表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.9
146/368

145 三者三犬

 ちょうどその頃、月城町の住宅街の屋根の上を飛んでいる二つの影があった。

「なあ?」

 一人の少女が素朴な疑問をぶつけた。

 クドラクである。

 クドラクは自分の目の前をものすごいスピードで疾駆している彼女に向かって、

「……どうしてそんなに急ぐ?」

 走りながら彼女はずっと不思議だった。

 常識に疎い彼女でさえ、ちょっとこの人おかしいんじゃないの? と、思うぐらいには彼女の様子は少しおかしかった。

 なんとなくだけど……そう思っていた。

 だけど、

「ふふふ。何か勘違いしてますね。別に焦ってなんかいませんよ」

(あれ……?)

 そこでクドラクは自分の誤解に気が付く。

 梨紅の持っている刀のせいで何か異様に感じていたのだが、梨紅はいたって冷静だった。口調も普通。態度も普通。内容も普通。

 まったくの誤解。

「……実は怒っているんじゃないのかなって思ってた」

「あはは。そんな訳ないじゃないですか」

 梨紅が爽やかに笑う。

 やっぱり気のせいだ。あんなに笑ってる。

 クドラクは人知れず安心。

「そうだ」

 と、今度は逆に梨紅の方からクドラクに問いかけてきた。

「ちょうどいい機会だから教えてください」

「何を?」

「実のところ私って吸血鬼のことってあまり詳しくないんですよね。吸血鬼って色々な迷信があるじゃないですか」

「まあ、そうだね」

「あの……手足を切断してもまた生えてくるって話本当ですか?」

「そんなのあるわけないよっ!?」

 思わずクドラクが突っ込んだ。

「むぅ……」

 すごく残念そうにしている梨紅。

 もしその話が本当だったら何をする気だったのだろう……?

 と、すごく聞きたいクドラクであったが、聞けば後悔する気がして聞かなかった。ちょっとだけ大人になった。

 しばらく二人は跳び続けた。

 すると、

「あ」

「え」

 二人が同時に驚いた。

 探していた少年の姿を確認することが出来たのだ。

 それは、嬉しい。

 二人の目的であった少年を見つけることが出来たのだから。

 当然、嬉しい。

 でも。

 二人の表情は微妙だ。

 複雑と言ってもいい。

 状況も少し奇妙だった。

 まず、少年が何者かに追われていた。

 正体はよく分からないが、女。

 修道服を身に包んでいるシスターがかなたの後を追っている。それは見て取れる。

 だが、二人はそんなことには気が付いていない(ヽヽヽヽヽヽヽヽ)

 二人が衝撃を受けたのは何やらものすごい形相でかなたの後を追いながら、時折ナイフを投げている危険人物ではなく。

「な、ななな」

「どうして……」

 少年が叫んでいた。

「ちょっと! いい加減離れてくれないかなー! 跳びにくいよっ!!」

 ぎゅーっ。

 二人が同時にわなわなと震えている。

 それは怒りか。嫉妬か。

 どちらでもいい。

 ともかく耐えることの出来ない感情が二人を支配しようとしていた。

 そのことだけは確かなのだから。

 かなたは逃げていた。

 シスターから。


 ――謎の子供に抱き付かれたまま。


 ぎゅーっと。

「は、ははは……」

 子供は頬を染めている。

 ぎゅーっと。

 抱き付いたまま。

「……」

「……」

 二人が同時に互いを見やり、

「……」

「……」

 こくっとこれまた同時に頷いた。

 梨紅の中で、

“やれやれ……”

 という声がしたが、梨紅が気が付いた様子はない。

 やがて、

「かーくん!」

「カナタぁ!」

 限界点を超えた二人の少女が雄叫びを上げる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ