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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.9
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147 三者三犬

「ふー、ふー」

 栗栖さんとクドが息を荒くしている中、

(確かに……)

 僕は改めてこの子の恰好を見た。

 古めかしい朱色の服。

 だけどパンツルックじゃない。

 朱色に染め上げられたワンピース。

 それが、僕が男の子(ヽヽヽヽヽ)だと思っている少年(?)の恰好だ。

 普通なら女の子だと思う。

 目の前の二人みたいに。

 でも。


 僕はなぜかこの子が女の子である可能性など、微塵にも思わなかった。


 この子は男の子。

 スカートを穿いているのに。

 なぜかそう思ったのだ。

 顔立ちが男の子に寄っているという訳でもない。そうであれば二人がこの子を女の子と見間違うわけもないのだ。

 この子供は中性的な顔立ちなので、男の子にも女の子にも。見ようによってはそう見える。

 実際、

「はあ……? 一体お二人方は何を言っているのでしょうね。久遠くん」

「そこで僕に同意を求めないでください。同類だと思われます。心外極まります」

「あらひどい」

 僕とセラさんの二人にはこの子は男の子だと確信していた。

 セラさんの場合は……何というか、そういう目が養われているのが原因だろう。男の子か女の子かを一瞬で判断する目を持っている。少年限定の慧眼けいがん? みたいなの。そういうのが、人一倍優れているのだと思われる。全っ然羨ましくもなんともないけど。

 でも僕は……。

 そういえば僕は何でこの子が男の子だと思えたのだろう。

 たとえ中性的な顔立ちであろうとも、いや、そうであればなおさらか。スカートを穿いている子供を見れば、普通であればクドや栗栖さんのような反応になる。それが普通だ。常人の反応。

「わたくしはてっきり、この子と久遠くんがお知り合いで、久遠くんが少年同士の愛に目覚めて、そういう性的趣向をこの子に押し付けていたのだと」

「何その失礼極まる勘違い!?」

 この人の反応は絶対に一般的ではない。

 ものすごく失礼かつ不本意な勘違いしてるし!

「誤解がないように言っておきますけど、僕とこの子はさっき知り合ったばかりですから! 名前も知らないんですよ。この子の」

「「「え?」」」

 三人が同時に困惑。

 顔を見合わせ、まぶたをぱちくり。

 とても信じられないといった感じの表情。

 そして、

「い、いやいや。嘘、でしょう」

 と、栗栖さん。

「むぅ」

 と、クド。

 両者ともに納得していない様子。

 セラさんだけは何かを考え込むように、視線を逸らして顎に指を置いていた。

「(あれだけのコンビネーションを披露しておいて、知り合いでは、ない? そんなバカな……。……ふむ。これは想像以上に束縛が強いらしい……ですわ、ね)」

 と、セラさんが何かを呟いたようだが詳しくは聞き取れなかった。

「セラさん?」

 聞き返すと、

「あ、申し訳ありませんわ。少し考え事を……」

「考え事?」

「ええ」

 何だろう? 妙に真剣な面持ちだけど……。

 でも、何となく。この人の傾向。

 あの真剣な顔。

 嫌な予感しかしない。

「……ふむ。アリ、ですわね」

「何がですかっ!?」

 猛烈に嫌な予感がした。

 セラさんは僕を見つめて、何やら意味ありげな顔で“アリ”と言った。

 嘗め回すかのように僕の全身を見つめ、長い舌で舌なめずり。

 ぞわぞわ~。

 全身に寒気と怖気が同時に襲い掛かってきた。

「んふ」

 意味深な含み笑い。

 ぞわり。ぞわり。

 もはや嫌な予感とかそういう問題なんかじゃなかった。

「時に久遠くん」

「なんです」

「スカートに興味は」

「ありません!!」

 食い気味で叫ぶ。

「そうですの」

 少ししょんぼりとしたセラさんが、

「ちょうどここにあなたに似合いそうな女の子用の服があるのですが……。あ、ちなみに、これ、その、着てみようかなーって気は?」

 と、どこから取り出したのか可愛らしい、明らかに女の子用(ヽヽヽヽ)の衣服をひらひらとさせていた。

「セラさんの特殊な趣味に付き合う気は毛頭ありませんっ!」

 相変わらずあの人の修道服は四次元ポケットみたいになっている。

 ナイフとかそういうのだけじゃないのね……。

(ん?)

 あれ……、何だろう。

 僕はセラさんが取り出した衣服を見て、何かが引っかかった。

 服?

 そういえばあの服。

 何か大切な、忘れたいけど忘れられないような秘密があったような気が……。

「でも……諦めるのは何だか惜しいですわね」

 マジマジと自分の持っていた服と僕を見比べる。

「……」

 今度はじーっと。

 凝視。

「……」

 さすがの僕もその視線に気づかないほどの朴念仁じゃなかった。

 少し後ずさる。

 助けを求めようと、

「くる……」

 すさんと言おうとして。

「…………」

 栗栖さんが何やら震えていることに気が付く。

 そして、

「……ずっとくっついたままです」

 ぼそり。

 少女の声とは思えないほど、低い声で。

「このかん、ずーっとくっついてます」

 そう言った。

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