109 晴れのち再会、ところによって湯気
夕餉を食べ終わってからもう一度、露天風呂に向かったが結局覗き魔が現れることはなかった。
夜が更け初め、クドがうとうととし始める。
「カナタぁ……」
「はいはい。今、布団を敷くからね」
手で瞼を擦るクドを部屋の隅に追いやってからふかふかの布団を敷く。
すっかりおねむ状態のクドを抱きかかえて、布団の上に寝かしてあげた。クドは眠そうな瞳でこちらを見て、
「うぅ……まだおきてる……」
「はは。何言ってるの。よい子はもう眠る時間だよ」
「うぅ……」
何かを言いたげに顔を上げたが、睡魔に打ち勝つことは出来ずにクドは眠ってしまった。
「すうすう」
ぽんぽんと布団の上から優しく叩いてやる。するとクドはゆっくりと眠りの世界へと落ちていく。
しばらく叩きながら寝かしつけてやると、僕はそっと立ち上がってからクドの元から離れていった。ゆっくりと襖を開き、彼女の眠りを妨げないようにと、音を殺して外に出る。
僕は、
「ふう」
と、小さくため息を吐く。
結局、今の今まで僕は何も出来ていなかった。
オーナーは僕たちに多大なる期待をしている。心ばかりの夕餉も『桜の間』だなんていう大それた部屋を用意したのが何よりの証拠である。
その期待はあまりにも過剰ではあるが、それは言い換えればそれだけ困っているということになる。何とかしてやりたい。そう思う。
けれど。
どうしてやればよいのだろう。考えるのはそのことばかりだ。
まあ……。まずは、やっぱり。
覗きを見つけることだろうな。
それをしなければどうしようもない。
「はあ……」
僕はゆっくりと顔を上げると、
「もう一回……行ってみようかな。お風呂」
何となしにそうぼやく。
少しお風呂に入ってさっぱりとしよう。
それからまた僕は部屋にこっそりと戻って着替えと手ぬぐいとタオルを持って再び部屋を出た。クドは布団の上ですやすやと寝息を立てていたので、起こすのも忍びない。そう思って極力音を立てずに部屋を出る。
先ほどはクドに体の洗い方やクラリスさんが乱入するというハプニングのせいであまりちゃんと体を洗えなかったので、ちょうどいいとも思った。
大浴場に行くか露天風呂に行くかで少し悩む。
廊下を道順に辿っていくと大浴場への道と露天風呂の道に分かれていた。
「う~ん」
少し悩んだが、小さく頷くと、
「やっぱりこっちかな?」
僕は露天風呂への道を選ぶ。
まだ諦めきれていないので、少ないチャンスを有効的に使うことにした。男の僕が囮になることなどあり得ないが、何かの間違いで覗きが現れるかもしれない。そう思って、露天風呂へと歩みを進めていく。
はあ……。
何とか今日中に解決出来ないものかな。
一泊二日だから、チャンスはもう今日しかないぞ……。