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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.8
102/368

101 晴れのち再会、ところによって湯気

 露天風呂に続く廊下。

 そこを歩きながら、ふとした疑問がよぎる。

 僕の隣を歩くクドに尋ねてみた。

「そういえばさ」

「うん?」

「吸血鬼が霧とかに化けられるとかいう話って本当なのかな? よく聞きはするよね。霧とかコウモリとかが一番有名だとは思うけど」

「……」

 クドは足を止め、少しだけ俯いた。誰が見ても分かる。少し、辛そうだ。僕の顔をじっと見つめ、そっと呟く。

「できる……と思う。吸血鬼にとって変身できるものは本性だから。変身とは少し違う。戻る。うん……戻るってのいうのが正しい表現だって思うな。……でも」

 そこで一度言葉を区切る。

「わたしにそれを求めないで……ほしい。その……」

 その目は。

 とても寂し気で、何かを隠しているような気がした。

「うん。参考になった」

「え」

 クドが顔を上げた。意外そうな顔だ。もっと根掘り葉掘り聞かれるものだと思ったのだろうか。しかし、僕もそこまで不躾ではない。

「そっかー。やっぱ吸血鬼が何かに化けるって話は本当だったのかー。そっかそっかー」

 うんうんと頷きながら前を進んでいく。

 あえて無視。

 あえてスルー。

 が、逆に不安になってきたのか。

「……聞かないの?」

 と、聞いてきた。

「うん」

 即答。

 クドがびっくりするぐらいの即答ぶりだった。

 その問いに対する答えは実に明快であり、

「言いたくないんでしょ? だったら言わなくてもいいよ」

 手をひらひらとさせて、これ以上の会話は無意味だと諭した。

「カナタ……」

「無理強いはしない、というより……したくない」

「え」

「そんな関係ではありたくないよ」

 振り返らずに答えた。

 なので、一体僕の言葉にクドがどんな顔をしていたのかは分からない。

「もし……言いたくなったら言って。それまでは無理に聞かない。でもいつかは聞きたい。クドのことをもっと知りたいから」

 にこりと笑う。

 笑ってみせた。

 笑える。

 僕はこの子に微笑みを返せる。

 それで十分だった。

「知っても……」

 クドがすがるような目でこちらを見上げた。

「変わらない?」

「うん?」

「今と。何も。変わらないかな?」

「うん。変わらないと思うよ。いや、変わるかも」

「……」

 ちょっと意地悪だったかもしれない。

 クドが伏し目がちになる。

 その頭をぽんぽんと撫でた。

「もっと親密になれる。そんな気がする」

 言葉にクドがきょとんとする。意味があまりよく分かっていないみたいに。

「ま、なんにせよさ。焦らなくてもいいよ。ただ、覚えていて。僕はキミの味方だから。何があっても。ね」

 最後にぽんっと頭を撫でる。

 撫でられた頭にちょこんと手を乗せて、少し考え込むようにクドが一度黙り込んだ。

 そして、

「くろい……けもの」

「え?」

「わたしの本性は……黒い獣」

 そう言った。

 クドは歯切れ悪く、

「まるで悪魔のような狼だ。……きっと」

 とても複雑な表情で、

「見れば……遠ざける。だから……あまり」

 羽虫が鳴くようなか細い声で、

「見られたくない……」

 僕は近づいて。

 思わず。

「えい」

 むにっと彼女の頬を伸ばした。

「ひゃ、ひゃなた……?」

「言ったろ。焦らなくていいって。こういうのは焦るとろくなことがないんだ。だから焦って全部話そうとしようだなんて思わないで。……それにどんな姿のキミでも僕はキミのことが好きなんだから、嫌ったり遠ざけようだなんて思わないよ。安心して」

 しばらく呆気に取られていたクドだったが、やがてその表情から緊張がほどけ、穏やかに笑ってみせた。

 安堵し、僕も微笑み返す。

 それにしても……。

 黒い獣……か。

 黒。

 アレとは違うのかな……。

 あの姿は黒い印象の強い姿だったけど、獣という感じではなかったよなぁ……。

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