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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.9
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142 三者三犬

 子供はどこか古めかしい印象の子供だった。

 年頃はちょうど一三か一四ぐらいの年頃で、この教会に集まっている子供たちの中では年長さんという感じ。

 顔立ちはどことなく中性的で男の子にも女の子にも見える。

 ただ、何となくだが。この子は男の子……だと思う。

 ほとんど勘。

 それに……。

 表情は黒髪のおかっぱの前髪で隠れているのでよく見えない。目元が見えないと、性別の判断がしにくいのだが、何となく直感でこの子は男の子ではないのかと思った。

 朱色の古めかしい服装はどことなく他の子供たちと比べると少し異色だ。

 他の子たちが現代の服装であるとするのならば、その子供の服装はどこか時代錯誤的な雰囲気を醸し出している。

「えっと……」

 僕は初め、少し戸惑った。

 今までここの子供たちに感じていた違和感とはまた別の違和感をこの目の前の子供に感じていたからである。

 ……何なんだろう、この、奇妙な感じは。

「くすっ」

 子供が微笑を浮かべる。

「……っ」

 不覚にもちょっとドキッとした。

「くすくす」

 少年(?)は相変わらず笑ったままだ。そして、そのまま僕の方へと歩いてきた。

 ちょっと後ずさる。

 そして、

「………………」

 そのまま僕のお腹に顔を埋めた。

 つまり。

「えっ?」

 僕はこの子に抱き付かれた。

 な、何で!?

 訳が分からなかった。

 確認するまでもないけど……一応。

 僕はこの子を知らない。

 初対面。

 ……それはそうだ。僕はここに来るのは初めてなんだから。

 この子と町のどこかでニアミスしたような記憶もない。……まあ、あったとしてもきっと覚えていないんだろうけど。

「あの……えっと、き、キミ……は?」

 いつまでも困惑して固まっている場合じゃない。

 とりあえず名前を聞いてみたりして。

 結果は、

「…………」

 無視であった。

 何だろう……。泣きそう。

 ……というか、何でこの子は僕に抱き付いてきたりしたんだろう? ってか、そろそろ離れて欲しいんだけど……。

「…………」

 そう思っていると、

「…………」

 僕に抱き付いたまま顔を上げてきた。

(あっ)

 少年(?)が顔を上げると前髪がさらりと揺れ、今まで前髪で隠れていた表情が現れる。

 ちょっと、かわいい。可愛いんじゃなくて、かわいい。

「……」

「……」

 しばし見つめ合って、

「……」

 にこ。

 少年(?)が笑顔を浮かべた。

 ぎゅ。

(ほっんと!? 何なんだこれ~~!?)

 訳が分からないとかそう言う次元の話じゃない気がする。

 この子が仮にものすごく人懐っこい子だとしても、初対面の人間に笑顔で、しかも同性の僕に抱き付いたりするだろうか。いや、しない。そんなこと、あり得ない。このご時世、子供だって少しは知恵を付けている。警戒心と言う名の知恵を。

 でも……この子は……。

 すりすり。

 胸に顔をうずめて、我が子のように甘えてくる。尋常じゃない懐きっぷりだ。

 警戒心なんてまるでない。

 すりすり。

 いつまで経ってもこの子は僕のお腹に頭をすりすりしている。単純に考えて、甘えているのだとは思うのだが、なぜこんなにも甘えられるのかという心当たりがまったくないのだ。

 だから、その、困る。

 甘える分には……まあ、いいんだけど。

「…………」

 視線を上げてみた。

「…………ど、どーも……」

 すぐ下げた。

 驚くほど人がいた。

 教会っていうのは結構人がいるもんだと改めて思う。

 今、ここは礼拝堂を出た教会の入り口近くの広場。

 当然と言えば当然なんだけど、入り口の近くということは教会から出ていく人、教会の中に入ってくる人なんかが色々と行き交う。行き交えば、当然ながら人の出入りが激しくなり、人の視線なんかも多く集まる。

 人の視線が集まれば、当然、

「わ~」

 と、いった感じの驚きの視線を初め、

「きゃ~! きゃ~!」

 そう悲鳴を上げながらスマホを僕たちに向け、シャッター音を鬼のように鳴らし続けている女の人なんかがいた。

 ……何で?

 と、ともかく!

 このままここにいたんでは、何らかの誤解を生む可能性がある。

 特に。

 事案とか、事案とか、事案とか……あと、やっぱり事案とか!!

 今の時代、子供に挨拶をしただけでも事案になってしまう寂しい世の中です。抱き付かれたこの状態は何となくヤバい気しかしない。

「ちょ、ちょっと!」

 もう四の五の言っている場合ではなかった。

 僕は勢いそのままに少年(?)の手を取って、すぐさま走り去った。

「……」

 なぜか照れたように顔を赤らめる少年(?)。

 掴んでいない方の手で温度の上がった頬を宛がっている姿が妙に艶めかしい。

 でも、今は!

「違うんですうううううううううう!」

 逃げるが勝ちでしょ!

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