103 晴れのち再会、ところによって湯気
男性客が完全にいなくなってから、僕とクドは服を脱いで露天風呂の中に入った。ちょうど今は食事時。この時間に露天風呂にまでやってくるような客もそうそういないだろうから、何とも都合がよかった。
ちなみに今の僕は大変疲弊していた。
クドはきょとんとしている。
「どうしたの?」
「……なんでもないよ」
「???」
まず苦労したのは彼女の服を脱がすところ。
彼女。とにかく羞恥心がないせいで、すぐに服を脱いだ。
なまじ、家で母さんとお風呂に入っているせいでお風呂に入る時は服を脱ぐものだと認識があるせいで彼女は何のてらいもなく服を脱ぐ。
ひざ丈ワンピースも。下に着ていたシャツも。
――パンツまで。
“いっ!?”
とにかく全部見えた。
全部だ。全部。
初めてそれを見た時、僕は心をかき乱されて口から変な声が出た。いくらクドがちっちゃい女の子だからといってクドは子供過ぎないのだ。四、五歳ぐらいの女の子の裸であれば僕も何とも思わない。だが、クドはそんな子供過ぎる体型ではなく、微妙に年頃の。まさに微妙な年頃の娘の裸なのだ。
見てはダメな。
警察が動いてしまうような。
事案的な。
そういうアブナイ感じの……。
クドの裸。
薄い薄いと思っていた胸もよく見るとわずかだがちゃんと盛り上がっている。
“うん? わたしの胸がどうかしたか?”
と、クドが自分の胸に手を当てながら真っ直ぐとした視線で尋ねられて、我に返った。こっほんと大きく咳払いをして慌ててクドに背中を向ける。
クドは、
“???”
と、小首を傾げていた。
どうやら僕がどうして照れているのかをちゃんと理解していないらしい。彼女は今の自分がどれだけきわどい……というよりはアブナイ恰好をしているのかという自覚がないようだ。
“ほ、ほら!? この湯あみ着を着て!!”
そう言って僕はクドに脱衣所に置いてあった木綿の湯あみ着を渡す。男性用の湯あみ着がタオルのような形状をしているのに対し、女性用の湯あみ着は女性客が恥ずかしくないようにセパレート水着のような形をしていた。
“脱いだのに着るの?”
“そう! 着るの!”
“う~ん?”
クドは不思議そうにしていたが、何とか湯あみ着を受け取ってくれた。
“ふう……”
額の脂汗を拭う。
とにかく一つの山は越えたぞ……。
背中越しに衣擦れの音がする。僕はそれを聞くまいと首をぶんぶんと振ってみたり、耳を平手打ちしたり。とにかく試行錯誤をして生々しい音を遮った。
やがて、
“着たぞ”
と、背後からクド。
声に肺の奥から吐き出したような深いため息を一つ。湯あみ着を着てくれたのならばようやく対面しても大丈夫。
そう思って振り返る。
少し不安だったがクドはちゃんと一人で湯あみ着を着れていた。
一安心。
――――と。
思っていたのだが。
クドが歩みを進めた瞬間。
まさにその瞬間。
“おや?”
はらり。
そんな音を立てて、クドが身に着けていた湯あみ着が。
“落ちた”
と、事実を淡々と述べるクド。確かにクドの言う通り直前までクドの体を包んでいた湯あみ着が床に落ちていた。
ということは……。
つまり……。
目を見開き、硬直する。
また。
またである。
視界にははっきりと映っている。
小麦色の、裸身。
未発達ながらわずかに膨らみのある乳房。すべすべとしたお腹。
そして……。
“う、うわああああああああああああ!?”
次の瞬間、全ての思考回路がスパーク。
口から絶叫が漏れた。
そこから先の記憶はものすごく曖昧だ。
ただ、唯一覚えていることは。
クドに湯あみ着を着せてあげたことだけ。
後から分かったことだが、クドは湯あみ着をきちんと着ていなかったのだ。紐……、紐を……。
クドは湯あみ着の紐を結んでいなかった……。
豪奢な岩風呂。クドがそこにそっと足を浸す。
「お、おお~~」
少し驚いたように足を引っ込めた。
こちらを見て、何かを言いたそうに口をぱくぱくさせて、
「こ、ここ、ここ」
何を言いたいのかまったく分からなかった。
苦笑して、
「ほら」
手を取ってクドをリード。
おそらくクドが驚いていたのはお湯に足を浸した時のあの特有の感覚のせいだろう。
「怖くないから」
「う、うん」
手を握ったまま新たな感覚に挑むクド。
足を入れ、
「んっ」
ぴくんとする。
次に太もも。
「あ」
腰まで。
身をよじって。
最後に肩まで。
切なそうに眉をひそめ、
「うい~」
「うい~」
同時に声が漏れた。
経験者も未経験者も湯に浸かる時に出す声は同じだった。
少し面白い。