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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.9
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146 三者三犬

 さらに言えば一人の子供が事態を非常にややこしくさせた。


「うわ! え! え、え!?」

 横合いからの突然の大声に驚いた僕。

 声の正体を確認するとそこには二人の少女がこちらに向かって疾駆している場面が見えた。

(な、何であの二人が……?)

 僕たちのところへやって来ていたのは殺し合うことを宿命付けられた栗栖さんとクドの二人だった。

 しかも……何か。

 何というべきか……その。

 怖い。

 どうしてだかは分からないが二人の顔が怖い。

 確認するまでもなく、二人は怒っている。

 理由は分からないけど、何だかよく分からないけど、怒っているのだ。二人して。怒っている。

 何で!?

 屋根伝いに駆けている状況よりも二人が怒っていることの方が今の僕には不可解だった。

「かーくん!」

「カナタぁ!」

「ひうっ!」

 二人に怒鳴られてほとんど脊髄反射で土下座しそうになる。

 脳で考えるよりも。

 先に。

 体が。

 土下座の体勢に移行。

 僕と言う人間はどうにも怒鳴られると土下座をしようとしてしまうらしい。

 若かりし頃の記憶のせいか。

 まあ、覚えていないのだけれども。

「……」

 すると、

「……」

 少年(?)が、

「……」

 にやりと。

「……」

 ちょっと意地悪な笑みを浮かべた。

 そのことには誰も気が付いていない。

 とあるビルの屋上に着地。

 じりじりと迫って来る二人の少女。

 その後ろにシスター。ちょっと驚いている。

「あのー……」

 ぼそりと、シスター。

「ちょっと黙っててもらえます。あなたのこと、どうでもいいんで(ヽヽヽヽヽヽヽヽ)

 語気の強い口調に本当に珍しく気押しされるセラさん。

 はっきりとどうでもいいと言われて少しだけしょんぼりしているように見えるのは気のせいではないのであろう。

 クドは、

「……」

 無言。アンド半目。

 どうやら二人ともこの、

「……」

 僕の腕にしがみついたままでいる少年(?)のことしか目に入っていないようだ。

 何で?

「……」

 そんな中、相変わらず僕の腕にしがみ付いたまま離れようとしない少年(?)。

「かーくん、嘘、ですよね」

 シスターを一蹴した後、栗栖さんが僕の方をはっきりと見つめ、そう告げる。

 何がだろう?

 何が、嘘。なんだろう。

 というより、

(二人は……こっちが気になるの?)

 僕個人としてはセラさんに追われているという状況を助けてくれた方が嬉しいのだけれど……。

 だけど、残念かな。

 二人とも視線は完全にこっちに向いている。

「ちょ、ちょっと落ち着いて二人とも」

「……」

 ぎゅ。

 二人の威圧感(オーラ)に圧倒されてか、少年(?)が僕の腕にしがみ付く。

「!」

「!」

 ど、どうしたんだろう。

 こういってはなんだけど。女の子相手にものすごく失礼な気がしなくもないのだけれども。そうとしか思えないんだけど……。

 目が血走っていらっしゃる……。

 どうやら……。

 僕はちろりと僕の腕にしがみ付いているこの子に視線を向けた。

 原因は……この子?

「ぐぬぬぬ……」

「ぐぬぬぬ……」

 あー……正解っぽい。

 二人とも視線を突き刺すようにしてこの子を見ている。

 ぎゅー。

「!!」

「!!」

 あれ?

 さらに視線が……。

 この子が僕の腕にしがみ付くたびに気のせいではないと確信出来るほどまでに、視線が突き刺さる。

 でも、また、

(何で?)

 と、首を捻るハメになる。

 やがて我慢の限界に達した栗栖さんが吠える。

「だ、だ、だ、誰ですかこの子はああああああああああ!?」

 びしっと指を突き刺して、

「な、な、なんっでそんな仲良さそうにしているんですかあああああああああ!?」

 ちょっと涙目。

 その隣でこくこくと首を上下に激しく振ってクドも同意。

「だ、誰って……」

 僕は問いに、少しだけ考えてから、

「誰だろう?」

 僕とこの子以外の全員が壮大にこけた。

 栗栖さんは立ち上がりながら、

「し、知らないってことはないでしょうに……」

 半笑い。

 目は全然笑ってない。

「いや~……」

 と、僕は頭を少し指で掻いた。

 そういう仕草を重ねているとどうにも言い訳のようにも見えてくる。

 実のところ、僕はこの子を知らない。知らない……はず。

 …………なのだけど。

「……」

 と、僕が言い訳じゃないのに言い訳っぽく見える仕草をしていると腕に抱き着いたまま少年(?)がじーっと僕を凝視。

 そしてまた、

「……」

 ぎゅー。

 再び僕の腕に抱き付いて、自分の頬をすりすりと当ててきた。

 音で表すとべたべた。またはいちゃいちゃ。

「~~~~~~~~~~~~~」

「~~~~~~~~~~~~~」

 二人が同時に震え始める。

 クドラクとクルースニク。

 意外なところで波長が合う。

 そして、

「い、いいから! 離れて、ください!」

 栗栖さんが無理矢理、僕からこの子を引き剝がそうとする。

「あー……」

 でも、さすがに可哀想に思えてきた。

 この子は別に害がある訳じゃない。ただ、なぜか僕に甘えてきているだけだし。

「ま、まあまあ。栗栖さん。そんなに怒らなくても」

 どうどうと宥める。

「だ、だって」

 ちょっといじけるように頬をぷくっと膨らませ、

女の子ですよ(ヽヽヽヽヽヽ)、その子。何があるかも分からないじゃないですか」

 そう言った。

「うーん」

 と、僕は、素朴に、

「え。男の子じゃないの、この子」

 と、返す。

 すると、

「は?」

 ぷっちん。

 と、何かの幻聴が聞こえてきた。

 何かの筋が切れたみたいな。

 何かのスイッチを押したような。

 幻聴。

 栗栖さんがわなわなとわなないてから、


「その子、スカートを(ヽヽヽヽヽ)穿いている(ヽヽヽヽヽ)んですよ(ヽヽヽヽ)! どこからどう見ても女の子じゃないですか、何言ってるんですか、もう!」


 と、魂の叫びをあげた。

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