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第八話:フェリスのおもちゃ

「試して見たい戦い方があるのですが、よろしいですか?」


「構わないわ、好きにしなさい」


 好奇心が疼き、表情が崩れそうになる。


 やっぱり、買って正解だったわ。


 装備置き場へ向かう高志を眺めながらそう考える。


 あの日、私は町の周囲に出没する魔物の討伐を終え城に帰る途中だった。


「ねえ、エリーゼ。あの人だかりは何?」


 町のはずれに差し掛かった時の事だった。ふと見るとその一画に多くの人が集まっている。


「あそこは、確か奴隷市場だったと思います。オークションでも行われるのでは?」


「オークション?」


 奴隷を買う時は、御用商人が城に連れて来るものだと思っていた。


「言っておきますが、あそこで売られる奴隷は価値の低いものばかりですよ」


 エリーゼ曰く、このような小さな町の市場で一般人相手のオークションなど、売れ残りの奴隷を捨て値で売り飛ばすだけのものだと言う。


「フェリス様のような身分の方が気になさるようなものではありませんよ。まして参加するなど……。まあ言うだけ無駄かもしれませんが」


 私の目の輝きに気づき、エリーゼは溜息まじりに言う。


「エリーゼは私の事をよく理解してくれるから好きよ」


 私は満面の笑みを浮かべエリーゼを見る。


「クラウス、トリスタン、私とともに護衛についてこい。カリウス、ロイドは入口付近に。他の者は馬と荷馬車を見ていろ」


 エリーゼが指示を出す。皆一様に諦めた表情をしながら指示に従う。


「皆、私の事をよく理解してくれるから好きよ」


 私はオークション会場に向かい歩き出す。その後ろを苦笑いをしながらエリーゼ達がついてくる。


 入口に着くと、商人が私に気づき走り寄ってくる。


「これはこれは、もしや貴方様はフェリス様では? お会いできて光栄で御座います。ようこそおいで下さいました」


「オークション、見せてもらってもいいかしら?」


「もちろんで御座いますが、あれは廃棄奴隷のオークションで御座います。別室でフェリス様に相応しい上質の奴隷をご案内させて頂きますが?」


 私がオークションを見たいだけで、奴隷を買いに来たわけではないと言うと商人はがっかりしながらも私を会場まで案内した。

 会場についてからも横であれこれ煩く纏わりつくので


「案内ご苦労様。あとは勝手に見させてもらうわ」


 多少の苛立ちを込めて言うと


「ご用命の際にはいつでもお声をお掛け下さい」


 若干冷や汗を掻きながら去っていく。


 まったく、下らないやつ……。


 小うるさい蠅を追い払い、私は改めて会場を見渡す。


「へぇ~、いろんな人が集まってるわね」


 私が周囲を見ながらつぶやくと


「そうですね、廃棄奴隷のオークションとの事ですので、壊す事が目的の被虐趣味の変態が多く集まっていると思いますよ。ええ、この会場にいるのは殆ど変態ですね」


 明らかに含みを持たせている。


「なによ、エリーゼ。私も変態だと言いたいの?」


「いえ、ただここに居るという事でそういう風に思われる事をご理解頂けましたら」


 しれっとした顔でそう答える。


「何故入る前に言わなかったの?」


「言ったら諦めてくれましたか?」


「そうね、いまさらそんな悪評が一つ増えたって対して変わらないわね」


 私には大量の悪評が付いている。

 貴族らしからぬ行動と言動、強大な魔法の力。

 変態の悪評が増えた所でいまさらだ。

 人がどう言おうと私は私だ。言いたい人には言わせておけばいい。


「少しは気にかけて下さると助かるのですがね」


 エリーゼは溜息をつく。


「まあ、そういうフェリス様を私は好きですが」


 貴方を見ていると退屈しない、と笑顔を向けるエリーゼに


「ありがと。私も貴方がいてくれると退屈しないわ」


 と笑顔で答えた。


 しばらくして、オークションが開始されたが、出てくる奴隷はどれもつまらなそうなやつばかりだった。


「どいつもこいつも、つまらないやつばかりね……」


 退屈そうにつぶやく。特徴もなければ、元気もない。どいつも死んだ目をしている。

 もう帰ろうかと思った時に、あいつが現れた。

 特に特徴は無い、容姿は普通だし、体は貧祖な部類だ。ただ、他のやつと違い目に力があった。


「こいつはちょっとはましね……」


 さて、こいつはどんなやつに買われるのだろう。

 おっ、さっそく手が上がった。


 今手を上げているのは、明らかに奴隷をいたぶるのが目的の変態デブだった。

 横につれている奴隷は目隠しに猿轡をされて全身に杭が刺されている。


「うわぁ……」


 ふと舞台に目をやると、あいつも明らかにドン引きしている。


 次の手が上がった。少しホッとした顔をしたかと思ったら、表情が固まり口の端が引きつっている。


 手を上げている客に目をやると、ドレス姿の中年の女だった。

 一見普通の貴婦人という感じだったが、よく見ると目隠しに猿轡をされ下着姿の奴隷が椅子にされていた。


「ぶふっっっ」


 思わずふいた。あまりにも自然にこの会場に溶け込んでおり、今の今までその奴隷にまったく気づかなかったのだ。


「楽しそうですね、フェリス様」


 エリーゼが呆れた口調で言うが気にしない。


 さらに別の手が上がった。今手を上げているのは筋肉ムキムキの男だ。

 変な奴隷も連れていないし、普通の客に見える。


「肉体労働系? 鉱山あたりの仕事かしら」


 前二人の変態に買われるよりはまだましだろう。少なくとも人としての尊厳は守られる。


「まあ、死亡率は高いけど運がよければ長生き出来るしね……」


 舞台に目をやると、あいつは顔を引きつらせている。


「肉体労働が嫌なのかしら? 奴隷の癖に贅沢な事を……」


 と思ったが、よく見るとなぜかお尻のあたりをもぞもぞとさせている。それに前二人の変態をみた時と同じような表情だ。


 ハッと気付いて手を上げる男をよく見る。


 男をよく見ると、確かに微妙な違和感を感じる。目が獲物をみるように怪しく光っている。さらに見ていると舌なめずりをし、股間のあたりが妙に膨らんでいる事に気づく。


「そっちか!」


 気付けた事に思わず喜んでしまった。エリーゼが何か言いたげだが気にしない。


 エリーゼは変態が多く集まっていると言っていたが、あいつらは特に際立っている。

 気の毒に思うと同時に、ふと悪戯心が芽生える。


「私が手を上げたら、あいつはどんな顔するだろう?」


 そう思ったら我慢できず、私は手を上げた。エリーゼ以外の護衛は驚いた顔をしている。

 あいつと目が合ったので、私は出来るだけ優しい笑顔をしてやった。

 どうだ、赤くなるか? 喜ぶか?


 真っ青な顔をしやがった……。


「あっ……、あいつ……」


 ふとエリーゼを見ると、無表情を装っているが……、よく見ると思いっきり笑いを堪えているのが解る。

 あいつは私をどんな変態だと思ったのだろう。

 顔が赤くなる。怒りも感じるが、それ以上の笑いが込み上げてくる。


 さっきの変態デブがまた手を上げた。変態女にホモ野郎もあとに続く。

 私もすぐに手を上げる。

 渡すつもりは無い……。


 あれは私のおもちゃだ!


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