133 三者三犬
夕刻。
結局クドは放課後になっても僕のところには来なかった。
もしかしたらまだ眠っているのだろうか。
いや……さすがにそれはないか。
もしかしたら母さんたちと一緒にいて何かをしているのかもしれない。
最近はクドと一緒にいることが多かったので一人になるということが珍しく感じている。寂しいとはまた少し感じが違うのかもしれないが、少しだけ物足りなくは感じていると思う。
白檀の家である教会への道すがら、
「今日は本当に悪いな」
「別に気にしてないよ。昼、奢ってもらったしね」
「そろそろ解決してやらんと子供たちが不憫でならん」
「白檀は意外と子供好きだよね。見た目とは大違いだ」
「なにおう」
他愛のない話をしながら進んでいた。
そんな中。
ふと、疑問が浮かぶ。
「でも……どうして僕に頼んだの?」
聞かれたことに驚いたような顔をする白檀。
……というよりは、呆れている?
「そりゃお前がお人よしだからだろ」
こけた。
「な、なんだよそれ~」
もっと大それた理由があるのかと思った。
親友だとか。お前しか頼りになる者がいないだとか。
期待も正直、若干した。
でも、僕に頼んだ理由はたったの一言。
お人よし。
……否定できないけど。
「まあまあ、そんな顔をするな。褒めているんだ。これでも」
「これでも?」
「お人よしってのはそれだけで才能だ。この時代、お前のようなレベルでのお人よしは中々いない」
「……なんか、褒められている気がしない……」
「ま、気にすんな」
こういうサバサバした態度が白檀のいいところでもあり悪いところでもある。一見、白檀典明という男はちゃらい。チャラ男。
肌は焼けているし、耳にはピアスもあり、髪はツーブロックのショートヘア。多分、初めて彼のことを見た人はきっと距離を取りたがる。
何というか……ちゃらい。
でも、実際のところ。白檀はいうほどちゃらくはない。
教会の生まれということもあり、愛読書は聖書なので割と常識人。
付き合うまでは距離を取りたがるかもしれないが、実際付き合ってみると結構イイ奴なのでこういう白檀の態度や言動なんかはあまり気にならない。こういうヤツ。それで片が付く。
「あ、そうだ」
歩きながら白檀が何かを思い出したように話を切り出した。
「そういえば……お前、この間の日曜どっか行っていたのか?」
「え?」
「何か……お前を駅前で見たってヤツがいてさ」
「ああ」
何のことかと思ったが、何のことはない話だった。
「ちょっと温泉にね」
「はーいいな」
「白檀の場合はあんまり遠出は出来ないか」
「まーな」
白檀は教会で預かっている子供たちの世話があるので、ほとんど無休で教会で働いている。奉仕活動とはまた違うが、子供の世話やらなんやらで白檀は学校に通っている時以外はほとんど自宅兼養護施設になっている教会の中にいる。……いいヤツだよ、ほんと。
ちょっと尊敬してしまう。
しばらく談笑しながら歩いていると、
「もうすぐ着くぞ」
白檀が歩くスピードを少し緩めてから、
「お前はウチに来るのは初めてだったか?」
「うん、まあね」
「そうか。初めてだったか。悪ガキとかもいるが基本的にウチで預かっている子たちはいい子たちばかりだから、あまり気負わずに接してくれ」
「はは……了解」
そしてまた歩くスピードを元に戻す。
教会か。
初めてだな……こういう場所は。
ま、白檀もいるし。何とかなるだろう……。
(ん……?)
ふと。
何かの気配を感じて。
「……」
振り返る。
しかし、何もいない。
首を傾げ、気のせいだったかな? と、思って。
その時はあまり気にせずに気配のことは気にも留めず白檀の後ろをついていった。
ちなみに。
感じ取った気配は。
三つ――。