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第九十七話:息子の為に!

 翌日。俺達はエルドリアを経由せず、大きく迂回するルートを進んだ。

 距離は長く、若干険しくなり、砂走りとの遭遇率も上がるルートだったが敵の待ち伏せを想定するとこちらの方が安全ではないかと言う考えだった。

 またアデリシアの体調とリベリアの体力を考慮して休憩の回数も多く取っている為、当初の予定よりも大幅に時間をかけていた。

 そのリベリアは今、長かった髪をざっくりと短くし、白い鎧から何からを全て処分してアデリシアとロゼッタの持っていた服に着替え、その上からアリアが予備に用意していた外套を羽織っている。これで彼女を直接知らない者なら解り易い特徴が無くなった事でかなり誤魔化せるようになったと思う。

 

「皆、もう少しでベルゼム街道に出る。そこからは舗装された道になるから歩きやすくなるので頑張って」


「ふう。やっと砂地とおさらば出来るのか」


「あの砂山を下ったら街道に出る。少し歩いた先にオアシスがあるから今夜はそこで宿泊予定」


「オアシスがあるの? なら水浴びも可能?」


 ロゼッタの質問にアデリシアとリベリアも真剣な目でアリアを見つめている。女子連にとってはかなり切実な問題なのだろう。

 

 エルドリアを迂回した事でその後の道には小さな井戸ぐらいしか無かったからなぁ……。


「問題ない。思う存分楽しめる」


 アリアの解答に女子連は大喜びしている。

 その後暫くして、思い出したかのようにアデリシアが自分の背負い袋をゴソゴソと漁りだし何かを探し始めた。


「あれ? おかしいなぁ……。確かここにあったと思ったんだけど……」


「何を探しているんだ?」


「ロープと猿轡なんですが……」


「まてぇい。縛る気だな? お前俺を縛る気だな? 後、ロープは解るが猿轡は要らねぇだろ!」


「あ、それもそうですわね。じゃあロープだけで」


「ロープならここにある」


「いいから待て! 普通に俺を縛る流れで進めるな。そこ! 不思議そうな顔をするな! 何で水浴び=俺が覗くという方程式が出来ている」


 俺の制止にアデリシアとロゼッタが何で止めるの? 的な表情をしている。

 どうにも俺の信頼度がストップ安過ぎる。


「大体俺達は何時狙われるかも解らない状況なんだぞ? 縛られた状態で襲われたら俺どうしたらいいの? 嫌だよ俺そんな死に方……」


 俺の言葉に二人も状況を思い出したのだろう。どうするかと顔を見合わせながら相談しだした。


 そして……。

 

「あはははっ! 気持ちいいぃぃぃ!」


 アデリシアの喜びの声が聞こえてくる。余程嬉しいのだろう。テンションがかなり上がっているようだ。

 俺とロイはそんな女性陣の喜びの声を少し離れた場所で聞いていた。

 水浴びが見えず、しかし何かあれば即座に駆けつける事が出来るベストポジションに俺とロイが並んで座っている。

 結局その後、ロイの「僕が先生を見張ってるから」の一言で問題は解決した。したのだが……。


「エルファリアでもそうだったが、なんでロイの信用度はストップ高なんだ?  俺は納得いかないぞ。 お前だって男だし、アデリシアに惚れてるんだろ? 何でなんだ? 俺とお前の何が女性陣の信用度を変えているんだ?」


「い、いや……。僕にはちょっと解らないです……」


『お主がスケベなだけじゃろ? 坊主はその辺り常に紳士的な行動をしておるからな』


「俺はスケベじゃないぞ! 常に紳士たれが俺の行動規範だ。大体俺はお子様には興味がないんだ。何故それが解ってもらえないんだ……」


「え? でも先生はアリアに手を出そうとしましたよね?」


「まて、あれは冗談だ。冗談に決まっているだろ」


「それに、聞いた話ではアディが寝込んでいた時、透けた服をずっと視姦してたって聞きましたけど?」


「視姦した訳じゃねぇよ! 俺だって気づいてなかったわ」


「あとロゼッタの太ももを良く凝視しているとかアディが言っていましたけど?」


「それは完全に冤罪じゃねぇか!」


『そう言う事を思われている時点で、やはりお主の行動に問題があるという事じゃな。』


「くっ……。だが俺も男なんだから……、ムラムラする事だって……。大体ロイは何でそんなに平然としていられるんだ? お前だって男なんだからムラムラする事だってあるだろうが?」


「い、いや……。そんな面と向かってそう言う事を言われると返答に困るんですが……」


「何故困る? 男なんだから女にムラムラするのは自然な事だ。神の摂理だ。人として当たり前の事だ! なのに何故お前はそんなに……。まさか女に興味が……。お前まさかあの時温泉でクーサリオンに……」


「ちょっと待って下さい。それは無いですから。確かにあの時クーサリオンさんの筋肉談義で酷い目には遭いましたが、それだけですから!」


「そ、そうか……。良かった……。少し心配してたんだよ」


「思い出させないで下さいよ……。未だに夢で筋肉に魘される事があるんですから……」


 ロイがげんなりした顔で言う。そう言えば時折「き、筋肉がぁぁぁ」って寝言言ってる時があったなぁ……。ごめんなロイ。俺とシェルファニールの所為で心に傷を負ったんだね。


『まあ、単純にお主がスケベ過ぎるだけじゃろ? そ、そのなんじゃ……。お主の男としての悩みは、我がい……、何時でも解決してやるぞ? その……、まあなんじゃ……。お主も若い男じゃし、そう言う欲求は解消しておく方が良いじゃろう?』


 シェルファニールが少し照れた感じで嬉しい事を言ってくれる。

 

 そうだよな……。俺とシェルファニールの関係って、もうそう言う事しても良いような感じだよなぁ……。シェルファニールが良いと言ってくれるんだし、俺だって……。


 とそんな事を考えた時、突如俺の心の奥底から途轍もない不安というか恐怖というか罪悪感というか、そう言った感じの得体の知れない感情が湧き上がってくる。


「な、なんだこの震えは? 手、手が……。震えが止まらない? 手だけじゃない……。全身に震えが……?」


「せ、先生? どうしたんですか急に?」


『どうしたんじゃ? 主様よ。精神の安定が急におかしくなっておるぞ? まるで大型犬ドーベルマンの集団に囲まれた小型犬チワワのようにチビらんばかりに震えておるではないか?』


「わ、解らねぇ……。急に震えと寒気が全身に……」


 理由は解らないが原因は俺がシェルファニールとそう言う行為をしようと考えた事だろう。

 

 え? つまり俺はそう言う行為をしようとしたらこうなるの? 何その呪い? こんな状態で息子が活躍出来る訳がねぇ。下手したら横になったまま立ち上がる事すらしないかも……。


 暫くして震えも寒気も収まったが俺はこの呪いのような原因不明の現象をどうするかを真剣に考える。


「やべぇよシェルファニール……。俺、下手したら一生ナニが出来ないかも……」


『……難儀じゃなぁ……。まあ十中八九お主の封印された記憶が関係しておる現象じゃろうな』


 くそっ。つまり俺は息子の為にも封印された記憶を取り戻さなければならないのか。


「シェルファニール……。俺、絶対に記憶を取り戻すよ。絶対にだ!」


『い、いや……。決意は嬉しいのじゃが……、あまり真剣に言われると少し恥ずかしいのぉ……』


 真剣な様子で決意表明する俺と、それが少し恥ずかしいシェルファニール。そして俺とシェルファニールのやり取りが聞こえない為ボー然と俺を見るロイ。

 そんな事がありながら、いつしか陽は落ち辺りは夜の闇に包まれた。


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