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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.9
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144 三者三犬

 それから一時間ほどは逃げ続けた。

 僕は逃げ続けられたことよりも、

(…………この子)

 僕の手を握ったまま僕の後をすんなりと付いてこれているこの子供のことに驚いていた。

 僕は全力で逃げている。

 僕は何よりもあの人が苦手なのだ。

 だからこそ全力全開、全力全身、全霊全力を持って逃げている。

 しかし、

「……?」

 この子はその僕に汗一つかかず、息も荒らすことなく、何事でもないように涼しい顔で隣を跳んでいる。

「キミは……」

 少年(?)は、

「……」

 答えなかった。

 相変わらずの無言っぷり。

 やっぱりこの子は口が利けなかったりするのだろうか。

 あまりにも喋らなさすぎる。

 僕が若干の不安を感じつつ、少年(?)を見据えた。

「……」

 少年(?)は意味が分かっていないように小首を傾げる。

 僕はそんな少年(?)を見やり、

「……はは。大丈夫」

 とんっと胸を叩いてから笑いかけた。

「あの人は怖いけど、キミのことは絶対に守ってあげるからね」

 せめてこの子だけは守ろう。

 この子が何者であろうとも、この子を巻き込んでしまったのは僕の責任だ。

 だったらせめて、それぐらいの責任は果たすべき。

 そう思って、そう言ってみたのだけど。

 だけど……。

「わっ、な、何々!?」

 ぎゅーっといった感じに少年(?)が僕の腕に抱き付いてきた。

 僕を見上げた顔が若干上気している。

 意味が分からなかった。

 何で急に!?

 少年(?)はべったりとくっついたまま、

「……」

 無言でこくこくと頷いていた。

 ダメだ……。意思の疎通が出来ていない……。

 それに、

「あの……ちょっと、離れてくれない、かな?」

 今は恐怖のシスターから逃げている途中なので、こうもびったりとくっつかれてしまうと非常に動きにくい。

 と、僕は思っている。

 しかし、

「……」

 少年(?)の答えは、

「……」

 ふるふる。

 首を小さく横に振ってから、さらにぎゅーっと抱き付いてきた。

「ぶはっ!?」

 背後の方で何かが噴き出したような音がした。

 何事かと思い振り返る。

 …………。

 正直、嘘でしょと思いました。

 背後を振り返った時、セラさんがいた。それは……まあ。そりゃそうだろ、と思う。

 でも。

 僕が素直に心の底から嘘でしょと思った理由は。

「はあ……はあ……、ちっ、ですわ! カメラを持っていないわたくしを恨みますわ。せめて、せめて! 美しい少年同士の仲睦まじい様子をこの目に、いや! まなこに、心の目に焼き付けておかなくては~~!!」

 何やら悔しそうに理解不能な世迷言を叫んでいる。


 ――鼻血を出しながら。


 もはや自分の容姿とかそういうのに興味はないんだろうか。

 この人は本当に色々惜しい。

 絶世の美女。

 現代に蘇ったクレオパトラ。オードリー・ヘプバーンの再来。

 そう表現されてもおかしくない容姿なのに。

 僕が少年(?)に抱き付かれているのを見て。

 鼻血を流していた。

 ぞっとした。

 本当に単純な寒気が背中を走る。

 ……あんなに綺麗な人なのに、本当に、本っ当にもったいない!

 あと、怖い!

 僕たちを追いかけてくるというシチュエーションだけでも、まるでホラー映画のようなのに、さらに鼻血まで出している。シチュエーションだけを見ればギャグなのに、何かホラー。

久遠くおんくん、ぜひ、ぜひにもその少年のお名前を教えてはいただけないでしょうか! 名前があると妄想が捗るのです! 例えば楽斗がくと×かなたのような近親相姦モノもそそります。親子のいけない情事はすでに妄想いたしました。典明×かなたの親友だと思っていた相手が初恋だったみたいな甘酸っぱい関係もたまりません。……ですが、わたくし、久遠くんの知り合いをあまり知りませんので、これ以上妄想が捗らないと思っていたところに、そのような逸材をあなたが連れてくるとは。もはや、これは神の意志ですわ!」

「人の親とか友人を妄想の糧にするのやめてもらえませんか! マジで!」

「わたくし、久遠くんは総受けの素質を見込んでおりまして、リバーシブルという可能性も考えましたが、どうしても久遠くんは受けなのです。あ、ちなみにリバーシブルっていうのは攻めにも受けにも対応出来るBL超人のようなものですわ」

「何その弱そうだけど絶対に戦いたくないような超人は!?」

 やっぱこの人、怖いよ!

 何が怖いってこのひと妄想するためだけに僕のことを追いかけているだけじゃなく、この子も思いっきり巻き込もうとしていることが、何よりも怖い!

「だ、誰が教えるかばーかばーか!」

 ぎゅっと握る手に力を込める。

 絶対に巻き込めない。

 この子の貞操と常識は絶対に守らなければ。

「……」

 またもや顔を赤くする少年(?)。片手で頬を抑えて、少しだけ甘えたような顔で僕を見上げている。

「大丈夫。絶対に守るから!」

 と、安心させるような言葉を投げかけてから、

「いい? 一回跳ぶよ。屋根の上」

 こくっと少年(?)が頷いてから、

「っ」

 跳んで屋根の上に着地。

 夕方時だとやっぱり人の目がついてしまう。

 あんな人を人の目につけてしまうのは世界の常識が壊れてしまう。

 だからひとまず屋根の上まで登ろう。

 あの人から逃げるのには慣れてるから、大丈夫。


「素晴らしいコンビネーション……」

 見上げながら称賛するセラ。

「本人たちは気が付いているのでしょうか?」

 口元に笑みが浮かぶ。

「一朝一夕で身に付いたモノではないようですね。昔からの知り合いなのでしょうか? ふふふ。ますます欲しい。あの……妄想の種」

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