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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.8
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107 晴れのち再会、ところによって湯気

「で?」

 服を着替え終わってから脱衣所の中で三者三様の反応が起こる。

 まずは僕。

 基本姿勢は正座。浴衣姿での正座というものは中々クルものがある。お風呂に入ったばかりだというのにすぐに膝が汚れるという事実はこの際なかったものとする。とりあえず正座しないと怒られる。そう思ったので僕は何の迷いもなく正座をして、いつでも土下座に移行できるように準備に抜かりはない。

 情けないヤツ。

 ……自分でもそう思う。

 でも……怒られたくない!

 怖いから!

 たった一回だけ出逢っただけだが、とにかくクラリスさんに対する苦手意識が半端ない。一度目はパンツを見て怒られ。二度目はパンツを見て怒られ。三度目はパンツを見て怒られ。

 あれ?

 何だか怒られた理由が果てしなく情けないような気が……。

 と、ともかく!

 とにかくこの子には怒られっぱなしだったような印象しかない。印象どころか事実なのだが、それを印象と言う便利な言葉で誤魔化す。日本語最高。

 いかに彼女がプライドの高い少女なのかは骨身に染み渡るほど理解していたので、とことんにまで下手したてに出る。

 そんな情けない僕をクラリスさんは腰に手を当てて仁王立ちで見下ろしながら、色々と文句を言っていた。

 主に、

「見た?」

 と、言った具合の質問内容。

 僕は、

「見てないです!」

 と、全否定。

 まぁ……嘘な訳なのだが。

 正確には見た、というよりは、見えた。

 だがそんなことを口走ってしまえばクラリスさんの性格上、とてつもなく怒られる。怒られるのが嫌で嘘をつく。何だか宿題をやっていない子供みたいだ。……どこまで情けないんだろう。

 少し涙が出そうになる。

「そう。見てないの」

「うんっ! うんうんうんっ!」

「そう。……少し質問いい?」

 冷ややかな目をしつつ、

「簡単な心理テスト。ちょっとだけ答えてくれるかしら?」

 クラリスさんがそう言った。

 ……NGワードは『大平原』。もしくは『平らな物体』に関連する全て!

「……よし」

 覚悟を決める。ここが正念場。気を張れ、僕!

 迂闊な答えを漏らさぬようにクラリスさんの唇の動きに全神経を集中させる。ミスリードや誘導尋問の類に防御線を張り巡らせた。

「どんとこい」

「じゃあ質問。…………………………見た?」

「ひどいっ!? 心理テストって言ったのに!?」

 外角ギリギリのクサい変化球を予想していたところに、ストライクゾーンど真ん中に直球をぶん投げてきた。何と素晴らしい采配か。揺さぶりとしては最高の球だ。思わず、

“見た”

 と、言いそうになってしまった。

 だが僕はなんとかその球を見逃した。ストライクは一つ取られてしまったが、アウトにはなってない。なのでセーフ。色んな意味でセーフ!

 ボールカウント。ノーボールワンストライク。

「まぁ……それは冗談として。何でアンタがこんなとこにいんのよ」

「……え、あ、ああ。それは……」

「ここにいるのは八神だって聞いてたんだけど」

 不機嫌そうな顔で喋るクラリスさん。よかった。どうやら完全に話題が逸れたらしい。閑話休題。どうやらクラリスさんは裸を見られたことをそこまで怒っていない様子だ。安堵安堵。

「クラリスさんも知ってるよね、八神環奈って人。その人と僕は親戚同士なんだ。僕が甥でその人が叔母」

「なによ。やっぱり身内びいきじゃない」

「へ?」

「なんでも」

 ぷいっと顔を逸らしつつ、

「あ、そうだ。アンタにもう一つ聞いておきたいことがあって」

「何かな?」

「もし……私が心理テストを出していたとしたらどんな問題が来ると思った?」

「えーそうだな。あ、そうだ。ピクニックに行くなら『平原』と『山』どっちに行きたいかってことかな~? あはは」

 ぴくっ。

 誰も気が付いていないがクラリスのこめかみがやや動く。

「あとは……そうだ。料理で大切な道具は『包丁』か『まな板』かってことかな~? あはは」

 ぴくぴく!

 さすがに今度は気が付いた。右側頭筋を痙攣けいれんさせて、クラリスさんの体が全体的にわなわなと震えていた。

 修羅。

 目の前に少女の面影は一切なく、……修羅がいた。

「で。アンタはどう答えるつもりだった?」

 静かに問う。

 嵐の前の静けさとはこのことか。もう下手なことは言えない。ボールカウントはノーボールツーストライク。空振りも見逃しも出来ない。集中しろ! 死ぬな!

 顔をキリっとさせる。

「ピクニックなら『山』。料理に大切な道具は『包丁』」

 間違ってない……はず。

「好きな文房具は?」

「そりゃ『下敷き』……って、しまった!」

 想定外の質問が飛び交ってうっかりとして頭の中の防御線の答えを打ち損じてしまった。ピッチャーが動く必要もないぐらい捕球の簡単なボテボテのピッチャーゴロ。

 どう転がってもアウト。

「いっぺん! 死ね!!」

 気が付いた時にはすでに目の前に脱衣所に置いてあった着替えとかを入れるカゴが押し迫っていた。

「そもそも私がアンタに出そうと思ってたクイズは『色』に関係する問題だったってーのに、アンタと来たら~~っ!! 平らで悪かったわねっ!!」

 ……NGワードは『肌色』だった……らしい。

 み、見誤った……。

 意外と頑丈なカゴが顔面を強打して崩れ落ちていく。


 ちなみに。

 クドはというと、

「んっんっんっ……」

 腰に手を当てながらフルーツ牛乳を呑気に飲んでいた。

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