。
素か、演技か。
少し見極めてみよう。
「まずは経緯でも話しましょうかね。一応、セラさんはあの教会の関係者みたいですし。簡単に説明すると何か夜に子供たちが怖がっていることがあるっていう話なんですけどね。夜に子供たちが怖がるから白檀に何とか出来ないかって相談されまして」
「そんな仲なので!?」
「はいはい。言うと思った。絶対言うと思いました! 怖いので顔をぐいっと近づけるのやめてください」
「はっ」
こっほん、と。セラさんがわざとらしく咳をした。
「失礼」
気を取り直して、
「別に仲が特別いいってわけじゃありませんけど、高校に入ってからは結構親しいですよ。と、話を戻しますね」
「親しい……、親しい……」
「えい」
再び不穏な気配がしたので、ツッコミチョップ。
「いたひ」
「それが人の痛みです。いい加減話の最中に知り合いを餌に妄想する癖を直してください。話が全然進みませんので」
「うぅ……それで、話の続きは……?」
ちょっと涙目になっているセラさんが艶めかしいと思いつつ、
「まあ……そういう訳なんですが……」
「へー。ほー。ふーん」
ダメだ。
白々しい、白々しすぎる。
会話だけじゃ判断出来ないレベルで白々しい。ここまで来ると本当に逆に演技なんじゃないかって思えてくるから不思議だ。
(この態度だけじゃないよなぁ……。僕が何でかこういう反応に引っかかるのは……)
う~ん、何でだろ。
ちょっと考えてみる。
この人のイメージって、やっぱ、
(変態?)
せめてものの礼儀として疑問形だけども、この人と言えばこのイメージ。
セラさんに逢うとろくな目に遭わないし、追いかけられるし、変態的な欲求を僕を使って満たそうとしてくるし、とにかくそんなイメージしかない。
でも、
(もう一個だけ、ものすごく強烈なヤツがあったような……)
僕がこの人のことが本能で苦手になったような、ものすごく強烈な……。
「…………」
じーっとセラさんを凝視。
上から下へ。
目線を流して、
「あ」
胸の辺りで視線が止まった。
セラさんの豊満な胸の辺りが少し捲れて、その隙間から服の裏の生地が少しだけ見えて、
「…………」
やっと思い出すことが出来たのだ。
「どうかしたんですの?」
僕の視線に気が付いたのか、セラさんがこちらを眺め、首を傾げる。
そして、
「あの……」
僕はそんな彼女にこう切り出す。
「ちょっと……本当にちょっとだけお願いが」
「だから、何ですの? 会話を途中で打ち切ってまで久遠くんがわたくしにお願いなんて」
「いや~大したことじゃないんですけどね」
指の頭で顔を掻いて、
「服、脱いでくれませんか? 今、ここで」