120 晴れのち再会、ところによって湯気
戸を閉めた後、クラリスは大きな。とても大きなため息を吐いた。
「はぁ~……」
今さらながらひどく後悔をした。
口から勝手に零れた言葉に。自分が無意識の内にアイツに思っていたことに。とても。ひどく。嫌気が差した。
どうして。
自分はこうなんだろう……。
幸せが憎い。
幸せが欲しい。
胸が痛い。
締め付けられるように。
痛む。
その痛みを誤魔化すように、手渡されたカップケーキをしげしげと眺めた。
「……かわいい」
言葉通り、あいつの渡してきたカップケーキはとても可愛かった。
食べ物を見て可愛いとか思ったのは初めてかもしれない。
別に特別な装飾が施されている訳でもない。シフォンケーキのカップ版。これが工場か何かで大量に生産されたようなものであればクラリスはきっとこれを見て可愛いだなんて決して思わないだろう。
ただ。
これは違った。
このカップケーキは。
家族の温かみがあった。
クラリスにはない。
家族の味。
手に入れたくても。
簡単には手に入らない。
愛情の形。
「…………」
クラリスはふるふると首を横に振って。
暗い部屋の中で。
「…………おいしい」
もしゃっとカップケーキを食べた。
カップケーキは。
とても、甘くて。
とても、好きな味だった。
(朝……起きたらお礼とか言った方がいいのかな……)