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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.9
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151 三者三犬

 個人的には指輪なぞに興味などなかった。

 仕事の報酬の副産物。その程度の認識。

 あってもなくても困るものじゃない。

 そーいう感じの。ゆる~い、認識のモノ。

「で。どうかな……って」

 だが、その認識が甘かったのだとすぐに思い知らされる。

「あの、何してるんですか……」

「……」

 栗栖さんと男の子の手がぶつかった。

 主に。

 僕の目の前で。

「……」

「……」

 キッと二人が睨み合う。

「私、これ。欲しいです」

「……」

 男の子の方は口が利けないので、腕を伸ばしたままの肯定の意を示す。

 気のせいか、バチバチと二人の間に電撃が走っているような気がする。

 ……いや、気のせいではないのだろう。

 もう、バチバチと。

 大人と子供がメンチを切り合っていた。

 しばらく睨み合って、

「……」

 男の子の方が、

「……」

 ぴんっと、指を明後日の方向に指した。

「うん?」

「え?」

 僕と栗栖さんは素直にそれに従う。

 すると、

「……♪」

 僕の手の中から男の子の方が指輪をふんだくっていった。

「あ」

「あ~!」

 何とも古典的な方法に引っかかってしまう。

 指輪を奪い取ると男の子は一目散に屋根から屋根へと跳躍して、逃げ去っていく。

「~~~~~~~」

 わなわなと震えて、

「あー……」

 栗栖さん。

「待ちなさああああああああああい!!」

 大絶叫。

 あっという間に栗栖さんの姿が消えた。

 見るまでもなく、男の子の後を追いかけていったのだろう。

「あんな指輪くらい、どーでもよさそうなものなんだけどな……」

 男心からの正直すぎる感想をぼそりと呟く。

 後に残されたのはぴょんぴょん跳ねながら喜んでいる小さな女の子と、

「メイド……学生服……ナース……和服……ぐ、ぐっふっふ……いい! 新しい妄想が! 捗って!」

 聞くもおぞまし気な妄想に浸る変態シスターだけだった。

(ん?)

 そう言えば聞きそびれていたけど……。

 ……でもなあ。

 ちらりと見やる。

「メイド服ならやっぱり調教モノがよいですわね。学生服なら先輩からの壁ドン? ……う~ん、それではあまりにもそのまま。やはりここは不良学生に弱みを握られてからの、調教がよいですね。は~……何という幸せな光景。初めは嫌がっていた久遠くんが徐々に堕ちていく様は想像するだけで……はあはあモノですわ!」

「いい加減にせえや!」

 我慢の限界に達して、思わず関西弁で突っ込む。脳天目掛けて全力チョップ。

「ったく」

 妄想が個人の自由だとしても、限度があるだろうに。

 せめて。せめて!

 僕でダークな妄想をするのをやめて!

「あら。痛いですわ久遠くん」

 セラさんが全然痛くなさそうに、後頭部を摩ってからこちらに向き直す。

「久遠くん、前々から聞きたかったことがありまして。よろしいです?」

「何です?」

「わたくしに対してだけ……何だか当たりが強くありませんの? この小さな子はもちろんのこと、あのあなたのことが大好きなあの女の子にも、久遠くんの性玩具になり得そうな男の子に対しても、久遠くんはとても優しいですのに……」

「……胸に手を当てて考えてみてください……」

「ふむぅ……?」

 わ~。心当たりがなさそう~。

「ま、いいですけど」

(いいんかい……)

 この人のことはよく分からない。

 そもそも……。

「あーダメだ。もう気になって仕方ない!」

「はい?」

「気になって気になって仕方がないので聞きますね!」

「ど、どうぞ? なぜに説明口調?」

「あなたはあの教会に何の用があってあんなところにいたんですか」

「はあ……」

 意気込んで聞いては見たものの、セラさんの反応がいまいちよくない。

「あの、久遠くん?」

「何ですか?」

「質問に質問を返すのは無礼に感じるので、少し憚れるのですが……その、一点だけよろしいです?」

「え……あ、はい」

「ひょっとして……」

 セラさんはその場でくるりと回ってみせた。

 服装を強調させるかのように。

「コレがただのコスプレって思ってたりしちゃってますの?」

「そんなわけ……」

 あるはずがないと言おうとして、

「え」

 して、

「…………」

 ……して。

「あ、あああああああ!」

 何かに気が付いた。

 僕はセラさんの変態性ばかりに焦点がいっていたせいで重大な事実を見落としていたらしい。

 セラさんの恰好。

 その恰好はどこからどう見てもシスターさん。しかも、お手本にしてもよいぐらいなほど、べたな、ありきたりに感じてしまうほどの、シスターさん。

 そして、ここからは簡単な連想ゲーム。

 シスターさんと言えば、

「教会……ってことは……」

 はい、答えは教会。

「わたくし、あそこでお世話になっているんですよ」

 驚愕の新事実の発覚の瞬間であった。

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