104 晴れのち再会、ところによって湯気
最初はおっかなびっくりだったクドも入ってしまえば大いに温泉を気に入った。白濁したお湯を手で攪拌して、肩に手ですくったお湯を流し当てる。
「うい~」
とにかく気持ちよさそうだ。
顔を下半分お湯に浸してぶくぶくとさせて遊んだりしている。その様子を僕も目を細めてほっこりとしながら眺めていた。
(う~ん)
やっぱり現れないかな~。
クドの行動があまりにも子供過ぎる。見た目相応と言えばよく聞こえるが覗き魔をおびき寄せる囮としては成り立っていない。いくらなんでもこんな子供相手に欲情するような覗き魔がいるとは思えないのだ。色気がない。
やはり色気の要素に羞恥心と言うモノは大事なんだろうなと思った。簡単に言えば恥ずかしがる仕草。たとえばスカートが風で舞った時に裾を抑えながら朱に染まる頬。あーいう感じの“照れ”だとか、そういうの。
対し、
「あっははは♪」
クドは手でお湯を掻き分けてすい~っと泳いで遊んでいる。すっかり自分がどうしてこの温泉に入っているのかという目的を忘れて温泉を楽しんでいるようだ。
楽しいと思ってくれるのなら、それはそれでよいのだが。
色気はないよな~。
僕は苦笑しつつ、首筋辺りまでお湯に浸かった。
それからふと気にしたように、
「あ……」
露天風呂の周りに置かれていた衝立を見る。
そうだ、問題はまだあった。
どうやって覗き魔はここに現れるのかということ。
霧。
オーナーが言うにはここに現れる覗き魔は“霧の怪人”であるということ。
根も葉もない噂話をオーナーが信じ込んでいるのはこの露天風呂で霧を見たという話を信じているから。もしかするとそう信じないと心がやつれてしまうからかもしれないが、それにしても霧か。
よく、分からないなぁ……。
温泉の中で足を伸ばす。
あまりにも知識がなさ過ぎた。いくら考え込んでもいきなりそんなことを言われてもどうすればよいのか咄嗟には思いつかない。せめて専門職のスペシャリストが実際にいれば何かの知恵を貸してもらうものなのだが。
「ふう……」
ないものねだりをしたところでむなしいだけだった。
日がかげり、涼しい風が顔を撫でる。
(本当に……僕は出来るのか? あの人を助けることが……)
何となく重い空気が僕の心を重くしたような気がした。しかし、そんな僕の雰囲気を察してか、もしくはただの天然なのか。そんな空気をクドが、
「お~い、カナタ。そろそろ髪とか洗ってほしい」
たったの一言で打ち壊した。
そうだ。
忘れていた……。
問題は。
問題は、まだ。
あった……。